第14話
影の女神が正気を取り戻したことで、やっと落ち着いて話ができる状況が整った。つまり、俺とアキの正体について、みんなに知られる時が来てしまったということでもある。
俺達は自分で説明しようとしたが、この状況を作りだしてしまった原因としての責任を取りたい――などと言って、女神自らが俺達の状況について説明役を買って出てしまった。
俺達は別世界の人間である事。精神をコピーされ、この世界で死んだばかりの人物とのキメラにされたこと(流石に気を遣ったのか、本来の性別が肉体とは異なる点については伏せていてくれた)。そして、二度と元の世界や元の身体には戻れないこと。
それを聞いていたみんなは、初めこそ黙って大人しくしていたが、次第に怒りや悲しみに身を震わせ始めてしまう。まあ、身を震わせる程大袈裟な反応をしていたのは、フィーやヨシュ、ロアの若い連中と、似た境遇のヴェロニカだけだったが。
「違う世界からきた人間ですって……?」
「しかも、私と同じように、キメラにされてしまっているなんて……そんな……」
「テメェ! ふたりを元に戻せねえのかよ!?」
ヨシュのそれは最早激昂と言っても過言ではないが、俺には止める元気がない。ただ黙って成り行きを見守り、逃れようのない現実をなんとか受け止めようとするだけでいっぱいいっぱいだったからだ。
「無理なんです……私たちの本来の身体も精神も、元の世界にあるらしくて、戻る先がないんです」
「……ハルさん。だから、そんなに……」
一方、アキはしっかり受け止めているらしく、俺と同じ境遇とは思えないほど落ち着いている。とはいえ、周囲から見ればそれはそれで痛ましい反応らしく、やはりアキも同情の目から逃れることは出来ないようだ。いくらでも同情してほしい状況なんだから、そうなるのも当然だ。
「……アキ。貴方は受け入れているようだけど、どうするつもりなの?」
「私はこのまま生きます。元の持ち主には悪いですが、この体にも愛着が湧いてしまいましたから」
「そう……なら、私達も助力を惜しまないわ」
俺の代わりに泣きかねないニールからの視線を感じながら、黙ってアキとメディナのやり取りを眺めていたが、アキは強がっているわけではないらしく平然とした態度を崩さない。まさかとは思うが、そんなにこの世界への思い入れが強かったんだろうか。それとも、現実世界になにか嫌な思い出でもあるんだろうか。
そんな疑問も浮かんだが、そこまで詮索するのは無粋にも程がある。それに俺は、人のことをどうこう言っていられる立場じゃないのだ。
「ハルは……」
「…………時間をくれ、頼む……」
「そうね……これからゆっくり考えましょう。でも、魔王だけは片付けるわよ」
メディナに言われるまで忘れていたが、考えてみればここはラストダンジョンの中にある裏ダンジョンであり、俺達は魔王を倒すという仕事を残したままなのだ。このままこの世界で生きるにしても、女神に消してもらうにしても、まずは魔王を倒さないと落ち着いて考えることも出来ないのだ。
いっそ、このモヤモヤとしたものを魔王にぶつけるつもりで戦って少し頭を冷やした方が良いのかもしれない。そう考えると、ほんのちょっとだけ気持ちを切り替えることが出来た。
「ああ……それは、ちゃんとやる。足手まといにはならないよ」
「それが聞けて安心したわ」
「じゃあ、さっさと魔王ぶっ倒して、ゆっくりする時間作んねーとな。行くぞ、ニール!」
「あ、う、うん……!」
足手まといどころか、俺を戦力に数えていいのか未だに自信はないが、気を遣ってくれているみんなに必要以上に心配をかけないよう、俺はこれ以上表立って落ち込む姿を見せないよう気を引き締めた。