第8話
「魔法からは私が守るわ! 皆は遠慮なくやりなさい!」
「任せたぜ!」
特に打ち合わせもなく俺とグレイ、ロアでヴァルヴァラを狙い、ニールとヨシュ、フィーの三人はエディに向かって行ったが、エディ側では何かに弾かれるような音ばかりが聞こえる。俺の記憶に間違いがなければ、エディは魔法でシールドのようなものを展開していたんだったか。
そのシールドが展開されている間は、物理攻撃が全く効かなかった筈だ。
「なんだ、これ……!」
「なにそれ、攻撃が効いてないの……!?」
「君達の刃じゃ、僕には傷ひとつ付けることは出来ないよ。これはそういうものだからね」
案の定、ニール達の攻撃は効いていないらしく、困惑するヨシュとフィーの声が届く。明らかにヨシュ達の反応を楽しんでいると分かる嬉しそうなエディの声も届くが、俺はそっちを見ている余裕なんてなかった。ヴァルヴァラと戦うだけで精一杯だったからだ。
「魔法の結界ね……! アキ!」
「はい! みなさん、彼から離れて!」
しかし、そこは冷静なメディナ。一瞬にして打開策を見つけると、アキに何らかの指示を出し俺達全員に魔法防御を高める魔法を掛けてくれる。
エディのシールドを破るには雷属性の魔法を当てる必要があるのだが、シールドが破れた直後に必ず全体魔法を放ってくるのだ。いくらメディナが天才であろうとも、流石にそんな行動パターンが組まれてるとまでは思っていないだろうが、なんらかの攻撃を仕掛けてくる事は予想したんだろう。そして、エディが稀代の魔法使いと呼ばれている以上、それが物理攻撃だとは考えなかったのかもしれない。
ここまで来ると、咄嗟の判断力が凄いとしか言えないが、だからこそ彼女は天才を維持できているのだ。ここはありがたく、恩恵に授かっておこう。
「雷……! いけない、エディ様……!」
「こっちの攻撃も効いてるわ! ナイスよ、アキ!」
アキの雷の魔法でシールドを破壊した直後、やっとエディが息を呑む気配を感じる。そして予想通り、すぐに全体魔法が飛んできたが、メディナの魔法のお陰で痛みもほぼ感じなかった。これなら、ヴァルヴァラの相手をしている俺とグレイも問題なく動けるだろう。
とはいえ、ヴァルヴァラの方はそもそも回避行動が多く、俺とグレイの武器のリーチがなければ当てられない程だ。エディのようにシールドを張っていないだけ有情だが、訳あって彼女が攻撃を躊躇うことが多いからこそなんとか攻撃出来ている事を考えると、楽観視していられないのも事実だろう。
「パパ……!」
一方、流石に実の父が攻撃されている姿は見るに堪えないのか、ロアは狼狽え、エディに気を取られてしまったようだ。
「油断するな、ロア!」
「そうだよ、油断しているとこうなるからね!」
「ロア!」
しかし、今のエディは、そこを黙って見逃がしてくれるような男ではない。即座にロアに狙いを定めて魔法を放ってきたが、メディナの魔法も、俺とグレイの身体もそれに追いつくことは出来なかった。
いくら魔法銃が使えるとはいえ、ロアはまだ十歳の子供だ。小さな体でエディの魔法をもろに喰らえば、命はない。
「駄目っ!」
誰もが、ロアを助けようと足を向けていたその時、誰よりも真っ先にロアの元に辿り着き、身を盾にしてエディの魔法から彼女を守ったのは、まさかのヴァルヴァラだった。
「な、なんだよあいつ……ロアを庇ったのか……!?」
「っ! エディさんを止めよう!」
いくら魔族のヴァルヴァラでも、エディの魔法はかなり効くらしい。ロアを庇ったまま倒れ込んでしまったその姿に困惑しつつ、未だ臨戦態勢のまま余裕の表情を見せているエディに向き直ったニール達は、再び武器を構えた。