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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第6章 黒髪イケメンの正体
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第4話

 アキの本名は、藤堂秋葉(とうどうあきは)。彼女は首都圏のお嬢様学校に通う十八歳の女子高生らしく、父親が大企業の社長とかいう絵に描いたような社長令嬢らしい。そりゃお育ちが良いわけだ。生まれながらの勝ち組なんて、俺とは生きる世界が違いすぎる。

 そんないいとこのお嬢さんが、何故自分が生まれる前のゲームをやっているのかと聞いてみたところ、父親の趣味だと言ってのけるものだから、ますますアキの家の事が分からなくなった。一体どんな家庭なんだ。


「しかしまぁ……情報量が多過ぎるな……」


 俺と同じ現実世界から来た女子高生であり、金持ちのボンボンであり、頭も良く、テレビゲームという俗っぽいものも嗜むお嬢様――が、イケメン魔法使いになっているなんて、属性を詰め込み過ぎていて設定飽和状態だ。キャラが強過ぎる。いや、ゲームの登場人物として見るなら、このぐらいの方がキャラが立つんだろうか。

 俺なんて、ただの会社員が怪力の美少女になった程度で、キャラが薄いってレベルじゃないんだぞ。お金持ち設定だけでも分けてくれ。


「そうですか? でも、ハルさんだって男性でしょう?」

「な……お、お前……気付いてたのか……!?」

「言動がとても女性には見えませんでしたから。私より年上だろうな、とも思ってましたよ」

「どこまで察しが良いんだよ……」


 ここに来るまでの間、ガサツや男勝りだと評価されたことはそこそこあったが、それは俺が女の子であるという前提があるからこその評価だ。普通の思考をしていれば、俺の中身が男勝りなのではなく()()()()なのだという発想には行き着かないだろう。

 だが、アキは俺と同じく性別が逆転してしまった存在だ。しかも、俺のように考えが浅いこともなく、「自分が男に変わっているなら相手も変わっているかもしれない」と、性転換の可能性を視野に入れていたらしい。そこに俺のあの少女とは言えない言動がついてきたのだ。そりゃ、可能性どころか確信もするだろう。

 もっとも、アキより年上だと思われていたことは性別以上に想定外だったが。


「男の身体、嫌じゃないのか?」

「嫌という程では……まぁ、なったものは仕方ないですし」

「そりゃ、そうだけど……」


 アキは俺よりも先にこの世界に来ており、一ヶ月以上その男の姿のまま生活している。とはいえ、そうそう慣れるものだろうか。半月ほど経って少し慣れてきた俺が言うのもなんだが、こいつはあまりにも男として馴染んでいた。そもそも線が細く顔が良いインドア系の見た目と、本人の性格や性質がそれほど剥離していないことも関係しているだろうが、それにしたって馴染み過ぎだ。知的で冷静なのかと思っていたが、この様子だと案外ただの楽天家なのかもしれない。

 そんな事を頭の端で考えながら話半分で聞いていたが、でも、とアキが急に言葉を濁したため意識が戻ってくる。やっぱり何かしら不満を持っているんだと期待した俺は、飛びかけていた意識を集中させた――


「せっかくこの世界に来たのに、ニールくんとあれこれ出来ないのだけが残念です……」


 が、結果はこれである。

 心底残念そうに肩を落とした目の前の男が何を言っているのか一瞬理解できなかったが、アキは花の女子高生。つまり女の子だ。女の子がニールとあれこれしたいと言うなら、納得しかない。


「……もしかして、マリノの洞窟で俺を睨んでたのって……」

「その……ニールくんといい雰囲気だったので、つい……」


 簡単にまとめると、アキはニールが好きで、ニールに好意を抱かれている俺のことを恋のライバルとして認識していたらしい。

 なんだこの、なんだ。何とも言い難いこの感情はなんなんだ。思春期真っ盛りの少年少女の恋煩いに巻き込まれている俺は、一体なんなんだ。運が悪いとかいうレベルの話じゃない。もっと酷い、地獄のような状況。いや地獄だ。これは地獄そのものだ。


「だから、あんなにニールにべったりだったのか……」

「同性じゃ色々と望みが薄いので、優しいお兄さんポジションを狙ってまして」

「前向き過ぎるだろ……」


 お嬢様という生き物は、みんな表面を取り繕うのが上手いものなんだろうか。普段のアキは大人しく、みんなから一歩引いた位置でアドバイスやサポートをする事が多いが、その実虎視眈々とニールを狙っていたと聞くと急に怖くなってくる。たしかにニールには人一倍絡んでいたが、兄弟の様に仲良くしているようにも見えたため、時折邪推したものの結局はその関係を楽観視していた。それがまさか、一歩間違えれば大変なことになる程の感情を向けていたとは、流石にニールも予想出来ないだろう。

 しかしそれも、本人が抑えてくれているからこそ、現状平和が保てているわけだが。


「でも、最近はいっそ男同士でもいいかな、と……私たち、見た目はかなり絵になると思うんですよね」


 前言撤回。こいつ、平和を保つ気がないぞ。

 神妙な面持ちで俺に胸の内を打ち明けてきたアキからは、自分が何者であろうとも絶対に好きな奴を手に入れるという強い意志を感じたが、その強い意志は元の世界に戻る為に使ってほしいものだ。

 あとひとつ言わせてもらうとすれば、成人間近の男が未成年に手を出すという絵面は、(出したいのか出されたいのかは知らないし知りたくもないが)どう控えめに言っても事案だからやめた方がいい。


「……頭痛くなってきた」

「あ、誰にも言わないでくださいね。お風呂でニールくんを観察していた言い訳が出来なくなるので」

「いやいやいやいや……同性でも、普通観察しねぇよ」

「そうなんですか?」


 頭を抱えた俺の向かいでは、異常さを理解していない男――いや、女の子がすました顔で俺を見下ろしている。さっき「同性だと望みが薄い」と自分で言っていたくせに、なんで訳の分からない方向に吹っ切れているのか、俺には全く理解が出来ない。もしかすると、ひと月以上ゲーム世界にいるストレスで、心が壊れてしまったんだろうか。

 心配すればいいのか、怒ればいいのか分からなくなってきてしまった俺は、久々に脳みそがキャパシティーオーバーしていることを実感していた。

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