第6話
トップのブレンダンを失った途端、一目散に逃げていく魔物達を見送りながら基地から脱出した俺達だったが、訳あってその場から動くことが出来なかった。
「ヨシュ……! ヨシュ、起きて!」
「……ん、ああ……?」
痺れを切らしたフィーが何度か呼びかけ肩を揺すると、アキの魔法でぐっすり眠っていたヨシュはようやく目を覚ます。ゲームだと物理的に気絶させられたからか随分と具合悪そうにしていたのだが、今回は文字通り眠りから覚めた為、欠伸をしながら半身を起こし目を擦るなどという、それはもう気持ちよさそうに目を覚ましたのである。
さっきまでの戦闘や脱出時の苦労を思い出し思わず殴りたくなってしまったが、俺は大人だ。そこは堪えよう。
「……あれ、なんでオレ外にいんだ?」
「惑わされていた間の記憶は、ないようね……あいつの魔力も残ってない。もう大丈夫よ」
「よかった……あのままだったら、どうしようかと……」
ほっと胸を撫で下ろすニールや、冷静に体調を診ていたメディナの言動を困惑した様子で眺めていたヨシュだったが、自身が地べたに寝転がっていたことに気付くと顔を引きつらせる。詳しくは分かっていないだろうが、何となく状況を察したのだろう。
「…………もしかしてオレ、めちゃくちゃ迷惑かけたのか……?」
「かけたわよ! もう、大変だったんだから!」
フィーの言葉に俺達は全力で頷いた。ただでさえ図体が大きく格闘術を得意とする男が、敵に洗脳されて暴れ回ったのだ。その上こっちには、俺を含めた子供三人と美女とモヤシ男という、見た目だけならどう考えても太刀打ちできない面々が揃っている。ニールとアキがいなければ全滅していたかもしれないと思うと、正直ゾッとする状況だった。
だが、俺の苦労はそれだけではない。
「いやほんと、大変だったぜ……ヨシュ運ぶの」
「は? まさかおまえ……ハルが?」
「俺しかあんたのこと運べなかったんだよ……無駄に体格のいい奴め……」
そう、眠っているヨシュをここまで運んだのは俺だった。何が悲しくて、ゲームの世界に来てまで男を担がなきゃいけないんだ。いや、元の身体じゃ女の子すら担いだことがないが――などと内心愚痴を零し、自分より身長も体重もある男の温もりを背中に感じながらここまで来た俺の心境を考えてくれ。どうせ運ぶならメディナかフィーがよかった。心の底からそう思う。
付け加えると、俺達がここから動けなかったのは、町までの距離的にも彼をこれ以上運ぶことが難しかったからだ。いくら俺の体に力が有り余っているとはいえ、担いだままあの森を抜けるのはちょっとばかり現実的ではなかった。
「そ、そりゃ悪かったな……」
ヨシュとしても、俺の様な少女に運ばれたのは男としてのプライドが傷付けられたらしい。落ち込んでいるようにも見える複雑そうな表情を浮かべながら、俺に頭を下げてきたのだ。
そんな悲しい男二人のやり取りを見終わったニールがその場で立ち上がり、穏やかな顔で俺達を見渡す。
「ヨシュも起きたし、一旦町に戻ろうか」
「ええ、詳しい話は道中でしましょう。メディナさんは、これからどうされますか?」
ニールの言葉に真っ先に反応したアキは、ヨシュから離れ基地を眺めていたメディナに目を向けた。
「……貴方達、魔王を倒すのよね?」
「うん、そのつもりだよ」
「なら、一緒に行かせてもらうわ。お礼……と言うのも変だけれど」
すっかり世話になってしまったから、と付け加えたメディナは冷静さを装っていたが、出会った頃の警戒ぶりが嘘のように口元は緩んでいる。どうやら行き倒れていた彼女を助けたことや、彼女の復讐のためにここまで一緒に戦った事で、ニール達を信頼してくれたようだ。
「うん……! ありがとう、メディナさん!」
そんなわけで、俺達は魔法使いの美女メディナを仲間に加え、一旦ウルムの町に戻ることになったのだった。