第6話
ヨシュと別れて間もなく、一際大きな木製の扉の前に辿り着いた私たちは、崩れ落ちている壁の隙間から部屋の中を窺っていた。
「ねぇ、あれってもしかして……」
私たちの視線の先、部屋の中には数体の獣型の魔物と、一体の細身のゴブリンのような魔物の姿が見える。
ゴブリンの方は、たしかこの基地の所長の位置にいる魔物だ。いや、もう少し知性を持てば魔物から魔族に進化していたかもしれない奴だが、それはひとまず置いておく。
「……わたし、覚えてるわ。あいつ、魔王軍を率いてたヤツよ」
「うん……ボクも覚えてる。村に来た魔物だ……」
「なら、当たりということですね」
その魔物は、この基地に所属する魔物を率いる権限と力を持っており、このチュニス周辺の村や町を度々襲っていたのだ。その様子は、物語開始直後にも見ることができる。そいつはニールくんの家族や故郷、フィーの家族、そしてヨシュの妹を殺害した張本人でもあるため、一行にとってはまさに仇敵とも言える存在だ。
そうと分かればここで倒すしかないと考えたのか、既にフィーとニールくんはそれぞれ武器を構えて臨戦態勢に入っている。流石に少し考えが甘いとは思うが、二人は家族の仇を前にして冷静ではなかったし、ここにヨシュがいても同じ結果になる。なら、私も止める必要はないわけだ。
「いい? 突っ込むわよ」
「うん、大丈夫」
結局、魔法で部屋の扉を破壊して全員で一気に室内に殴りこむことに決めた私たちは、私の炎魔法を合図に魔物達に襲い掛かった。
「なんだキサマら!?」
魔法で多少魔物の数を減らしたとはいえ、そもそも数がそれほど多くはないため、三人で突っ込んだところでそれほど不利にはならない。そんな中、私の魔法によって混乱する魔物の一部を倒し終えたフィーは、件の魔物の注意を引こうとしたのかわざと一歩前に出るのだった。
「久しぶりね……低能過ぎて忘れちゃったの?」
「……あ! オマエ、あの時討ち漏らした人間か!!」
「へぇ、ちゃんと覚えてたのね……」
「こんな所まで来るとはな……だが、飛んで火にいる夏の虫ってヤツだぜ!!」
魔物のいた部屋の奥には更に部屋があり、ゴブリン型の魔物の合図と共に一斉に他の魔物達が飛び込んできた。
「無駄だよ!」
「……ふぅ……このぐらいの規模の方が、コントロールは楽ですね……」
が、部屋の半分以上を燃やすほどの規模の私の魔法とフィーの射撃によりその大半は私たちに近付く前に倒れ、なんとか接近してこれた魔物もニールくんの剣によってその場に切り捨てられる。私たちが優勢であることは火を見るよりも明らかだったが、これで終わらないことは分かっていた。
魔物たちが倒れた後、私たちの正面にいた筈のゴブリン型の魔物の姿が消えていたからだ。
「ケッ! バカが! ガラ空きなんだよ!」
「フィー! 後ろ!」
「え」
真っ先に反応したニールくんの声が、部屋に響く。その魔物は私たちの背後を取り、最も後方にいたフィーに襲い掛かってきたのである。
だが、魔物の手がフィーに届くことはなく、激しい打撃音が聞こえた直後、そいつは地に伏してしまっていた。
「……おまえら、油断しすぎだろ」
魔物の背後から現れたのは、先程素っ気なく別れたヨシュだった。
ここは、本来の流れでもフィーがヨシュに助けられる場面だったから、ようやくちゃんとゲーム通りの流れに合流してくれたようだ。ゲームの歴史を変えてしまったわけではなさそうで安心したのか、フィーが無事だったことに安心するニールくんのそばで、思わず私まで胸を撫で下ろしてしまう。
「さっきの人!」
「あ、ありがとう……」
「よそ見すんな、まだ息があるぞ!」
だが、魔物はまだ立ち上がる力を残していた。注意を反らしてしまった私たちに檄を飛ばしながら魔物の前に出たヨシュだったが、彼の拳を避けた魔物はニールくんに飛び掛かる。
「ニールくん!」
「大丈夫!」
しかし、その魔物の攻撃はニールくんに届くことなく、腕を切り捨てられヨシュの拳を叩きこまれ、フィーの矢を受けたことで完全に絶命したのだった。