第2話
仰々しい扉の先、部屋の最奥には大きな何かが玉座に座り、こちらを見つめていた。恐らく、俺達が城の中に入ってきたことを知っていたんだろう。だが、影の女神の住処で時間を取られていた俺達が無事ここに辿り着くとまでは、考えていなかったのかもしれない。もしくは、突如城の中で行方をくらませた俺達を訝しんでいたのかもしれない。
ただ、遠くからでも分かるその鋭い視線は、俺達を歓迎していない事だけは分かった。
「……遂にここまで来たか。随分と邪魔をしてくれたな、浄化師よ」
浄化師の集落を優先的かつ徹底的に潰したところからも分かる事だが、魔王は魔物の悪意を浄化してしまう浄化師に脅威を感じていたらしい。まあ、魔物は元々悪い生き物ではなかったのだから、せっかく手駒にした魔物を奪われる魔王としては、脅威に思うのも無理はないだろうが。
近付くにつれてその姿の全貌が明らかになった魔王は、魔王と言うよりは悪魔のような風貌であり、大きなコウモリのような翼と、猛獣のような爪が四肢に見える。そして鋭い牙をちらつかせながら、視線をニールに向けていた。怒っているようにも見えたが、それもすぐに声を上げて笑い始めたため、違うのだと察することが出来る。
「だが、わざわざ首を差し出しに来たことだけは褒めてやろう」
「あんたが、魔王……」
「魔王…………みんなの、仇」
様子を窺っているニールとフィーを始め、既にみんなは臨戦態勢に入っていたが、その中でも一人だけは臨戦態勢どころか真っ先に魔法を飛ばし、魔法の爆発によって不意打ちを仕掛けた。
「……フン、なんだそれは。不意打ちにもならんな」
「うーん、やっぱり駄目かぁ……」
それは、稀代の魔法使いエディである。彼は誰よりも先に魔法を使い、少しでも魔王の力を削ごうとしたようだが、魔王は怪我ひとつ追っておらず、まるで効いていないように見える。
しかし、それを目の当たりにしたエディは動揺することもなく、頭を掻いて苦笑するばかりだ。
「貴方、今のは」
「ああ、やはり魔法はあまり効かないらしい。僕らは支援に徹した方が良さそうだね」
「そういうことか……なら、ニール、ヨシュ、フィー、ハル。俺達が要のようだ、気を抜くなよ!」
ああ、そういえばこの魔王には“魔法攻撃が効きづらい”という特徴があった筈だ。つまり、この戦闘において、エディやロア、そしてアキはあまり戦力として数えることが出来ないという事になる(メディナはそもそもヒーラーだから、あまり問題はない)。
その分、物理攻撃に特化している面々が頑張らなければいけない状況であると聞けば、俺の絶望感も何となく理解できるんじゃないだろうか。
「分かった、ヨシュ!」
「おう、いくぞニール!」
「ハル、お前は」
「気を遣わなくていいぜ、俺だって死にたくないからな」
ここまで来ておいて、今更戦いたくないなんて言えるはずがない。もうどうにでもなれ、となる程まで自暴自棄な状況には追い込まれていないが、どうなっても知らないぞ、と言える程度には自棄である。
だから、今の俺は死ぬ気で頑張るつもりだった。
「……そうだな。頼りにしている」
「それはそれで荷が重いなぁ……」
物理特化の面々に指示を出していたグレイも気を遣ってくれていたが、一応正気を保っている俺の様子を見て安心してくれたらしく、軽口を叩きながら既に魔王に斬りかかっていたニール達に続き駆け出す。
それを追って、俺も前線に向かったのだった。