第4話
「あれで、本当に何とかなるんですか……?」
なんとか魔王の猛攻に耐えていた俺は、背後で援護していたアキの珍しく不安げな声を聞いた。
俺が知る限り、アキがそんな声を上げたことは、今まで一度たりともなかった。こいつはこのゲームの二周目を知っていることと、魔法使いという後衛として戦うこと、そして元々の性格が落ち着いているタイプだからか、滅多に興奮すらしないのである。
そんなアキが何を不安がるのかと俺も一瞬理解が出来なかったが、おそらく俺が提案した“フィーの矢に浄化の術を使う”という作戦についてなんだろう。
「分かんねぇけど、こんなに攻撃が激しいんじゃ、時間を稼ぐ方法がねぇとどうにも……なっ!」
「そ、そうですね……すみません、気弱なことを言ってしまって」
「気にすんな。それより、あんま前に出んなよ!」
もしかすると、こいつは予想外の出来事に弱いのかもしれない。もしくは、俺が突飛なことを言いだしたから、不安だったのかもしれないが、もし後者だったら俺は後で怒っていいだろう。今まで頼もしいことを言った事がないから、仕方がないかもしれないとはいえ、それはそれである。
「くそ! ほんと激しいな、こいつ!」
「弱音を吐くな! 俺達が耐えなければ、後がないぞ!」
「分かってるよ……!」
「フン……啖呵を切った割には、まるで相手にならんではないか……浄化師を出せ、あやつ以外では暇つぶしにもならん」
後衛として支援している面々はともかく、俺とヨシュとグレイの負担はかなりのものである。
特に、盾役になりつつある俺以外の二人は、ヴェロニカの空間魔法による支援で何とかなっているとはいえ、やはり負傷は免れない。が、それでも切り札のニールの為にも、決して引くわけにはいかないのだ。
退屈そうに俺達の相手をする魔王には悪いが、もう少しこの時間稼ぎに付き合ってもらうしかない。
「はいはい、後でいくらでも出してやるって! 今は俺らで我慢しな!」
結局啖呵を切りつつ現状それほどの意味を成さない物理攻撃で、なんとか強がっていた俺達だった。
が――
「っなに……!?」
突如、魔王の腕目がけて飛んできた何かがその屈強な手の平に刺さり、しっかり貫いていったのである。その上、勢い余って魔王の巨体ごと少し後方に追いやる程であった。
「みんな、おまたせ!」
それは、フィーの撃った矢であった。心なしか、弓も矢も白く輝いているように見えるそれは、魔王の身体に刺さったままじりじりとその体を蝕むように光が広がっている。
俺の苦し紛れの策が、なんとか意味を成したようだ。
「フィー!」
「ハルの案、結構すごいじゃない! 魔王にしっかり効いてるわ!」
「よかった……頼むぜ、フィー! お前の弓の腕が要だ!」
さっきまでの余裕の態度が嘘のように苦しみ出した魔王を見つめながら、俺は心底安心し胸を撫で下ろす。これで、後はニールが魔王に直接浄化の術を使えるほど余裕が出来れば、俺達の勝利である。
「まっかせて! ニール、いける?」
「大丈夫、何回でも浄化できるよ!」
「オッケー! じゃあ、決着つけてやりましょ!」
エディの魔法で守られながら戦線に復帰してきたニールの顔色は悪くない。これなら、大丈夫だ。
よく分からないままここまで来て、理不尽な目に遭ってきたが、これで終わりだ。魔王を倒し、この世界の物語を終わらせてしまおう。