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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第5章 火山と温泉街を越えて
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第5話

 メディナの案内により、俺達は件の森にたどり着いた。

 そこはゲームで見るよりも深く妙に不気味な森で、昼間でかつ観光用に整備されている道なのに、木々が密集しているせいか日の光があまり届いていない。木の根も地面から露出しているものが多く、火山の麓だからか石や岩も多い、まさに樹海と呼ぶに相応しい様相だった。

 正直、迷いの森なんかよりよほど迷いそうだし、良くないものも出そうな雰囲気だ。


「ここ、森っていうか……」

「樹海じゃねーか!」


 一歩踏み入れてからようやく気付いたのか、意気揚々と森に入り込んだ子供達も多少動揺しているようだ。それでも誰一人として森から出ようと言わないところは、評価に値するだろう。


「道から逸れる時は目印を付けるから、迷ったりはしないわよ」

「それ、消えちゃわない?」

「私の魔法なのに、消えるわけないじゃない」


 道端の岩に魔法で印をつけて安心させようとしたメディナに対し、それでもなおフィーは少し不安げに問いかけたものの、あまりにも自信に溢れた返答にすっかり安心して「それもそっか」と深く頷く。その単純さに呆れそうになるが、納得できるほど一行に貢献してきたメディナだからこそ通じる手だろう。

 なお、その後ろでメディナを真似ようとでもしているのか、ちまちまと魔法を使っているアキの姿は見なかったことにした。


「でも、どこに行こう。なにか手がかりがあるといいんだけど……」

「こう森が深いと、見通しが悪すぎてなんも見えねぇしな……魔物もロアの父親も、奥に行っちまったのかな」


 現状、見渡す限り木と草と岩が続いている状況だ。ゲームのように決まった道がある訳でもないし、地図が表示されている訳でもないため闇雲に動くわけにも行かない俺達は、とりあえず足跡や踏み荒らされた形跡がないかその場を確認し始めた。

 だが、整備された道沿いにはそれらしいものは見当たらず、痺れを切らしたヨシュとロアが道から逸れて樹海に突っ込もうとしたその時だった。


「悪いが、少し静かにしてくれ」


 急に何かに気付いたようにグレイが声を上げ、全員の動きが止まる。集中しているのか、グレイはそのまま周囲の音に耳を澄ませるかのように瞼を落としたが、ふと目を開くとある一点の方向に視線を向けた。


「……向こうに、多くの魔物の気配がするな」

「そんなの分かるのか?」

「多少はな」


 人の気配すらろくに感じ取れない俺にとっては未知の感覚だが、グレイは長年の経験で魔物の気配を感じ取ることが出来るらしい。まあ、長年といってもまだ二十代の男だから、そもそもそれなりの才能を持ってるのだろうが、それでも凄いことには変わりないだろう。何故そんな能力を持っていて、しかも槍術も人並み以上の腕前なのにその腕っ節を生かせる職についていないのかは甚だ疑問だが、この人の事だから飄々と誤魔化されてしまうのは目に見えている。

 ちなみにグレイは、このなりでただの農民らしい。実にもったいないと言わざるを得ないだろう。


「じゃあ、一旦そっちは避けて行ってみようか」


 現状判断する材料もないため、一旦グレイの言葉を信じることにした俺達は、魔物の気配のない方向へ慎重に歩を進めることになった。


 ◆◆◆


 樹海の道なき道を進み始めて一時間ほど経った頃、不意に開けた場所に出た。半径約十メートル程度の歪な円形になっているここだけは何故か木が生えておらず、空も見えるほど障害物が何もない場所だったのだが、俺達の出て来た方向とは対角線上に位置する場所、開けた場所の端の所に誰かが立っていたのだ。

 まだ人物を判別できるほどの距離ではないとはいえ、流石にここまで来れば俺にも分かる。あれが目的の人物だ。


「あれは……」

「パパ……!」


 そう、ロアが街で見かけた男が、その人物の正体だったのだ。誰もが静止する暇もなくロアが駆け寄ってしまったため俺達も慌てて後を追うと、立ち尽くしていた男は目を見開き驚いた様子でこちらを見つめていた。

 そりゃ、急に八人もの男女が駆け寄ってきたら驚きもするだろう。


「な、なんだい……君は?」

「パパ、さがしてたんだよ!」

「パパ……?」


 ロアが父と呼んだその男は、ロアよりは暗めのブロンド髪を持ついかにも人の良さそうな優男であり、背は高いもののアキ並にはモヤシ体型だ。そして、青緑のジャケットが目立つ小奇麗な服を纏っていた。

 そんな男は、駆け寄り脚にしがみ付いたロアを盛大に狼狽えながら見下ろしている。その反応に、一瞬にしてグレイとメディナが警戒心を抱いたことは俺にも感じ取れた。

 だが、ニール達はその男の不自然な挙動に気付いていない。


「あなたが、ロアのお父さんですか?」

「お父さん……? いや、僕に子供なんていないよ?」

「え――」


 状況を飲み込めていない様子の男に声を掛けたのはニールだったが、予想外の返答に言葉を失う。それには、冷静ではなかったロアも異常だと気付いたらしく、咄嗟に男から離れたのだった。


「それより、君……もしかして、浄化師の生き残りかな?」

「え、あ……はい」

「わぁ! こんなところで会えるなんて、幸運だなぁ!」


 ニール達の動揺やロアが離れたことはまるで意に介さず、あくまでマイペースに話を進める男は、ニールに歩み寄りながら無邪気に喜んで見せた――が、それは罠だ。

 にこにこと笑みを浮かべたままニールに右手を伸ばすと、男は袖口から()()を発射したのだ。


「うわっ!?」

「っ……おい、あんた! 一体どういうつもりだ!?」


 勿論、俺は黙ってその様子を眺めていた訳ではない。本来なら男の手が伸ばされた瞬間にニールが後退り攻撃を避ける筈なのだが、何故か全く動かなかったため慌ててニールの前に飛び出し、大剣を盾にして間一髪でその()()を弾くことに成功した。大剣で弾くことが出来たことと金属音がしたことから、恐らく暗器の類だろうとは予想がついたが、それをまじまじと確認する精神的な余裕はない。

 何故なら今の攻撃で、目の前の男が敵であることが確定してしまったからだ。


「ああ、話していなかったね。僕はエディ、魔王軍の幹部の一人さ」


 そう、こいつは人間でありながら魔王軍の幹部になった、所謂中ボスなのだ。

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