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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第6章 黒髪イケメンの正体
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第6話

「あの……ねぇ、ふたりとも。ご飯だって……」


 夢中でアキとの攻防を繰り広げていた俺の元に、よりにもよってニールが駆け寄ってきてしまう。が、辛うじて見える位置にヨシュがいたことでなんとか冷静さを取り戻せたらしく、アキは普段通りの丁寧な物腰の好青年を演じ始めたのだった。

 今更遅いと思うのだが、俺達の会話がほぼ聞かれていなかったことと、アキ本人はそれほど暴れていなかったからか、ニールやヨシュの印象に変化はなかったようだ。運の良い奴である。


「すみません、行きましょうか」

「はー……余計に疲れた」

「大丈夫……? なんか、えっと……喧嘩? してたみたいだけど……」

「ふふ、喧嘩じゃないので大丈夫ですよ」


 いけしゃあしゃあと言ってのけるアキの方便にはいっそ呆れるほどだが、詳しく話すわけにもいかない内容だから、俺も突っ込みはしない。というか、傍目には俺が駄々をこねて暴れているようにでも見えていたんだろうか。それはそれで悔しいとはいえ、やはり言い訳が出来ない状況が足を引っ張り何も言えそうにない。

 いや、この話はもう止めよう。


「何食うかなぁ、油物が多いから悩むんだよな……」

「そろそろ、あっさりしたものが食べたいですね」

「だなー 焼き魚とか食いたいぜ」


 西洋風の世界観のこのゲームにおいて、“和食”と称される料理の類は存在していない。始めの内は食べ慣れた洋食が多いからと安心してはいたが、そろそろ和食が食べたくなってくる頃合いだ。

 それは金持ちのボンボンであるアキも変わらないらしく、深く頷き小さく溜息をこぼす。


「……私も、お寿司が恋しいです」

「お前、年の割に渋い趣味だな……」

「ハルさんこそ、意外と老け込んでいらっしゃいますね」

「こ、言葉選びに悪意があり過ぎる……!」


 アキは今までも時折俺に対しては酷い物言いをしていたが、互いの正体が判明して本性が出たのか、気を許した故の容赦のなさなのか。とにかく、何の前触れもないその軽い罵倒に圧倒されてしまった。それでもアキの表情からは悪意を感じなかったため怒るに怒れず、結局何も言い返せなかったのが実に情けない。

 そんな俺達のやりとりをどう受け取ったのか、先導していたニールは僅かに振り返ると落ち込んだ様子で声を上げる。


「……ふたりって、仲良しなんだね」

「いや、そりゃないだろ……」


 明らかに俺達の関係に嫉妬してるかのような、しょんぼりという擬音があまりにも似合う悲しげな表情を見せる少年を極力刺激しないよう嫌がるふりをして見せたが、それでどうこうなるようなら恋煩いとかいう病がああも面倒なわけがない。そして、この状況を面白く思わない奴がもうひとり存在するため、面倒くささは五割増しだ。


「ニールくん。私は、ニールくんともっと仲良しになりたいですよ?」

「え、そ、そうなの?」

「はい。もっともっと、仲良くしましょうね」

「う、うん……!」


 やる気満々の男にぐいぐい押され両手を握られたニールは勢いに流されて頷いているが、まさかアキの中身が女の子で恋愛感情を抱いているなんて夢にも思わないだろう。不憫な奴である。

 そんな不憫な少年が助けを求めて俺に視線を向けてきた事に思わず溜息をつきながら、一応は助け舟を出すことにした俺も根が甘いのかもしれない。


「……お前、ニールに変なことすんなよ」


 アキは涼しげな顔で手を離し「しませんよ」などと答えるが、さっきのあの有様を思い出すと全く信用できないのは俺だけじゃないだろう。仲が良いのは構わないし、俺に被害がないのなら良いのだが、場所をわきまえずにあれやらこれやらが始まってしまうのだけは御免被りたい。

 とはいえ、本当の意味でアキを止めるつもりはなかった。むしろ容認しなければ俺の身が危ういのだから、積極的に応援したいほどだ。いや、本音を言えばちゃんとした女の子とそういう関係になってくれた方が、お兄さんとしては安心だが、正直そこまで関わる義理はないだろう。


「変なことって、なに?」

「ふふ、教えてあげましょうか?」

「おいおいおいおい! 言ったそばから反故にしてんじゃねぇよ、手が早いんだよ!」


 笑みを浮かべて再びニールに近づくアキだったが、反省の色が見えない言動に流石に俺も頭にきた。勢いのまま二人の間に割って入ってアキに詰め寄ると、こいつは笑顔のまま「冗談ですよ」などと言ってのけるため、俺だけが過剰反応して食って掛かったように見えるのがまた悔しい。中身が女の子じゃなければはり倒してるのに。


「ったく……ニール、お前ほんと気を付けろよ?」

「う、うん。よく分からないけど……」


 守りたい、未成年と俺の貞操。

 流石に他のみんなの前でまではこんなことはしないだろうが、だからと言って手放しで安心できるわけでもない。何も分かっていない様子のニール本人にも自衛を促してはみたものの、やはり何も分かっていないからか要領を得ず、目に見える限りは適度に止めようと心に決めた。


「そんなに心配しなくても、なにもしませんよ」

「その言葉、さっきのがなきゃ信じただろうよ……」


 フィーの暴走といい、アキの暴走といい、今日はやたらと疲れる日である。フィーは温泉という特殊な環境だったからともかく、アキは今後ずっとこのテンションでいくのかと思うと、それだけで俺の疲労感は何倍にも膨れ上がりそうな感覚に襲われる。

 ぐったりと肩を落とした俺を心配するニールに、疲れている原因の三分の一はお前のせいだとも言えず、現状最も安全地帯である他のみんなのもとへ急ぐ俺だった。

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