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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第5章 火山と温泉街を越えて
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第10話

 大急ぎで宿に帰還した俺達は、ニールをベッドに寝かせ成り行きを見守っていた。看病をしていたのはメディナだが、付き添いはヨシュでもフィーでもなく、何故か俺だった。

 というのも、始めはメディナとヨシュが診ていたのだが、あまりにもヨシュが落ち着かないため、代わりに俺が連行されてきたという次第だ。俺より喜んで看病したがる奴がいるんだから、診るならそっちでいいだろう――と、文句を言ったのだが、メディナに押し切られて断り切れなかったという経緯である。

 意図は分からないが、メディナに何かを誤解されているような気がしてならない。


「……うぅ……?」


 付き添いといっても特にすることもなく、様子を見ながらも同じように暇を持て余すメディナと話していた俺は、小さな唸り声を上げたニールの顔を覗き込んでみる。目を覚ましたらしいニールの顔色は相変わらず悪いが、素っ頓狂な表情を見せているところを見ると、それ以上の異常はなさそうだ。


「お、目が覚めたか」

「……ハルさん? ボク、どうして宿に……」

「貴方、森で突然倒れたのよ。覚えてる?」


 ニールは、ロアやフィーに匹敵する大きな目を見開いて俺を見上げていた。寝起きで混乱しているんだろうが、メディナの言葉で思い出したかのようにあっと声を上げ、ニールは申し訳なさそうに眉を寄せるとゆっくり半身を起こす。

 倒れた時はヨシュが受け止めていたから頭は打っていない筈とはいえ、一応今のところは倒れた原因そのものが不明だったため、意識や記憶がある事にはメディナも安心したようだ。


「体は、大丈夫なのか?」

「うん……慣れないことをしたから、疲れちゃったみたい。休めば大丈夫だよ」


 突然倒れるなんてただの疲れで済むような症状には見えないのだが、本人がそう言い張るのだから突っ込みは他の連中に任せよう。本来ならここにはフィーがいる筈で、その辺の突っ込みも彼女がしてくれていたのだ。不可抗力で付き添いの役割は奪ってしまったものの、せっかくの突っ込みという役割まで俺が奪う必要はないだろう。


「森でやってたのって……もしかして、浄化師の技かなんかか?」

「うん、よく分かったね。あの短剣、魔物とエディって人の力が混ざってて、なんだか気持ち悪くて……」

「それでよく、浄化を思いついたわね」

「できるかなって思って……」


 メディナは本気で感心しているのか、神妙な面持ちでニールと視線を合わせる。知識人の彼女にしては珍しい挙動だが、いくら天才魔法使いであっても浄化師という存在は未知のものの筈だから、知的好奇心でも刺激されているのだろう。


「あの男に会ってから具合悪そうにしてたのは、それが原因か?」

「あ……うん、多分……黙っててごめんなさい」


 責めているつもりはなかったが、異常を感じていたのに誤魔化していたことが後ろめたかったのか、ニールはばつが悪そうに俯く。とはいえ、流石にメディナやグレイあたりは少しぐらい気付いていただろうが、それはあえて言わないでおくことにした。


「一応、あの短剣は持ってきたんだけど……そういう事なら、処分した方がいいかしら?」

「ううん。もう何の力もない筈だから、大丈夫だよ」

「じゃあ、捨てるのもなんだし持っていくか」


 件の短剣は、この部屋のテーブルに置かれていた。ニールが浄化した後も見た目には何の変化もなく、そもそも害もなさそうに見えるため一緒に運んできていたのだ。実際なんの害もない物だからよかったが、これがマイタイトのような実害のあり過ぎるものだった場合のことを考えると、この行動は少しばかり軽率に思えてしまう。

 まあ、そんな感想も、何もかもを知っているからこその結果論ではあるのだが。


「……しっかし、浄化って体に負担がかかるもんなんだな」

「本当はならないんだけど、ボクが未熟だからどうしてもこうなっちゃうんだ……」


 一応、浄化にも魔法と同じように精神力を使うという設定だが、未熟だとそれ以外にも体力あたりが持っていかれてしまう筈である。だからこそ、ニールは積極的に浄化を行うことが出来ないというのが現状だった。

 ただ、以前本人も語っていたが、今の魔物にはある事情で浄化が効かないため、ニールが未熟であろうと一人前であろうと、状況に変わりはなかっただろう。


「なるほどね……なら、今日のところは大人しく寝てるのよ。食事は運んでもらうよう頼んでおくから」

「え、そ、そんなのいいよ。大丈夫だよ……!」

「そんな真っ青な顔で出歩けるわけねぇだろ。言うこと聞かねぇと、食堂まで俺が担いで運ぶぞ?」

「えっ……あ、ごめん……よろしくお願いします……」


 何に気を遣っているのか、訳の分からないところで意地を張るニールだったが、以前のヨシュのような目に遭わせると暗に脅してやれば、血の気の引いたような青い顔を更に青くして大人しくなる。

 忘れがちだが、俺はこの一行の中ではロアの次に体格が小さい。そんな怪力とはいえ小柄な少女に公衆の面前で担がれるなんて、想像するだけでも恐ろしい話だ。俺なら絶対にされたくない。勿論ニールといえど、そういった羞恥心は持ち合わせているのだろう。おかげで言うことを聞かせられたのはいい事だったが、自分の外見をそんなことに使えるほど受け入れてきてしまっている現状には、素直に喜ぶことはできなかった。

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