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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第5章 火山と温泉街を越えて
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第4話

 宿の出入り口に近付くにつれ、ロア以外の声も聞こえてくるようになってきた。聞こえるのは、男と女の声。恐らく一緒にいたメディナと、どこかで合流したグレイだろう。


「こら、ロア! 待ちなさい!」

「やだ! パパがいるんだもん!」


 どうやらロアが宿の外へ出ようとしていたらしく、普段は素直な彼女にしては珍しく駄々をこねている光景が視界に入った。その様子はどう見ても駄々をこねる子供と母親のやりとりそのものなのだが、それを指摘できる状況ではないため今は黙って成り行きを見守ることにする。


「ロア、落ち着け……本当にそれは、ロアのパパなのか?」

「パパだもん……! 絶対パパだもん!」


 グレイの落ち着いた応対も、まるで幼い娘を宥めようとしている父親のようであり、会話内容をしっかり聞いていなかった通りがかりの宿泊客達は親子の微笑ましいやりとりにも見えたかもしれない。だが残念ながらこいつらは、全員赤の他人だ。

 その三人のあまりの悪目立ちぶりについ関わるのを止めようかと思ってしまったが、周囲の目など気にしない図太さの塊のヨシュが真っ先に突っ込んでいってしまったため、結局他人の振りはできなかったのだった。


「おい、どうしたんだ?」

「……ロアの父親が、森の方に歩いて行ったって言うのよ……」

「ロアがそれを見たの?」

「うん、パパだったよ! ママが作ってくれたお洋服をきてたもん!」


 すっかり疲れた様子のメディナは、肩を落としながらもロアが飛び出さないよう捕まえている。彼女の様子だと、これはここ数分の出来事ではないのだろう。別にメディナもロアの言葉を疑っている訳ではないのだが、一人で飛び出そうとするロアの頑なさには辟易しているようだ。


「……洋服か」

「背格好も一致しているらしい……というのは、この子の証言なんだが」


 グレイも疑ってはいないようだが、子供の言うことだという事実が完全に信用するには足を引っ張ってしまっているのだろう。現に冷静さを欠いているロアを見ていると、慎重に行きたくなる気持ちも分からないでもない。

 ただ、これはある程度の人生経験を積んだからこその感覚であり、まだ十代の若い子供達には通用するものじゃない。特にフィーとヨシュの二人はロアの言葉を完全に信用しており、今にも飛び出しそうなほど焦っているのだ。一緒にいると危なっかしくて仕方ないが、これは主人公側の人間らしい感性だろう。


「本当に森に行ったなら、危ないよね。森には魔物が集まってるらしいし……」

「そんな……!」

「……それは本当?」

「うん。今騒ぎになってるから、間違いないわ」


 その点、俺達全員を見渡し状況を整理するニールは、比較的冷静だ。熱血成分をフィーに取られた分、理性的な性格になったのだろうが、目の前で見ていると案外しっかりと主人公をしていて、これはこれで頼もしいのかもしれない。流石に頼もしさはメディナやグレイには劣るものの、年の割には十分すぎるほどだろう。


「じゃあ、行くしかねーだろ」

「ヨシュお兄ちゃん……」


 森の現状を聞かされいっそう取り乱すロアの頭を軽く撫で、ヨシュは拳を握り締める。俺としては、流石は鉄砲玉と褒めたいところではあるが、既に森に行く気満々の男を見つめるとメディナは深く溜息をついてしまった。

 メディナはこの街の出身だからこそ、森の危険性をこの中の誰よりも理解している。その上魔物まで集まっているため、軽い気持ちで森へ行くことは認められなかったのだろう。


「貴方、そう簡単に言うけどね……」

「魔物だらけのトコなんて今までも散々行ってんだから、今更変わんねーよ」

「そうだね、本当にロアのお父さんなら危ないし……ボクも行きたいと思ってるけど、みんなはどう?」


 だが、ヨシュにとっては仲間の身内の危機の方が重要なのだ。もしかすると、今もロアに死んだ妹の姿を重ねているのかもしれない。そう思うと少し不憫に感じるが、今わざわざ傷を開く必要もないだろう。

 そんなヨシュの意見には、比較的慎重な方とはいえ情が深いためニールも無視は出来ないらしく、すっかり助けに行く気になってしまった。


「あたしはいく!」

「わたしも行くわ!」


 そして元々やる気満々のロアとフィーに続き、俺とアキまで頷いた事でメディナは力なく首を振る。彼女も初めから説得が難しいことは分かっている筈なのに、それでもみんなの安全を考えて一度は止めてくれるところは、保護者役らしいというかなんというか。本来なら年長者のグレイの役割だろうに、グレイはどちらかというと母親のような包容力を持って接してくるため、このパーティは今後もこんな感じで続いていくのだ。まるで家族のようだ。


「これは、行くしかなさそうだな」

「……仕方ないわね」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」


 大人二人が折れたことでようやく落ち着いた一行は、森を目指して宿から出発したのだった。

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