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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第4章 砂漠の遺跡
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第9話

 世の中には、大まかに分けて二種類の人間がいる。運が良い奴と、運が悪い奴だ。

 そして俺は、運が悪い奴に分類されるようだ。


 ここまでの人生は順風満帆とまではいかないものの、それなりになあなあで生きて来れていた気がするのだが、ここ数週間は酷い。とにかく酷い。

 まずゲームの二周目を始める直前にこの世界に巻き込まれ、帰り方もわからないまま旅をして、しかも少し若返った挙句に美少女になっている。特殊な能力と言えば、現状誰にも負けない怪力とちょっと高めの身体能力程度という、それは本当に利点なのか、と問いかけられても素直に頷くことが出来ないレベルというのが、現状への悲壮感を醸し出していた。


「だから、なんで俺が今日もこの部屋なんだよ……」

「ご、ごめんね。ハルさん……ボク、その……そっち見ないようにするからっ」


 今日も今日とて公正なるジャンケンに負け、アピの宿の例の部屋にぶちこまれてしまったあたりが更に悲しい。相手がニールという事もなんというか、アキとは違う意味で安心できないのだ。

 というのも、ヨシュやグレイなら恐らく互いに全く気にしないのだが、この少年はどう考えても俺に気がある。しかも俺のこの女の子とは程遠い粗暴な言動を見ても、今のところ全く幻滅している様子もないという猛者っぷりまで披露している始末だ。頼むから本物の女の子と健全な恋愛を育んでくれ――なんて言えたら、どれほどよかったか。

 今も、ほとんど肌も出さない俺の着替えを見ないように背中を向けた上に布団まで被っていて、ここまでくると可哀想で仕方がない。


「いや、見られて困るもんはねぇけどさ……」

「だ、ダメだよ! ちゃんと隠さなきゃ、危ないよ……!」

「お前相手に、危ないもなにもないだろ?」

「う…………うん、そうかもしれないけど……でも」


 ――といったように、ニールは部屋割りが決まった時点からずっとこんな感じなのだ。

 今までは俺に気があるとしても一時の気の迷いだろうと高を括っていたが、この部屋に入ってからのニールの挙動により、何も変わっていないどころか更に意識されていることを理解して頭を抱えたくなる。しかし、ここまでの時点で幻滅してくれていないのであれば、もう俺にはどうしようもない。今のところは諦めるしかないだろう。


「まあ、仕方ねぇか……気を遣ってもらえんのは嬉しいけど、自分の事も気にしろよ? 俺なんかよりニールの方がよっぽど毎日動いてんだから、ちゃんと休まねぇと」

「それは大丈夫だよ、ちゃんと鍛えてるし休んでるもん……」

「それならいいんだけどよ…………うーん」


 正直なところ、意識され過ぎてやりづらいというか、こっちまで意識して緊張するというか。とにかく、もう少し落ち着いてもらわなければ、俺も安心して休めない。ここはなんとか意識を逸らさなければ。


「…………よし、気晴らしになんか話すか!」


 悲しいことに、慣れてきてしまったボタンやリボンが多くややこしい女物の服の着替えを終えた俺は、部屋に備え付けられたコップに水差しの水を注ぎ、布団に包まったまま顔だけを出したニールに差し出した。

 ちなみに、着替えは慣れても、髪は自力では一本にしか結べない。 


「――って言っても、俺から話せる事なんてそんなにねぇけどさ」

「……昨日は、アキさんとも話したの?」


 おずおずとコップを受け取りながら布団から這い出てきたニールは、探るような目を向けながら昨夜の話題を持ち出してくる。まあ、気になるのは分かる。なにせ美少女とイケメンが同じ部屋で一晩を過ごしたのだ。ニールとしては気が気ではないだろうが、互いに異性として興味を持っていない人間同士が、愚痴と身の上話をした程度の至極健全な夜を過ごしただけなのだから、どうかそこは安心してほしいところだ。


「ああ、せっかくだから色々話したよ。俺、みんなと個別に話す機会ってあんまねぇし、お前ともちゃんと話せてないだろ?」

「うーん……言われてみれば、そうかも……?」

「ま、一緒に旅してるんだし、仲良くしとかないとな」


 仲良くとは言ったものの、実のところアキの奴は家族構成や抱いている不安や不満を口にはしたにもかかわらず、自らの正体を匂わせる情報は一切口にしていなかった。学生であるという情報と、このゲームを二周目までクリアしたという情報だけは語られたものの、性別を判別される情報以外はあけっぴろげに話した俺とは違い結構な秘密主義らしく、同じ境遇だというのに一晩話しても本当に仲良く出来たかは分からない。

 その点、素直なニールの方がよほどとっつきやすいだろう。


「そういうことだから、親交を深めるためにも話そうぜ?」

「う、うん! えっと、じゃあ……何から話そう」

「そうだな…………ご、ご趣味は……?」

「あはは、それじゃお見合いみたいだよ!」


 思春期特有の浅い笑いのツボのおかげで、ようやく肩の力を抜いた主人公に俺も胸を撫で下ろす。ぼろが出ないように気を遣いながら、今までの旅の事やこれから先のことについての期待や不安などを互いに零し、その日は早めに床に就いたのだった。

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