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俺は大剣使いの美少女  作者: 天海
第3章 洞窟とハンサムと幼女
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第6話

 快晴の下、船は順調に海を走っていた。ゲーム通りに進めば、何の問題もなく次の町に着くだろう。

 食堂や船室はあるがそれ以外に暇を潰すものもなく、手持ち無沙汰の俺は船尾側の甲板でぼうっと海を眺めていた。町と違い海は元の世界と大差ない上、フェリー程度なら乗った事もあり大して新鮮味もないため本当にやることがないのだ。

 こんな時、現実世界なら暇つぶしにゲームでもしていたのに――などと考えてしまうと帰りたくて仕方がなくなるため、それは敢えて考えないようにしている。


「いい天気でよかったね」

「ええ。航海士の話だと、この二日は天気が乱れないみたいですよ」


 そんな俺から数メートル離れた甲板では、ニールとアキがはしゃいでいた。若者らしく楽しそうで大変よろしいが、隣で船酔いに苦しんでいるヨシュのことも少しは思い出してやってほしい。


「……ああ、なんだこれ……」


 そうやって周囲と海を眺めながらしばらく呆けていたが、ある時違和感に気付いた。それは気付くと次第に不快感に変わっていき、遂には思わず口に出てしまう。


「どうしたのよ?」

「髪、めちゃくちゃゴワゴワするんだよ……べたついて気持ち悪い……」

「潮風のせいね。貴女も髪が長いし、しかも癖毛だもの」


 たしかに今の俺は腰ほどまでの長さの長髪を持っており、僅かに不機嫌そうにしているメディナも同じく長い髪の持ち主だ。なお、フィーは肩ほどまでの長さだからか、普段通りに振る舞っている。

 元の身体は髪が短かったから気にしたこともなかったが、長髪だとここまで不便になるものなのかと感心したものの、正直それどころではない。元々癖毛とはいえ、ここまで指通りが悪い状態に陥ったことのなかった俺は、不快感を隠すことが出来ずに渋い顔をしていたのだろう。


「あ、ならひとつにまとめてあげる。それなら気にならないんじゃない?」

「うん……頼む……」


 何故か楽しげなフィーに髪を弄られながら、俺は長髪の不便さとそれを好き好んで維持する人間の根性にただただ感服するばかりだった。


 ◆◆◆


「ここがトルシアですか」

「こっちも港町だから、当然漁業が盛んよ。まあ、マリノに比べたら商業の方が規模が大きいかしら」


 船から降りてすぐ、桟橋の向こうにはマリノと同じくレンガ造りの建物と木造の建物が入り乱れた町が見える。ここはトルシア、東の大陸でニール達が最初に訪れる町だ。

 そして、最後の仲間がいる町でもある。


「ここからアピに向かうんだよね?」

「ええ…………何かしら。騒がしいわね」

「人だかりができてるな」


 そんな町に足を踏み入れてすぐ、真っ先に異変に気付いたのはメディナだ。町の中心部、広場のようになっている場所に武装した男と町民らしき人間が集まっており、周囲は騒然としていたのである。誰がどう見ても、問題が発生しているのは明らかだった。


「なぁ、なにかあったのか?」

「あ? ああ、旅行者か? なら、今は町を出ない方がいいぞ。近くの洞窟に魔族が入っていったらしいんだが……それ以外にも、ちょっとな」


 真っ先に人だかりの端に立っていた町民らしき男に声を掛けたのは、さっきまで船酔いの余波で具合悪そうにしていたヨシュである。流石はパーティの鉄砲玉、どんな体調であろうと溢れる好奇心には敵わないらしい。

 まだ僅かに青い顔をしていたヨシュに驚きながらも親切に忠告してくれた町民の男は、一見旅行者にしか見えないらしい俺達に懇切丁寧に状況を教えてくれるのだった。


「それ以外?」

「実はよ、朝早くに子供が洞窟の中に一人で入っていったっていうんだ。すぐに旅人が助けに行ったんだが、二人とも半日も戻ってこなくてな……こりゃ危ないって事で、自警団から救出用の部隊を――」

「子供が……!?」


 魔族といえば、先日倒したブレンダンのような魔王軍の幹部にしか存在しない。それは一般人にも広く知られている話のため、男は俺達に注意を促してくれたのだ。しかし、そう上手くいかないことを俺は知っている。

 先頭で話を聞いていたヨシュとアキを押しのけて町民の男に詰め寄ったフィーは、恐る恐る頷いた男の反応を見るや否や町の出入口に向かって駆け出したのだ。当然すぐにヨシュに捕まえられたが、既にフィーの意識は件の洞窟に入った二人に向いているらしく、冷静さを欠いて暴れる。


「おい、ちょっと待てよフィー! なに一人で飛び出してんだ」

「だって危ないじゃない! 早く助けに行かなきゃ……!」

「おいおい、やめとけ嬢ちゃん……! 魔物ならまだしも、魔族だぞ! 危険すぎる!」


 流石にこれだけ騒げば周囲の人間の注目も浴びてしまい、救出部隊に選ばれたと思われる自警団の若い男達からもフィーは口々に窘められる。しかし、失意の中同じ境遇のニールを引っ張ってここまで来た彼女は、その程度で考えを改めるほど意志の弱い人間ではない。


「大丈夫、わたし強いんだから! ほら、みんな行くわよ!!」


 トラブルメーカーというほど酷いわけでもないのだが、フィーの正義感は並のものではなく、時折こうして面倒ごとに首を突っ込むことがある。とはいえ、今回はその爆発寸前の正義感による行動がどうしても必要であるため、俺は止めるつもりはなかった。


「……どうするよ?」

「フィーが言い出したら、行くしかないよ。それに、洞窟に行った人たちも心配だし……」

「……だな」


 ニールとヨシュも既に慣れてしまったのか、そんな会話をしながら諦めた様に肩を竦めている。

 一方、俺と境遇を同じくするアキや、先日仲間入りしたばかりのメディナも反対する様子はなく、既に別の事に思考を巡らせているようだ。


「ほら、みんな早く!」

「フィーさん、準備だけでも整えていきましょう」

「そうよ。行くのは構わないけど、身支度ぐらいは済ませなきゃこっちが危ないわ」

「う……わ、わかったわよ……」


 フィーの押しの強さは、ほんの数日一緒にいるだけである程度把握できるものだ。賢いメディナはそんなフィーの性格を既に理解しているらしく、問題を解決した方が早いと考えたのだ。

 ――というのは、後日、本人が明かす事実である。

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