第6話
主がいなくなり崩れ始めた魔王の城から脱出し、俺達は崩れ落ちるさまを呆然と眺めていた。
中にいた魔物達がどうなったのかまでは分からないが、考えるだけ無駄だろうし、今の俺達にはどうしようもない。そもそも長期間魔王のそばにいたような魔物なら、浄化もそうそう効きはしないだろうから、救うのは難しかっただろう。
そんなことを考えながら眺めている間に、どっと疲れが押し寄せてくるのを感じ、その場に座り込んでしまった。
「……さて、一旦どこかで休んだ方がいいだろうな」
俺より幼いロアも緊張が解けたからか同じように座り込みかけたが、それはエディが抱き上げて阻止している。一方、やれるだけのことをやり切ったニールやフィーは、膝から崩れ落ちるように座り込んでいた。この二人は本当に頑張ったのだから、こうなるのも無理はない。しかし、それを褒めちぎる肉親がいないのも、この二人なのである。
だからこそ、その代わりを務めていたのがメディナやグレイ、アキであった。
「でも、どこに行くの? またアルジュっていうのも、ニールが……」
「ラルタルはどう? 色々と会いたい人もいるでしょうし、あそこの住人はヴェロニカにも好意的だったわ」
この大人数で押しかけて、しかも見た目はまんま魔族なヴェロニカを連れて入れる人里はないだろう。そうなると、ニールの故郷であるアルジュが真っ先に選択肢に入るが、こんな疲れ切った面々で滅んだ村に行くというのはどうにも精神的に厳しいものがある。故に、メディナは“ラルタル”の名を上げたのである。
ラルタルは元々魔物の村だし、ヴェロニカ(というよりヴァルヴァラ)について語ってくれた時も彼女に対する好意のようなものは感じられた。だから、グレイの弟のトマスもいるそこに行こうというのだろう。
「……ラルタルとは?」
「浄化師に浄化された魔物が生活している集落よ。以前、貴女が異空間に退避させてくれた後に、そこの近くに辿り着いたの」
「そんな所があったんだ……僕が世界中を見ている間には見つからなかったけど、見逃しがあったのかな?」
「あの村は浄化師の結界で守られていたから、見つけられないのも無理もないだろうな」
分かっていたことだが、あの村は魔王軍には認知されていなかったらしい。仮に、洗脳されたエディが気付いていたらとっくの昔に滅ぼされていただろうから、当然といえば当然だろうが。
そんな話を聞き流しながら、喋る事すら億劫になっていた俺はただ黙って城の跡を眺めていたが、急に話題に上げられ顔を上げざるを得なくなってしまった。
「……ニールくんもですが、ハルさんも限界です。そろそろ向かいませんか?」
「い、いや……俺のことはいいけど、ニールは休ませてやろうぜ」
俺は疲労よりも心労の方が勝るが、ニールはあれだけ浄化の術を使ったのだからそれは酷い疲労に襲われているに違いない。現に、城を脱出してから今までの間、一度もあいつは口を開いていないのだ。そりゃ、ニールに好意を向けているアキじゃなくても心配するに決まっているだろう。
「ええ、そうね。ヴェロニカ、やれるかしら?」
「はい、任せてください」
なんとか立ち上がった俺達と、妙に元気な大人達を集めたヴェロニカは、メディナの見せた地図の位置を把握した様に何度か頷くと、いつもの空間魔法を唱えたのだった。