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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第7章 私は魔法使いのイケメン
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第1話

 なんだろう。体の節々が、妙に痛い。

 ふと気が付くと、私は暗闇の中にいた。いや、違う。目を瞑っているんだ。私は目を瞑り、横になっているみたいだった。顔が痛いしベッドにしては硬いから、もしかすると床にうつ伏せで寝ちゃったのかもしれない。参ったな、見つかったらお母さんに怒られちゃうかも。


 でも、私はいつの間に寝てしまったんだろう。寝る前は何をしてたっけ。たしか、お父さんのゲームを借りて勉強の合間に遊んで、そして急に――


「ねぇ、大丈夫?」

「…………え」


 知らない声が、私を呼んでいる。いや、本当に知らない声なのかな。この女の子の声、どこかで聞いたような気がする。でも、どこだっけ。友達にこんな声の子はいなかった気がするけど、誰だろう。

 そんな事を考えながら、妙に重たい瞼を開き顔を上げると、眼前には信じがたい光景が広がっていた。


「あ、気が付いた? お兄さん大丈夫?」


 青髪のサイドテールの女の子と、銀髪の男の子が私を見下ろしていたのだ。思わず「コスプレイヤーの方ですか?」と言いたいところを必死に堪え、混乱しながらも周囲を見渡してみると、土と草と少しの木が見える。つまり私は、地面に寝そべっていた(と言うよりは、倒れていた)みたいだった。

 でも、それより気になることがある。視界に入る私の手が心なしか大きい気がすることと、男物のような服を着ていること。そしてなにより、目の前の二人にはとても見覚えがあるという事だ。


 肩に届かない程度のショートの銀髪を持つ、両膝の鎧に青系の落ち着いた服装の美少年と、青髪のサイドテールと背中の弓と肩当てが目立つ活発そうな少女。服装はともかく、髪色はどう見てもコスプレイヤーかファンタジー世界の住人だとしか思えないし、信じがたいことに二人は後者に当てはまることに気付いてしまった。

 二人のことは、最近画面越しにずっと見ていた。別にストーカーとか盗撮とかそういうのじゃなくて、この二人が画面の向こうの登場人物だから見ていただけだ。


「えっと……?」

「ここに倒れてたんですけど、覚えてますか?」


 声を出した瞬間、あまりの低さに驚いてしまった。低いというのは、私の声のことだ。まるで男の人のような低い声が口から出てしまい思わず口元を押さえてしまったが、それをしたところで何も変わりはしない。

 そういえば、さっき「お兄さん」と呼ばれた気がする。口元を押さえた手を改めて見ると、男の人の手のように筋張っていて、少しごつごつしていて、血管もよく見える。私の手は、こんなに大きくもなければごつごつもしていない筈なのに、一体何がどうなっているんだろう。


「すみません、ここは……?」

「ここは、チュニスの町の近くよ。ねぇ、本当に大丈夫?」

「……チュニス……」


 地べたに座り込んだまま再度顔を上げて二人に視線を合わせると、不安げな二人の表情が眼前に広がる。うん、間違いない。二人はとあるゲームの主人公のニールと、ヒロインのフィーだ。しかも、“チュニス”という地名まで出てきてしまったら、もう疑いようがない。

 私は今、ゲームの中――しかもゲーム序盤の時間軸にいるんだ。そこまで把握できたのは、私がこのゲームを少なくとも二周はプレイしていて、内容もそれなりに覚えているからに他ならない。それも、ここ一ヶ月程度の話だから、間違える筈がない。


「もしかして、分からないんですか……?」

「いえ…………はい、そうですね。よく分かりません」

「……もしかして、記憶喪失ってやつ?」

「いえ。分からないのは、何故ここにいるか……でして」


 何度喋っても、何を喋っても声が低い。ああ、これはもう確定かもしれないな、と諦めを感じながら恐る恐る受け答えていた私を気遣うように、ニールが水の入った水筒を渡してくれた。

 どうして私はこんなところにいるんだろう、この世界にいるんだろう、男の人になってしまっているんだろう。疑問ばかりが浮かぶけど、二人に聞いたところで答えが返ってくるとも思えなくて、つい核心から離れた疑問だけを口にしてしまう。


「ああ、なるほどね」

「名前は覚えてますか?」

「ええ、アキ――」


 名乗ろうとしたその瞬間フィーが声を上げたため、半端なところで自己紹介が切り上げられてしまった。


「そんなの、身分証を見れば一発じゃない? 身分証ある?」

「身分証……」

「こういうカードなんですけど……」

「……少し、待ってください」


 ニールが見せてくれたそれを見て、やっと思い出した。サブイベントぐらいにしか使われない、ほぼ設定だけの存在の身分証というアイテムは、“名前”、“年齢”、“身分”が記載された王国から配布されるカードだ。普段は一切使いどころがないけれど、こういう時こそ役に立つものの筈だ。

 もしかしたら何かの手がかりになるかもしれないと思い、懐を探ってみたところ、胸ポケットにそれらしいものを見つけた私は、はやる気持ちを抑えて恐る恐るそれを取り出したが――


「……これは」

「なに、これ……年齢以外、黒く塗りつぶされてる……」

「どうして、こんなことに……?」

「よく、分かりません……私は一体……?」


 私の持っていた身分証は、“名前”と“身分”の部分が黒く塗りつぶされていて読み取れなくなっていた。黒塗りの難を逃れていたのは、年齢の部分にあたる【AGE19】の文字のみ。つまり、私の年齢は十九歳ということらしい。

 私は今年で十八歳だからこの表記はおかしいし、そもそもこれは本当に私の身分証なのかも分からない。大体、体だって私のものか分からないのに、この身分証の情報なんて信頼できるかどうかも分からない。

 もう何もかもが分からなくて、思わず頭を抱えてしまった。


「顔色が悪いね……えっと、アキさん。宿で休みませんか?」


 心配して気遣ってくれるのは嬉しいけれど、半端なところで途切れた【アキ】という名前が、私の本名だと思われてしまったらしい。勿論、その時は少し不満も浮かんだが、後になって考えればあれは幸運なハプニングだったのかもしれないと思う。

 というのも、私の本名は【アキハ】のため、男の人の名前には聞こえないからだ。本当に男の人になってしまっているなら、【アキ】の方が違和感がないと思うし、今更訂正するのも正直ちょっと面倒くさい(この世界の名前と比較すると【アキ】も【アキハ】も変な名前だろうから、あまり変わらないけれど)。


「そうね。わたしたちがお金を出すから、一旦休みましょ。いい?」

「ええ……すみません。ありがとうございます」

「あ、わたしはフィー。この子はニールっていうの、よろしくね」


 今更な自己紹介を受けながら、私たちはチュニスに向かうことになった。

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