第13話
俺が茫然自失になりかけてからどれぐらいの時間が経ったのか分からないが、その間も事細かに状況の説明を求めるアキと、律儀に答える影の女神の様子を眺めていたその時、急に女神の身体が光り出し、俺の意識は光に包まれるように飲まれていった。
「……ハルさん、アキさん!! 大丈夫!?」
次に目が覚めると、そこは裏ダンジョンの一部屋。影の女神が鎮座していた小さな部屋の中だった。
床に倒れていたらしく精神的な理由で身動きを取るのが億劫な俺の隣では、同様に床に倒れていたアキの姿があったが、目立つ怪我はないようである。俺も体に痛みはなく、寝起きのような気だるさに負けそうになりながら無理やり半身を起こすと、必死の形相で駆け寄ってくるニールの姿が視界に入った。
俺達とは対照的に、ニールやその後から駆け寄ってくる他のみんなには多少の傷が見える。確か影の女神と戦っていたんだったか――などと曖昧な記憶を探り、大事な時に一緒に戦えなかったことに対する申し訳なさで、また気が重くなるのを感じる。
「……あ、あ……大丈夫だ……」
「ふぅ……戻ってこれましたか……」
隣でゆったりと体を起こしたアキは俺ほど精神的に参っていないのか、普段の涼しい顔を見せると仕草で服の埃を払っていた。
「すみません、みなさん。なにもお手伝いできませんでしたね……」
「気にしなくていいのよ、ふたりが無事ならそれでいいんだから」
今までどこにいたのか、何をされていたのかも分からない俺達のことを心配して、治療をしてくれるメディナと、洗脳を受けていないか確認してくれているニールに身を任せながら部屋の中に視線を向けると、部屋の端でドレス姿の女が倒れているのを見つける。どうやら暴走した影の女神は、みんなに倒されたようだ。
「でも、どこに飛ばされていたんだい? 怪我はないようだけど……」
「お前達は、あの妙な存在に知られていたようだったな……あれも、気になるんだが」
「……ふむ、その辺りの事情は妾が話そうかの」
「っ!? ま、まだ元気だったの!?」
誰もが抱く疑問を口にしたグレイとエディに答えたのは、俺でもアキでもなく、ボロ雑巾のように倒れていた影の女神だった。今度は、俺達と話していた正気の方が出てきたらしい。
とはいえ、事情を知らないみんなは倒した筈の女神が平然と話し始めたことに警戒し、武器を構えてしまったのだが。
「あ、大丈夫ですよ。その方は、正気ですから」
「正気……? そういえば、さっきの彼女は少し様子がおかしかったわね」
それを止めたのは、すっかりいつもの調子に戻ったアキだった。女神の方も敵意がない事を示すように両手を上げた為、渋々ながらみんなが次第に警戒を解いていくのを感じる。
仮にも女神と名の付く存在がそんなフランクな態度をとっていいのかは、俺が突っ込んで良いことなのかは分からなかったが、その時はそんな突っ込みすら浮かばない程俺は憔悴していた。
「うむ、魔王の悪意に染められてのう……少々、暴走状態だったのだ」
「な、なんてはた迷惑な……」
「すまなかったな。しかし、おかげで助かったぞ」
ゲーム中でも、影の女神の暴走は戦闘に勝つことで治すことが出来たらしい。そして、この女神を倒すことで、暴走時に意図せず魔王の力を封じていた封印が解かれ、魔王が強化されるという仕様だったんだとか。
つまり、ここに来てしまったことで、魔王は俺が知っているものより強くなってしまったのだ。その話をアキに聞かされた瞬間に逃げ出さなかった自分自身を褒めてやりたい。