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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第4章 砂漠の遺跡
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第1話

 計八人という大所帯になったニール御一行は、アピに向かっていた。トルシアを出て二日程度は緑も多く水場も見られたが、ある所から砂と乾いた木々が転々とするのみの砂漠が続いている。

 勿論砂漠になっているということは、その場は絵に描いたような灼熱地獄が待っているわけで――


「あづい」


 元々、フィーの趣味でごってごてのロリィタワンピースを着せられていた俺の体感気温は、他の面々とは比較にならなかった。その上、腐っても俺は前衛であるため動き回り、そりゃもう暑いなんてもんじゃないのだ。

 事前に予測できていたくせに、薄着もせずに砂漠に足に踏み入れたのは、完全に砂漠を舐めてかかっていたと認めざるをえないだろう。


「……もう少し薄着したら?」

「そうする……」

「火傷するから、袖のある服にするのよ」


 岩陰で休憩を取っていた一行の端でそんな問答をしていた俺は、お前は俺の母ちゃんか、などとメディナに突っ込む気力もなく(そもそも年齢的には姉ちゃんだ)その場で服を脱ごうとしたところ、フィーに慌てて止められてしまったのだった。


「って、ちょっとちょっと! こんなところで脱がないでよ!」

「……あ、そうだった……」

「……暑さにやられてるわね」

「危機感がないんだから、もう!」


 誰もいない陰に押し込まれた俺はのろのろと新しい服に着替えながらも、故郷の夏よりはマシかもしれないと思い返していた。湿度と高温、直射日光のトリプルパンチに比べれば、湿度が低い分圧倒的にこの砂漠の方が快適なのだ。だからといって、暑くないわけではないのだが。


「……なんで、二人は元気なんだ」


 それにしても、なんだって他のみんなは平気そうにしているのか。いつもの調子で暴れ回っているヨシュは少々怪しくはなってきたが、フィーとメディナの二人に関しては暑さを感じている様子すらないのだ。


「まあ、ある程度は魔法でどうにでもなるから」

「う、羨ましい……」


 メディナは、魔法を服に巡らせて体感気温をある程度調節できるらしい。流石はこの世界屈指の魔法使い、頭の良い奴は実に生き方が賢い。ということは、アキが平気そうにしているのもそれのお陰かと一瞬視線を向けてみたが、メディナと違い汗をかいていることから、彼女程は魔法を扱えていないことが分かる。やはりメディナは凄いのだ。


「わたしは暑いの平気だし」

「若いな……」

「ハルの方が若いじゃない! ちょっと、本当に大丈夫……?」


 フィーは単純に暑さに強いらしい。が、お前は北部にある王都生まれの王都育ちだろ、という突っ込みをしてもいいのか俺には分からなかった。彼女が薄着なのも関係しているのだろうが。


「今から大丈夫になるから、安心してくれ……」


 結論から言うと、着替えても大して涼しくはならなかった。が、当然立ち止まって夜を迎えると猛烈な寒さが待っているため、諦めてアピに向けて出発したのだった。


 ◆◆◆


「あ、町……かな?」


 夕方頃、視界の端に建物の姿が見えてきた。

 直射日光に晒されなくなってきたことで体力も少しは回復してきた俺はなんとか頑張って歩いていたが、町が見えてくると安心からか疲労感がどっと出てきてしまったのだった。


「ああ、あれがアピだ。その北西に件の遺跡がある」

「なら、今日は宿を取りましょうか。みなさん、お疲れですし」

「そうだね。ボクも疲れちゃったよ」


 ほとんど疲れを見せないニールとグレイ、アキの三人が冷静にそんな会話を繰り広げていた一方、俺とヨシュ、ロアは疲れ果ててくたくただった。俺とロアは肉体年齢的にも仕方ないところがあるだろうが、ヨシュの奴は誰よりも動き回っていたからか、昼過ぎから既に口数が少なくなってしまっている。熱中症にならないようにメディナが度々様子を見ていたため休めば元に戻るだろうが、ほんの少し羨ましかったのは内緒だ。


「……ほら、少しは涼しいんじゃない?」

「わ、悪ぃ……」


 いや、前言撤回しよう。滅茶苦茶羨ましい。

 メディナに魔法で涼しくしてもらうなんてお前どういうご身分なんですか。と、言いながら突撃したいところだったが、ヨシュが俺より重症なのは分かっていたため、悔しさで噛みしめた勢いで唇が切れそうな程にぐっと堪えてその場は譲ったのである。後で見てろよ、ヨシュ。


「ヨシュ、大丈夫……?」

「ペース配分を間違えたんだろう、若い内はそういう失敗もあるさ」

「貴方、そんなに年いってないじゃない……」


 ヨシュを一切責めることのないグレイの大らかな意見には感心するばかりだが、俺は知っている。これは間違いなく、宿に着いた後にそれとなく注意される流れだという事を。

 まあ、本当に注意するだけなのだから怖いという訳でもないのだが、グレイのそれは穏やかな母が時折叱った時のそれに近いため、言われた本人には思いのほか心に刺さるらしいのだ。グレイもそれを分かってやっているのかもしれないが、若い上、子持ちでもないくせにどうしてそこまで成熟できるのかと、それはそれで恐ろしく感じるのである。


「ニールくんは大丈夫ですか?」

「うん、こう見えて結構体力はあるんだ」

「流石ですね。でも、無理は禁物ですよ?」

「ありがとう、アキさん」


 そして、アキとニールは相変わらずだった。この二人はよほど気が合うのか、油断するとすぐに二人の世界に入るから、そういう点で言えばある意味グレイよりも恐ろしいかもしれない。

 もっとも、それ自体はどうでもよかったのだが、トルシアに到着以降はニールに捕まりその二人のやり取りに俺まで巻き込まれるようになってしまった事が、ここ数日の俺の頭痛の種だった。頼むからその怪しい世界に俺を巻き込むな、というやつである。


 こんな調子で道中騒がしかった一行は、ウルムを経ってから一週間ほどして、ようやく砂漠の町・アピに到着したのだった。

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