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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第7章 私は魔法使いのイケメン
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第7話

 私の炎魔法で焼き払い、魔物の生命活動が完全に停止したことを確認したヨシュは、ようやくまともにニールくんと向き合うと、にっと口角を上げる。


「……なんだ、結構やるじゃん」

「えへへ……キミも強いんだね」


 三人にとっての仇敵を倒せたからか、ニールくんとヨシュは今までの張り詰めた雰囲気を僅かに取り払い、どこか安心した様子を見せている。

 そんな二人が穏やかに褒め合う一方、フィーは隠れている魔物がいないか確認していたようだったが、乱雑に並べられた机のひとつの前で立ち止まると、何かをじっと眺めていた。


「…………これ、なにかしら」

「どうしました?」

「地図みたいなんだけど、なんの地図だと思う?」


 彼女が見ていたのは、チュニス周辺の地図のようだった。よく見ればその地図の二か所には赤のインクで印がつけられており、何かの位置を示しているようである。

 それの正体は、魔王軍の基地の位置を示す地図だ。それぞれの印の横に拙い文字ながらも【base】と書かれていることから、前情報がなくても憶測することは可能だ。実際ゲーム中ではニールくんがそれに気付いてこの先に進むことになるから、わざわざ私が助言するほどのことでもないが、困ったことにニールくんはヨシュとの話に夢中になっており、こちらの状況に気付く様子はない。

 だから、あまりやりたくはなかったけれど、仕方なく私が伝えることにしたのだった。


「……これは、恐らく他の基地の位置……でしょうね」

「他の基地……?」

「ここと同じように、魔王軍が使用している基地の情報です。ええと……ここから南の、ウルム方面ですね」

「同じような基地……」


 チュニス以外にも基地が存在しているという事実は、フィーにとっては衝撃的なものだったらしい。

 この世界の多くの人は、魔物達は好き勝手に人間を襲っていると思い込んでいるが、実際のところは各地の基地で管理されそこそこ統率もされているし、所長となる魔族の指示にも多少は従順だ。ニールくんたちが“魔王軍”と呼称するのもそういった理由があったのだが、まさか魔王軍に複数の基地を作られるほどの盤石な基盤を築かれているとまでは思っていなかったんだろう(王国が魔王軍に対し後手に回っているのも、同じように魔王軍を侮っているからという理由がある)。

 少しの間考え込んでいたフィーだったが、地図を掴むと意志の強さを感じる目を私に向けた。


「行ってみますか?」

「うん、そうね。魔王の居場所が分かるかもしれないし」


 敵討ちが終わったばかりだというのに、既に先の事を考えているこの子は、私より年下なのに随分と切り替えが早い。でも、彼女のこの性格のおかげでニールくんも腐らずに先に進めたんだから、プレイヤーの私から見ても良い子でしかなかった。まあ、ちょっとトラブルメーカーではあるけど。


「おまえら、魔王を探してんのか?」


 私たちのそんな会話を聞いていたのか、ヨシュが急に割り込んでくる。まだ心を許してはいないらしく、一瞬むっとした表情を見せるフィーだったが、幸いにもヨシュ自身に気付かれることはなかった。


「うん。魔王を倒すつもりなんだ」

「なんでまた、そんな壮大な……」

「復讐よ」


 子供の頃から少年少女が世界を救う漫画やゲームを見てきたから感覚が麻痺しがちだが、普通の感覚をしていれば、子供二人で魔王を倒そうなんて思い立ったとしても、実際に基地を潰しにくるほどの行動力まではなかなか持てないだろう。

 そんなもっともな突っ込みを入れてきたヨシュに感心しつつ、ヨシュ自身もこの基地に潜入した以上同じ穴の狢であることも思い返していたが、この場で話し込みそうになっている三人の様子に気付き、私は慌てて止めに入った。いくらこの部屋の魔物は倒したとはいっても外からの増援がないとは限らないし、こんな場所でゆっくり話している場合じゃないからだ。


「みなさん、一度ここを出ましょう。話はそれからです」

「そうだね……キミも、それでいい?」

「ああ。もう用事は終わったから、構わねーぜ」


 結局、道中で残党処理は強いられたが、何とか無事に私たちは外へと脱出できたのだった。


 ◆◆◆


 基地からいくらかは距離を取り安全を確保したところで、ようやくお互いの自己紹介と基地へ潜入していた理由を明かし合っていた私たちだったが、話が進むほどみんなの辛い出来事が浮き彫りになり、私自身は居心地の悪さを感じていた。

 分かってはいたことだけど、みんながみんな「誰々が殺されたから復讐に来た」という話ばかりで、重くて仕方ないのだ。部外者の私は、邪魔をしないように黙っていることしか出来ない。


「――と、まあそんなところ」

「……お互い大変だったな。で、アンタは?」


 そんな中、凄惨な過去話を一切しない私の存在は相当異質だったらしく、ヨシュにわざわざ確認を取られてしまった。とはいっても、話せるようなことは何もないし、現状を(一部伏せながら)正直に語る以外の行動は取れないのだけれど。


「私は、記憶喪失の行き倒れです。おふたりに助けてもらったので、恩返しにここまで来ました」

「そりゃすげーな……恩だけでここまでできんのか」

「できましたね」


 やっぱり、私の作った設定には少し無理があったかもしれない。義理に厚い性格や恩だけで何でも出来るようなお人好しな部分を出しておかないと、行動の整合性が取れなくて疑われるかもしれない。と、ヨシュの反応で思い至り、もう少しそれらしく振舞おうと私は密かに心に決めた。

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