第3話
洞窟内を歩き続けて二、三時間ほど経った頃、ようやく洞窟の先に魔法で作られたものとは別の光が見えてきた。マリノ側の出口が見えたのだ。
「やった、外よ!! やっとジメジメして暗くて虫が這っててカビ臭いコウモリ地獄から解放されたわ!」
外の光を視界に入れた途端、一行から離れて即座に外に駆け出した人物がいた。勿論、フィーである。
早口で洞窟に対する悪口を散々述べながらあまりにも勢いよく飛び出したため、残された俺達は呆然とその姿を見守ってしまったが、洞窟の外から脱出を促す声が届いたことにより思わず顔を見合わせて笑ってしまったのだった。
「あいつ、凄い勢いで出て行ったな……」
「よっぽど嫌だったんですね……可哀想に」
洞窟はマリノの町が見渡せる丘の上に繋がっていた。そのおかげか、大きな港と人で賑わっている港町がすぐに視界に入り、その光景に自分の置かれた状況も忘れてうっかり感動してしまったほどだ。こういう感動が、本来の旅の醍醐味なんだろうか。
「うーん……ああ、あれがマリノか。港町って結構デカいんだな」
「本当だ……! 凄いね、船がいっぱいあるよ!」
一方、海を初めて見た少年二人も、眼下に広がる海や船を眺め目を輝かせていた。ニールは内陸の村、ヨシュは山の麓の町に住んでいたため、旅でもしなければ海を見ることもなかっただろう。その辺りの事情はフィーも同様だが、彼女は海への興味より洞窟からの解放に感動しているのか、海に対し感慨を抱いている様子はなかった。
「マリノは海に面してるから、漁業が盛んでね。あの船のほとんどが、漁船なのよ」
「へぇ。じゃあ、料理も魚が多いのかな?」
「そうね。魚介の他に、海藻なんかも食べるみたい。生で食べるものもあるし」
食欲旺盛な少年らしく、ニールの興味は食事に向いているらしい。当然、メディナはそんな少年の疑問に応える程度には知識が豊富なため、ニールでなくてもいちいち質問してみたくなる気持ちは分からなくもない。それが出来ない理由は、俺は彼女の説明を聞くまでもなく知っているという事実が横たわっているからなのであった。
まあ、それでもメディナと話せる機会があるなら積極的に聞いていく所存だが。
「魚って、生で食べれるんだ。知らなかったよ」
「川や池で獲れる淡水魚は無理だけど、海水魚は生食も可能なの。あとは、イカとかタコもね」
鮮度が命だからマリノでしか食べれないけど、とメディナは付け加えたが、未知への恐怖よりも好奇心の方が勝るのかニールとヨシュは目を輝かせて聞いていた。一方、フィーの表情は渋い。
「た、タコは火が通ってても嫌ね……」
この世界の食文化は欧州圏に似通っており、料理も現実世界で見慣れたものが多かった。この世界独自の食材や料理の方が少ないのではないかとも思うが、別にゲームシステムに関わるような要素ではないのだから、わざわざ細かく設定するまでもなかったのだろう。実際、現実にある料理の方が想像しやすくて助かるし、この世界に来てからは見慣れた料理のおかげで食事面に対するストレスは大幅に軽減されているのだ。ただただありがたい。
「まあ、嫌なら無理に食べなくてもいいんじゃない?」
「そ、そうよね……よし、早く行きましょ! 休みたいわ!」
船の手配の関係もあり、少しはマリノに滞在しなければいけないだろう。フィーの言葉に頷いた一同は、マリノに向けて歩を進めたのだった。