第6話
「ふっふっふ! ね、あったでしょ?」
「おまえ、よくこんなの見えたな……」
フィーに言われるがまま山の斜面に近付くと、そこには雪に埋もれたら遠目では分からない程白い壁の建物がたしかに建っていた。彼女の視力の良さに呆気に取られていたヨシュは、言葉を失いつつも基地らしき建物とフィーを交互に眺めている。
一方、グレイとメディナは警戒しつつも建物に近付き、その外観を観察しているようだ。
「…………建物自体は、それほど新しくはないな。改装と研究に、資金を回していたのか……?」
基地の建設資金に充てる、という話はエディにとってはスティプルドンが洗脳されただけの完全な味方ではないからこその、些細な嘘だったという事なんだろう。仮に資金を改装に使っていたのなら、広い意味では嘘でもないのだろうし。
そんな中、俺は明らかに正面玄関に見える扉のある壁から離れた位置に、研究施設らしからぬ普通の扉が設置されているのを発見した。そこは半分ほど吹き付ける雪に隠されていたから、ぱっと見では見つからなかったのか、他のみんなは気付いている様子がない。
「なあ、こっち入れそうだぜ」
「あら……待って……うん、大丈夫ね。魔物は近くにいないみたい」
「じゃあ、邪魔しようぜ」
まず真っ先に扉に近付いたのはメディナだったが、彼女が扉の向こうから危険を感じないことを確認すると、いつものように鉄砲玉のヨシュが扉を開き誰よりも先に中に入っていく。以前ウルム基地に侵入した際は、この鉄砲玉のせいで面倒な目に遭っていたというのに、懲りない男である。
「……物置なのかな? 他に出入り口はなさそうだね」
ニールの通り、侵入した部屋にはやたらと荷物が多く、外への扉と建物内へと続く扉の二ヶ所の出入り口しか存在しない。何もいなかったのは幸運だが、この部屋は建物のどの辺りにあたるのかもよく分からないし、そもそもエディがいるかも分からない。そんなわけで、みんなで慎重に室内を確認していたのである。
「なんだこれ」
「あちこち触らないでよ。エディが何の研究をしているのか、分からないんだから」
約一名、緊張感も危機感もない赤髪の男はいるが。
そんな危機感も緊張感も緊迫感も何もない男とは対照的に、パーティ最年少の少女はとある棚のある一点を見つめ、静止してしまっていた。
「ロア、何を見ているんだ?」
「これ……ママのだ」
「……まずは、エディの所に向かおう。この部屋の物は、その時にでも問いただせばいいだろう」
「うん……」
声を掛けたグレイとロアの間から覗き込んだ先には、上質そうな青い布が見える。それはただの布ではなく服、しかもドレスだった筈だが、人様の遺品をわざわざ手に取って確かめる人間はいなかった。
「んじゃ、行くか……って、おいおい……なんだこれ? 道がねーぜ?」
「……魔法による仕掛けね、稀代の魔法使いらしいわ」
「感心してる場合かよ……」
不用心に建物内へ出る扉を開いてしまったヨシュの前に、床は存在しなかった。ここのギミックは、オリジナルとリメイクで随分と変わっていた筈だ。
オリジナルでは、落とし穴があちこちに設置されていた面倒な廊下だったが、リメイクでは魔法を使って道を作っていくというギミックだったか。もう既に数か月も前の記憶だから、そろそろ正しいかも分からなくなってきたが。
「扉の横、見てみなさい。燭台があるでしょう? それに、こうして……」
「うお!? 急に火付けんなよ……!」
「はい、前を見て」
「……道があるじゃねーか……?」
部屋の外に設置されている燭台にメディナが火を灯すと、急に床が現れ、近くの部屋までの道が出来る。
「でも、向こうの燭台に火をつけると……」
「消えて、あっちに道ができた……?」
そして、近くの部屋の入口付近に設置されている燭台に火を灯すと、この物置からその部屋までの道がと物置外の燭台の火が消え、近くの部屋からまた別の部屋に向かう道が現れるのだ。
つまるところ、此方の意志で行き先を決めることが出来ず、決まった道のりを辿り奥に向かうしかないという訳である。あと、魔法が使えないと、そもそもこの建物内は移動できないようだ(飛行できる場合は必要ないだろうが)。
「なるほどなぁ……一目見て分かるとは、流石メディナだぜ」
「とりあえず、先に進んでみましょう。うろちょろ動き回らないでね」
「お、おう」
流石にメディナなしで移動するのは難しい(アキも同じことは出来るだろうが、手出しする必要はないと考えたのか何もしていない)ため、鉄砲玉も大人しくメディナの指示に従う他ない。
そんなわけで、ここからは、決まった道のりを慎重に進むことになったのだった。