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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第7章 私は魔法使いのイケメン
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第5話

 翌朝、私たちはチュニスを発ち、魔王軍の基地があるという山間部へ向かっていた。

 そこまでの道のり自体もなかなか険しいものがあったが、思った以上に体は疲れず、二日の野宿を挟んで無事“チュニス基地”へ辿り着いたのだった。


「……大丈夫、誰もいないわ」

「うん……アキさん」

「はい。慎重にいきましょう」


 建物は石造りの城にも見えたが、たしかこれは昔の貴族の屋敷だった筈だ。とはいえ、魔物に支配されている今、綺麗に使われているという事もなく、経年劣化もあるだろうけど所々がたがきている。都合良く壁も一部崩れているところがあったため、私たちはその崩れた壁の一部から基地へ侵入を果たしたのである。

 今は運良く魔物たちの多くが出払っているとはいえ、ここからは隠密行動だ。全員で周囲を窺いながらこそこそと基地の奥へと進んでいく事になった。


 なお、私は基地に辿り着くまでに魔法の使い方は一通り把握できたため、ここで足手まといになる可能性はある程度払拭することができていた。

 魔法の使い方は至ってシンプルだ。属性に対応した石を握って、水や炎が出ろ、と念じれば出てくるし、感覚である程度その規模も操れることが分かったのだ。灰色の魔石だけ使い道が分からなかったが、魔物に向けて「何か出ろ」と念じてみたら魔物が寝てしまったから、これはきっと催眠の状態異常魔法が使える魔石なんだろう。本当に、こんな調子で使えてしまっていいんだろうか。


 そんなこんなで、何事もなく順調に先に進んでいたところ、曲がり角から何者かが飛び出してきた。


「……くらえ!」

「きゃっ!?」


 その何者かは先頭を歩いていたフィーに殴りかかってきたものの、フィーも咄嗟に避けたため辛うじてその攻撃から逃れる。てっきり魔物が襲い掛かってきたのかと思い、私とニールくんも構えたが、目の前に立っていたのは赤毛の少年だった。彼には見覚えがある。

 彼はヨシュ。ここで仲間になる、一行の兄貴分だ。


「び、びっくりした……危ないじゃない!」

「……おまえら、人間か?」

「失礼ね! どっからどう見ても人間でしょ!」


 襲い掛かった相手が人間だったことに驚いたらしくヨシュは目を丸くしていたが、襲われかけたフィーの方はそんなことはお構いなしに怒り出してしまった。無理もない、私も出会い頭に襲われた上に「人間か?」なんて聞かれたら、ちょっと怒るかもしれないし。

 そんな中、ニールくんだけは自分たち以外の人間が基地にいることが気になったのか、怒るフィーを置いていかにもガラの悪そうなヨシュに物怖じせずに近寄った。


「もしかして……キミは、ひとりでここまで来たの?」

「ああ、そうだけど」

「すごいね……ひとりでここまで来れるなんて」

「強い方なんでしょうね。ですが、何故こんな所に?」


 この時のヨシュは復讐に憑りつかれていて他人に気を遣う心の余裕なんてなかったから、こんなに可愛いニールくんに話しかけられても、態度が素っ気なかった。

 でも、ここからは目的を同じくするから、といって素っ気ないながらもボスまで同行してくれる筈だったのだが――


「……別に、なんだっていいだろ」

「う、うん……まあ、そうだよね」


 何故か、取り付く島もないぐらいに素っ気ない。これでは仲間になるどころか、同行もしてくれない雰囲気しかないが、一体どういうことだろうか。そういえば、私が声を掛けた瞬間に物凄く機嫌が悪そうになったけど、もしかして私が警戒されているんだろうか。

 ゲームにない展開に困惑する私を尻目に、ヨシュは背を向けて私たちの来た方向へと足を進めてしまう。


「なによ、つれないわね」

「……まあ、こちらにはこちらの目的がありますし、お互い邪魔をしないのであればいいんじゃないですか?」

「そうだね。じゃあ、気を付けてね」

「……おまえらもな」


 ここは一旦様子を見よう、と自分で自分に言い聞かせ、素っ気なさ五割増しのヨシュを見送った私たちは、気を取り直してヨシュが飛び出してきた方向へと進み始めた。


「…………なーんか、ヤな感じ」


 が、フィーの第一印象は最低だったらしく、そこから先に進みながらも機嫌を損ねた様子を隠しもしない。まあ、これに関しては、あそこでヨシュが仲間になったとしても少しの間は変わらないのだけど。


「怖い人だったね……でも、きっとなにか事情があったんだよ」

「こんな所に潜り込むんですから、我々と同じ目的で動いているのかもしれませんね」

「それって、魔王軍をぶっ潰すってこと?」

「憶測ですけどね」


 怒るフィーを宥めながらも、ヨシュのフォローをするニールくんのお人好しぶりといったら並じゃない。一言の謝罪もなかったのだからフィーが怒るのも当然だし、私が同じことをされてもちょっとは怒るだろう。

 とはいえ、この子は多分自分が同じ立場になっても微塵も怒らないんだろうな、という漠然とした確信だけは抱けた。


「そういうことなら、協力できないかなぁ」

「無理でしょ。めっっっっちゃくちゃ無愛想だもの」

「あはは……」


 機嫌の直らないフィーを先頭に、私たちは基地の最奥にいるボスの部屋に向かうのだった。

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