第3話
魔王の攻撃は激しかった。腕を一振りすれば前衛が薙ぎ払われ、武器の攻撃もあまり通らず、かと言って魔法が通るわけでもなく、俺達は防戦に追い込まれていた。
勿論、ただ薙ぎ払われるだけでなく鋭い爪で切りつけられるため、最前線に立つニールやヨシュは必然的に傷が増えてしまう。
「っうぅ……っ」
「無理すんな、ニール! おまえがやられたら意味ねーだろ!」
ヨシュは格闘家だから仕方がないが、ニールに比べると体力もあり体格もいいからか、比較的余裕を見せている。そして、俺とグレイは得物が長物だから、距離も取れ守りもそれほど難しくはない。
だが、ニールは本人自身が小柄で得物もそれほど長さがないため、攻撃を食らうと身を守る事ができないようだ。それに加えて最終戦というプレッシャーもあるのか、ニールはなかなか魔王から距離を取ろうとしなかった。
「治療は任せて。大丈夫よ、ニール……貴方はひとりじゃない」
「……うん、ありがとう」
そんなニールを宥めながら、回復魔法を掛けるメディナのお陰で少しは正気を取り戻しているようだったが、俺達が不利であることには変わりない。現に俺はほとんど攻撃に回れず、盾役として踏ん張る事しか出来ない程だ。
「かったいわね! 矢を弾くってどういう体してんのよっ!」
「防御壁か……あれを何とかしないと、君達の攻撃もあまり通らないな……」
「アキ、あれはどうすればいいの!?」
攻撃が効かずに焦りを見せるフィーは、後方で支援しているアキへ声を掛ける。
本来、弓矢という武器は、剣や槍に比べて殺傷能力が高いものである。そんな武器すらも弾く魔王の身体は、エディの言う通り何らかの力で守られているのだが、それを剥がす方法はたったひとつしかない。そして、その方法を知っているのは、俺とアキだけだった。
「ニールくんの浄化です。浄化を使えば、防御壁も剥がせます」
「ニール! 聞いたわね!」
「うん! でも……」
「攻撃が激しすぎます……あれでは、のんびり浄化している時間なんて……」
こちらはほぼ総攻撃を仕掛けている状況だが、少しでも緩めればどこかが崩れてしまう程度には魔王の攻勢が緩むことはない。ゲーム中ではそこまで酷い状況だった記憶はないから、これはゲームではないからこそ起こる弊害だろう。
とはいえ、ただ黙ってされるがままでいるわけにもいかない。
「……ニール、フィーの矢に浄化の術を使え! それで一時的に動きを止められるかもしれない!」
「そうか……! そうね、その手があったわ!」
そこで俺が思いついたのは、ニールの浄化の術を纏わせた矢で魔王の動きを止める事だった。ただでさえ殺傷能力の高い矢で四肢でも打てば、少しは時間稼ぎになるだろう。それから、本格的に防御壁を剥がせばいいという訳である。
「時間は俺とヨシュ、ハルで稼ぐ!」
「ニール君は僕が守ろう。残りのみんなは、グレイ君達の援護を」
「ええ!」
ニールとエディを後方に下げ、残りのみんなは引き続き時間稼ぎのために、攻め続けることにしたのだった。