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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第5章 火山と温泉街を越えて
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第7話

 樹海から逃げ帰った俺達は、重たい空気のまま宿のロビーに集まっていた。

 ニール達は敵に逃げられたことはあっても、敵前逃亡をしたのは今回が初めてだ。加えて、ロアの旅の目的だった彼女の父親らしき男が敵だったとくれば、当然やりきれないだろう。言葉が途切れる度に誰かしらがため息をついていて、非常に重苦しい。


「あいつら、引いたかな」

「魔物の群れが森を出て行ったところを見た人間がいるらしい。あそこに何をしに来ていたのかは知らないが、一旦は安心していいだろうな」


 そんな中、落ち着いているグレイのなんと頼もしい事か。全く何も感じていないわけではないだろうが、それを表に出さないところは流石としか言いようがない。更には、ここ十数分の間に情報収集まで済ませている用意周到さだ。メディナと並び、これほど頼もしい存在もないだろう。

 しかし若い連中はそこまで気が付かないらしく、グレイに惚れ惚れとしていた俺とは異なる方向へ視線を向け、再び溜息をこぼす。


「でもよ、アレどうするよ……」


 ぼやいたヨシュの視線の先には、どんよりとした暗い表情のロアと、それをなんとか元気づけようと奮闘するフィーが座っていた。


「ロア、お菓子食べない?」

「……いらない」


 ロアはブランタの街まで戻ってきてからはずっとこの調子で落ち込んでしまっており、必要最低限の会話以外で口を開くことはなく、俺達と視線を合わせることもない。本来なら部屋に籠っていたいほどだろうに、それをしないのは素直に凄いと言わざるをえない。

 とはいえ、なにか言いたげに時折こっちを見ているあたり、真っ先にロアを抱えて逃げた俺を恨んでいるのかもしれないが、それはそれで逃げ出した後に覚悟を決めたから、もし何かあってもしっかり受け止めようとは考えている。

 ちなみにあそこは、本来グレイに叱咤されるもののちゃんと全員が逃げる場面だったため、展開にそれほど大きな差は開かない筈だ――などと考えていたら、解散後に考えが甘いとアキに叱られたが。


「まあ、あのエディという男が本当にロアの父親なのだとすれば、こうなるのも無理はないが……」

「服装も背格好も名前も一致してるっていうんじゃ、流石に他人の空似とは考えにくいよな」

「は? 名前も同じなのか?」

「ああ、森でロアが言ってたぞ。なあ、ニール?」


 ロアの父親とエディという男の情報について、名前まで一致していることは俺とニールの耳にしか届いていなかったため、しっかり情報共有をしようと考えたのだが、ニールの反応は鈍い。

 そういえばこいつは、樹海から戻ってきてから妙に顔色が悪かった(当然、俺は理由は知っているが)。


「うん、そうなんだけど……」

「どうした、なんかあったか?」


 小難しい顔のまま首を傾げていたニールは、考え込んでいた理由について口にするか悩んでいたようだったが、結局は話すことに決めたようだ。


「あのさ、ちょっと気になったんだけど……エディって人、変な気配がしなかった?」

「変な気配?」

「……どんなものだ?」

「うーん……なんて言ったらいいのかな。説明が難しいよ……」


 本人も上手く言葉に表せない様だが、それはニールにしか分からないものである。少なくとも俺は“変な気配”とやらは感じていないし、他のみんなも感じていないことは顔を見れば分かる。


「変な気配、ねぇ……オレはなんも感じなかったけど」

「わたしも…………あ、それって浄化師だから分かったってことはない?」

「浄化師、だから……」


 浄化師には現状、魔物の悪い心を浄化するという能力があること以外は分かっていない。その上、浄化能力自体を発揮する機会もない状況だが、それでもニールだけが持ち合わせている能力ということでフィーは目を付けたのだろう。流石はヒロイン、最もニールと長い付き合いをしているだけはある。


「あ……そうだ! 魔物の気配に似てるんだ!」

「魔物の気配? ……アイツが魔物ってことか?」

「ううん、そういうのとは違う気がする。なんて言ったらいいのかな……えっと、力の根源が似てる……みたいな」


 合点いったとばかりに顔を上げたニールは、そんな事を言い出した。魔物でもないのに魔物の気配がするとは、一体なんのこっちゃという話だが、そんな訳の分からない気配がする原因についてはニール自身もまだ理解できていないため、深く問い詰めても無駄だろう。

 今はただ、浄化師はそんな事も分かるのか。と感心しておくのが無難だ。というか、未熟なニールであってもそんなことが分かるあたり、本当に浄化師は有能な一族だったのだろう。これで強力な武力でも持っていたら、魔王にとっては最も脅威になる存在だったに違いない。まあ、だから潰されたのだろうが。


「力の根源……魔物の力が彼に宿っているか、彼が魔物に力を与えている――などでしょうか?」

「あ、うん! そんな感じがするんだ!」


 すっかり考え込んでしまったニールに助け舟を出したのは、よりによってアキだった。こいつもなんだかんだ言う割にはニールに甘いのだから、人の事を言えた立場じゃないだろう。間接的な助言に徹しているし、俺ほど流れを大きく変えたりはしないとはいえ、人間関係を少し変えてしまっているのだから十分同罪だ。

 あえて口出しはしなかったが、そんな文句が俺の頭に浮かぶのも仕方のない事だろう。


「じゃあ、ただの幹部って訳はないよな。もっと上の地位なんじゃないか?」

「その可能性はあるでしょうね」

「……でも、それって――」


 考えうる限り最も悪い可能性を示唆した俺とアキに対し、言いづらそうに声を潜めたニールは咎めようとしたのだろうが、言い終わる前に声を上げた人物がいた。

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