第5話
二日後、俺達は魔王の本拠地の前にいた。以前ブランタから向かってきた時はここまで辿り着けなかったが、今やっとヴェロニカの転移魔法によってここまで来れたのだ。
魔王の本拠地はレトロゲーム特有の洋式の城であり、そのどこも黒や紫の様な暗く禍々しい色合いに染められている。控えめに言って、悪趣味な城だろう。
「は~……でっかいわね……」
「中は魔物の巣窟だ、油断は禁物だよ」
その城は、クランドにある王族の城と比較してどの程度大きいんだろうか。いや、向こうは近付く暇もなかったから正確な大きさも分からないが、今こうして目の前に佇んでいる様相は、禍々しさと悪意を感じるせいでやけに大きく感じる。ゲームで見ると「黒い」程度の感想しか出なかったが、実際に目にすると中に入ることを躊躇したくなる程だ。
そんな悪趣味な城を見上げていた一同だったが、その中で一人、ニールだけがごそごそと荷物を漁っていた。
「そうだ。みんな、これを持っていて」
「ん、なんだこれ」
「ボクが力を込めておいた、ネックレス。魔王に洗脳されたら大変だからね」
ニールが荷物から取り出したのは、九つのネックレス。それらは全てデザインも長さも違うが、手渡された物からはなんだか優しいような懐かしいような、穏やかな温かいものを感じる。これがニールが込めた【浄化の力】という事だろうか。
これがあれば以前のエディのように洗脳されることはない筈だが、浄化ができた事から予め防ぐこともできると思いついたニールの発想力は流石だ。これほどの機転が利かなければ、ロールプレイングゲームの主人公はやれないだろう。
「貴方、それを作るために、夜遅くまでひとりでコソコソしてたのね」
「……でも、これいいの? 全部デザインが違うから、既製品に力を込めたのよね?」
「うん、お父さんとお母さんが残してくれてたものだけど、みんなを守るために使うなら喜んでくれるよ」
一応ニールなりに気を遣ってくれてるらしく、男連中には男性物を、女の子達には女性物を渡してくれた。俺のだけ妙に気合の入った装飾のペンダントトップだったことが気になるが、まあ、思春期の青少年のすることだ。ここは黙っておいてやるのも優しさだろう。
「ニール……お前なぁ……」
「……終わったら、好きなものを腹いっぱい食わせてやるからな」
「え……み、みんな泣かないでよ……!」
「よし、じゃあニールにメシを食わせる為に、とっとと終わらせるぞ!」
しかし、他の面々は親の遺品を使ってまで仲間を守ろうとする健気な少年の心遣いに胸を打たれたらしく、ヨシュに至っては泣いている始末だ。グレイも肩を叩いて死亡フラグを立てているが、この人は死なないから大丈夫だ。
そんな中、普段なら大袈裟にニールを褒め称える筈の珍しくアキが黙ったまま俯いていたから気にはなったものの、顔を覗き込んだら号泣していたから、そっとしておいてやることにした。もう、どう声を掛けたらいいか、俺にはよく分からない。