第7話
「あとは、ここだけだな」
基地らしき建物内を進んでいたが、遂に最後と思われる部屋の前に俺達は到着した。
「ゆっくりいくわよ、いいわね?」
「ああ、少し開けるぞ」
部屋の外であっても既に何かしらの気配は感じるのか、異様なほど慎重にメディナが扉に手を掛けたため、庇うようにグレイが前に出てその扉をゆっくり開く。
小さな隙間から見えるその部屋の中では、二人の人物が何かを話し込んでおり、展開を知っている俺も(少々忘れ始めているが)空気に飲まれ、思わず息を潜めた。
「……スティプルドンはもう使えないか」
「浄化師が接触したようです。始末しましょうか?」
「いや、接触してしまったならいいよ。もう彼の役割は終わってるしね……」
中にいたのは目的のエディと、できれば出会いたくなかったヴァルヴァラ。二人は協力関係にあり、ヴァルヴァラがロアを狙うのもエディが関係していたからだったが、その話は後に回していいだろう。
そんなことより、今は自分の身の安全を守ることの方が先決だ。
「それより、浄化師達の方だ。彼らの動向は?」
「既にラデルへ着いて……いえ、遅かったようですわ」
「ああ……もう、せっかちな子達だなぁ」
「っ! 下がって!」
エディのやつは、稀代の魔法使いの称号に恥じない威力の魔法を、こちらの姿を視界に入れずに打ってきたのだ。すぐに気付いたメディナが魔法で防いでくれたから何とかなったものの、それがなければ怪我では済まなかっただろう。
そして、無事だった俺達をちゃんと視界に入れて、エディはようやく残念そうに頭を掻いて距離を取ったのだった。何から何まで、強者の余裕というやつだろう。とはいえ、実際強いのだから仕方ない。
「うーん……流石に天才と浄化師が相手じゃ、不意打ちは難しいか」
「……貴様ら、よくここまで来れたな」
まず褒めてくれるあたりが二人とも悪役らしいが、そんな呑気な感想を口にしている場合じゃない。一気に部屋になだれ込んだ俺達を悠々と眺めるエディと、苦々しい顔を見せるヴァルヴァラの反応の違いに違和感を抱いたのか、グレイが少し眉を動かすが、何かを言うことはない。そのぐらい、こいつらは油断できない相手なのだ。
「あんなギミックでどうにかなる程、ヤワじゃないわよ」
「だよねぇ……ここまで来られちゃったなら仕方ない。今ここで、始末するしかないか」
全く何の躊躇もなく威圧するように全身に炎を纏わせ、以前は稀代の魔法使いと呼ばれていた男はそこから一歩も動かず魔法を放つ。今はメディナが防いでいるが、メディナ本人も結構必死に魔法を使っている様子が分かるため、長時間の防戦は難しいだろう。
つまり、さっさと倒してしまわなければいけないということだ。
「エディ様……」
「悪いけど、あの子供を避けるような加減は出来ないよ? どうにかしたいなら、君自身がなんとかしてね」
「……分かりました」
「なにコソコソしてるのよ! やらないなら、こっちからいくわよ!」
悠々と話している二人の様子が気に入らないのか、啖呵を切ったフィーだったが、それを制するように前に出たニールは剣を構え、静かに声を上げる。その目は、ただ心配そうにエディをを見つめていた。
「……みんな」
「なに、気になるものでもあった?」
「エディさんのこと、殺さないで。今のボクなら、なんとかできるかもしれないから」
ニールがそう言い終わると同時に、「なに甘いことを言ってんだ」と言わんばかりにエディの魔法が俺達を攻撃してきたが、グレイの声で俺達は即座に散開すると二人を取り囲むように得物を構える。これ以上、悠長に構えているのは難しかった。
「……出来る限りやってみっけど、打ち所が悪かったらどうしようもねーぞ!」
一応譲歩するつもりではあるらしいが、ヨシュはそんなことを叫びながら真っ先に突っ込んでいく。こんな状況でも勝つつもりでいるのは頼もしいが、相手の強さを知っている俺としては少々不安だ。
だからと言って、ヨシュが弱いわけでもないから、上手いこと魔法の攻撃は避けているようだったが。
「治療なら私がするから、安心して。まずは奴の動きを止めましょう」
「……ありがとう」
一方、メディナは遠慮せずにやって来いと暗に言いながらニールの背を押したため、ようやく本人も本気でやるつもりになったようだった。