第3話
二人が部屋を出て行った後、少し時間を置いてから私は恐る恐る自分の下半身に目を向けた。道中、ガラスや鏡でも姿を見たし、正直自分の身体とは思えないけれど、それでもまだ自分が男だなんて信じられなかったのだ。
でも、ずっと気になっていた股間の違和感。ない筈のものがそこにあるという、猛烈な違和感。それをそろそろ暴きたかった。
私は意を決して、ズボンに手をかけ下を覗き込む。
「……………………ヒッ」
ある。あった。あったのだ。ヤシの木一本、実が二つなのだ。まだ小さかった頃、お父さんとお風呂に入っていた時に見たそれが、私の下半身に付いていたのだ。
「わ、私本当に……男に……」
何度見ても、間違いなくそこにある。見間違いじゃない。私は男の人になってしまった。
ない胸がなくなったことなんて気にならないほどの衝撃に、思わず眩暈がした。こんなもの女子高にいる限り男性との接触がないから見ることはないし、もう少し大人になってから見るものだと思っていたのに。それが私に、まさか私に付いているなんて、誰が想像できようか。
ゲームの中に迷い込んで男になるなんて、もう意味が分からない。このゲームのことは大好きだし、ニールは好きだし可愛いし、こういう冒険には少し憧れもあったが、所詮は夢物語。実際に叶うなんて思ってもみなかった上、全くありがたくない性転換までさせられてしまっている。
どうしたらいい、これからなにをどうすればいいのか――考えれば考えるほど絶望的な未来しか浮かばなくて、頭を抱えるしかなかった。
「あの……」
それから一時間ぐらいは経った頃、扉の外から可愛らしい声が聞こえてきた。
私がこの声を聞き間違えるわけがない、ニール――いや、ニールくんだ。リメイクで女性声優に声を当てられたニールくんだ。
「服、買ってきたんですけど……起きれますか?」
「ありがとうございます。試してみますね」
寝ていたどころか頭を抱えてうずくまっていたが、その姿を見せるわけにもいかないから、慌てて冷静さを装う。大丈夫、なんとかニールくんが部屋に入る前には体勢を立て直せた。
そのまま着替えることになったけれど、着替えを手伝ってくれるつもりだったらしく、ニールくんは部屋を出て行く様子がない。私が男の姿をしているのだから当然と言えば当然なのかもしれないとはいえ、流石に男の子に着替えを見られるのは少し恥ずかしい。
とはいっても、一応今は男の体である以上、変に恥ずかしがることも出来ずに渋々その場で着替えてみたのだった。
「わ……! やっぱり似合うなぁ……あ、大きさは大丈夫ですか? あとデザインは……」
「どっちも大丈夫ですよ。ありがとうございます、大事にしますね」
「うん……!」
ニールくんが買ってきてくれたのは、スーツのような白シャツに黒いベスト、生地の厚い黒系のスラックス。それだけなら現代社会にも溶け込みそうなよくある普通の服だったが、やはりここはファンタジー世界。赤い短めのマントを持ち出されてしまい、元々持っていた装飾品を加えたことで、あっという間にファンタジーの住人に早変わりしてしまった。
それでも、無難なチョイスをしてくれたらしく、鏡で見てもそれほど違和感はない。というか、私の容姿が整いすぎてむしろさまになっている始末だ。
与えられた服のおかげで公開羞恥プレイを回避できたことと、あまりにも似合いすぎていること。そしてなにより、ニールくんが選んでくれたことが嬉しく、自分の体の事は一旦思考の端に追いやることに決めた私だった。