第6話
早速魔王の城にお邪魔した俺達だったが、流石に敵の本拠地なだけあり魔物の数が多い。少し進めばすぐに敵に襲われる辺りは、古き良きエンカウント率の高さを表しているんだろうが、そんなものを実際にされるこちらとしては笑い事ではない(ゲームとしてやっていても笑えないが)。
とはいえ、こちらも総勢十名の大所帯である。しかも、稀代・天才魔法使いと、物理も魔法も強い魔族の身体を持つヴェロニカ、そして今となっては人間界でもトップクラスの武力を持つ男三人。と、ただ並ばれただけでも威圧感が凄まじい連中が揃っているのだ。そこに見た目が貧相な俺やアキ、ロアが混ざった所で、負けはしないのである。
「はぁ……思ったほど、しんどくはないな」
勿論、俺に敵が回ってこないわけじゃないが、俺だってこの数か月の間実践するしかないというスパルタ教育を受けていたのだから、並の現代人よりは戦い慣れてしまった。この調子なら、魔王までは順調に辿り着けるだろう。
「でも、油断はしないでくださいよ。私たちは、それほど戦い慣れているわけじゃないんですから」
「分かってるよ。でも、このまま行けばそろそろ魔王に……!? な、なんだ!?」
そんな油断しかけている俺を咎めるようにアキの容赦のない言葉が飛んできたものの、会話らしい会話が始まろうとした直前、急に辺りが明るくなる。
見渡せば、ニールのいる方向から光が広がっているようだった。
「これは……急いで追いかけましょう!」
それを見たアキに腕を掴まれ、拒否する暇もなく俺達はニールや他のみんなの元に駆け寄り、そして光に包まれた。
◆◆◆
気が付くと、俺達はどこかで見たような古いレンガ造りの建物の中にいた。
「ご、ごめん……なんか踏んじゃったみたい……」
「それはいいんだけど……ここ、どこだ?」
何らかのトラップを発動させたのはニールらしく、気が付くなり謝ってこられたが、こうなってしまっては責めている場合じゃない。それより、“ここがどこか”という疑問を晴らす方が先決だ。
どこかで見たような気はするが、それがどこで、いつ見たものなのかはなかなか思い出せないのである。
「……もしかして、これかな」
「もしかして……?」
「ほら、魔王が模倣した技術を持つ、オリジナルの存在がいただろう? この魔力の感じ、只者じゃないよ」
壁に触れ何かを感じ取ろうとしていたエディは、ふと気が付いたようにそんなことを口にした。
魔王が模倣した技術を持つオリジナル――つまり、ヴェロニカのような存在を作り出している、本来の技術の持ち主のいる場所が、ここだというのだろうか。
しかし、ここで非常に嫌な予感に襲われた。これは直感的、本能的と言うよりは、今までの経験則と言った方が正しい。つまり、裏ボスのような奴は、大抵こうやって隠れているものだからだ。
「ってことは……」
「はい、二周目以降限定の裏ダンジョンです……」
大当たりである。ここに飛ばされる直前の様子を見るに、既にアキは分かっていたようだったが、まさか裏ボスのいる裏ダンジョンに来てしまうなんて生きて帰れる気がしない。そんな不安から、表情筋が引き攣るのを感じた。
「うわぁ……ヤバいんじゃねぇの、それ……」
「いえ、一応レベルに応じて敵の強さが変わるので、大丈夫な筈ですよ」
「……それ、信じるからな」
二周目があると言っても、別に一周目のレベルを引き継いでやれるというわけではないらしい。なら、レベルに応じて敵の強さが変わるというのもありえなくはないんだろうが、それでも嫌なものは嫌である。
とはいえ、ここまで来てしまった以上、逃げられるわけでもない俺は、諦めて成り行きを見守ることにした。