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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第1章 美少女の俺とゲーム世界
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第4話

「……ああ、やっぱりそうです。私のと同じです」


 俺の身分証を勝手に確認していたアキとかいう男は、深く頷き俺以外の他の面々にもそれを見せる。すると残りの三人も顔を見合わせて頷き合ったため、よく分からないが俺の身分証は何かしらの問題に見舞われているようだ。


「同じ……? どういう事だ?」

「あなたの身分証は、名前と身分が読み取れなくなっているんですよ。私のものも同じなんです……ほら、年齢以外は何も読めないでしょう?」


 やっと見ることが出来た俺の身分証には、不自然な黒塗りが二箇所あるが、一箇所だけは確かに内容が読み取れた。【AGE16】と書かれているそれは、アキの言う通り俺自身の年齢を表しているのだろう。なら、黒塗りになっている部分は消去法的に考えれば、“名前”と“身分”だ。

 一方、同時に見せられたアキのものと思われる身分証も同じように二箇所が黒く塗り潰されており、年齢を示す【AGE19】という部分だけ辛うじて読み取れたのだった。


「…………はぁ……じゃあ俺、十六歳ってこと以外は何も………………はあぁぁ!? 十六ぅ!?」

「ど、どうしたのよ?」

「俺、十六なのか……?」

「身分証に書かれてるなら、そうですね」


 道理で美少女なわけだ。本来の俺なら二十四歳、つまりどんなに美しい女の体になっていたとしても、よほどの童顔でもない限り美少女ではなく美女になる筈だ。多分。

 だが、目下の問題はそこではない。ゲームの世界に入った挙句性別も変わって若返っているなんて、もはや俺の要素がない。辛うじて茶髪と癖毛だということぐらいの共通点が残るのみだ。夢を見ているなら、俺の身も心も美少女になる前に早く覚めてくれ――心の中でそう懇願しながら古典的な確認方法として自分の頬をつねったが、普通に痛くて俺は泣いた。


「……ねぇ。もしかしてこの子、記憶がないのかな?」

「へ?」

「ああ……この様子では、そうかもしれませんね」


 そんな俺の様子をどう受け取ったのかは知らないが、ニールが恐る恐る口にした言葉に真っ先に反応したのはアキだった。勝手に俺を記憶喪失の薄幸美少女扱いをするなと言いたいところだが、だからといって正直に二十四歳の男性会社員だと伝えたところで話が通じるとは思えない。俺がこいつらの立場なら、絶対に信じない自信がある。


「家がどこにあるか、分かりますか?」

「いや…………分かんねぇけど……」


 俺の家なら地方の安いアパートで、実家は更に地方の田舎だが、こいつらが聞きたのはその情報ではないだろう。この俺が扮する美少女の家について聞いているのだ。なら、当然答えはノーである。俺の体が変化したのならともかく、この体がどこから来たのか知らないのだから。


「お名前は?」


 身分証に書かれていないのだ、当然その質問は飛んでくるだろう。しかし、名前を聞かれてしまうと、俺は咄嗟に答えることが出来ない。ゲームでプレイヤー名や主人公の名前を必ず自分で決めなければいけない時、俺はその命名式に三十分以上はかけるタイプだからだ。しかも女の子の名前、美少女の名前だ。下手な名前をつけてそれを呼ばれるなんて、この顔を持つ美少女に申し訳が立たない。俺だけど。

 だが、すまない美少女よ。やっぱり俺は、名前が付けられそうにない。


「…………えっと……あー……は、ハル?」

「名前もあやふやなんだ……」

「これは重症ね……」


 本当に申し訳ない、どんな存在かも分からない俺の体の美少女。学生時代の俺のあだ名で、どうか堪えてくれ。

 アドリブがきかない俺が挙動不審に視線をさまよわせていた姿が、必死に記憶を思い出そうとしているように見えたらしく、少年少女達は哀れむような目で俺を見つめてくるのだった。


「――で、どうすんだ? 記憶喪失の女の子なんて、こんなトコに置いてけねーだろ?」


 周囲を警戒しながら最も現実的な話を持ち出してきたのは、ヨシュである。確かにこいつはやや粗暴な性格ながらも、ゲーム中でも妙に的確な提案や助言をくれるため、直接的にも間接的にも旅のヒントを出す役割を担っていた。加えて根はさっぱりした気持ちの良い性格だからか、熱狂的なファンの間でも兄貴と呼ばれていた筈だ。


「そうだよね……ねぇ、アキさん」

「……うん、私からも同じ提案をしようと思っていました」


 しかし、ニールのこの態度はなんだ。異様にアキという男に懐いているが、この時点では三人旅をしていた都合もあって、姉のようなフィーと兄貴分のヨシュにべったりだった筈ではないか。

 そんな光景を遠い目で眺めていた俺の視線に気付かず、互いに耳打ちし何らかの相談をしていたらしい白いのと黒いのは、満足いく結果が出たのか満面の笑みで俺に向き直った。

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