第1話
色々とあったが、影の女神によって裏ダンジョンから脱出させてもらえた俺達は、魔王の城の一角に戻ってきた。
「……ここは」
「あの場所に飛ばされる直前にいた所か……さて、ここから魔王までそう遠くないといいんだが」
城の通路の行き止まりから転移させられていた筈だから、本来の経路に戻るには道を引き返さなければいけない。それがどこだったか――と今となっては随分と前の記憶になってしまったゲームの画面を思い出そうとしていた俺の横で、アキが壁を触りながら歩き始める。
まさか、この城にからくり屋敷みたいな仕掛けでもあるのかと笑いかけたが、本当にそうかもしれないから二周目を知らない俺には、もう何も言えそうにない。
「影の女神を倒した後なら、確かこっちに…………ああ、ありましたね。この道を使えば、魔王のいる最奥まではそう掛からないでしょう」
そうしてアキが探り当てたのは、壁のように見えるが実際は何もなく通り抜けることが出来る壁の先の通路だった。からくり屋敷どころか、お化け屋敷だったようである。まあ、魔王なんてオカルトみたいなものだから、あながち間違いでもないんだろうが。
「……貴方、本当に別の世界から来た人間なのね」
「ふふふ。でも、この戦いが終わったら、私もみなさんと同じく、先を何も知らない存在になりますよ」
それを唖然と眺めていた仲間達は、開き直ったアキの行動に改めて“アキが別世界の人間である”という事実を実感させられたようだ。
◆◆◆
アキが見つけた通路は、城のギミックを抜け魔王のいる階まで一気に抜けることが出来る近道のようなものだった。ある程度歩くと、記憶の薄れている俺でも見覚えのある扉の先に出たのだから、これでようやく俺も信憑性のある言動ができそうである。
「ん、この先だな」
「ええ。みなさん、準備をしっかりとしてください」
勿論、俺が見つけたのは魔王がいる部屋の扉だ。見るからに派手ではあったが、何も知らなければ中ボス辺りが出てきそうな雰囲気も醸している様相だったから、少しぐらいは俺もアキのように別世界の人間らしい先を知っている反応を見せられただろう。
別にその行動に意味はないけれど、ただの対抗意識のようなものだ。気にしてはいけない。
「……大丈夫、ボクはいつでもいけるよ」
「色々あったけど……ここで魔王を倒せば、わたしたちの復讐も終わるのね……」
「…………復讐は終わっても、まだ先があるわ。ちゃんと、生き延びましょう」
俺とアキの言葉で意気込むニールに続き、フィーとメディナがまるで物語のクライマックスに入る直前のような言葉を口にする。いや、まるでもなにもクライマックスなんだが、直前にもっと重大な事件が起こった俺にとっては、そんな緊張感も現実味のないものだったため、どこか他人事のように感じてしまうのである。
「おう、終わったらまずはメシだな。ニールに食わせてやるって約束してたし」
「はは、そうだな。約束を果たすためにも、全員生きて帰るぞ」
「……うん、あたしもパパとママとみんなと、やりたいことたくさんあるから……がんばる」
真剣な三人とは対照的に緊張感のないヨシュの言葉にグレイは笑うが、どちらもふざけているわけではないようだ。
そんな意思表明をロアの言葉で締めくくると、扉に手を掛けていたニールはゆっくりとその手に力を籠め、扉を押した。
「……じゃあ、開けるよ」