第5話
結局エディについての新しい情報は一切得られなかったため、俺達は翌日ラデルの町の裏から入れる雪山に向かう事になった。
「さっっっっぶい!! さむい! しぬ! しぬわ!!」
が、山に入って少し経つと吹雪いてきてしまい、一気に視界が悪くなってしまう。あと寒い。動くのを止めたら危ないと、本能的に分かる程には寒い。
暑さには強いフィーも寒さにはめっぽう弱いらしく、人一倍着込んでいるにもかかわらず大騒ぎしながら震えているし、ワンピースなんて着せられている俺も正直寒すぎて騒ぎたい気持ちでいっぱいである。
「本当に死ぬから気をつけろよー」
「怖いこと言わないでよ……!」
冗談抜きで死ぬかもしれない環境のため注意喚起のつもりで声掛けをしておいたが、それで余計にフィーを大騒ぎさせる結果になってしまったのは、俺の判断ミスかもしれない。とはいっても、雪で辟易としていたみんなが、わざわざ貴重な体力を消耗してまでフィーに何か言うことはなかったが。
「どのへんにあんのかねぇ……基地」
「さあ……目立つようには作っていないでしょうから、目視で頑張るしかないわね」
「魔力ではわかんねーの?」
「分かれば苦労しないわよ」
周囲を見渡しながら歩いていたものの、いかんせん視界も悪く、目視での確認は困難だ。故に、建物を見つけられるかも分からないが、目視以外の方法はないらしく、メディナやグレイも渋い顔で山を見渡していた。
「じゃあ、ニールは?」
「うーん……あっちこっちに魔物の気配があって、エディさんのだけ探すのはちょっと難しいかな……」
ニールが何をもって魔物やエディの力を判別しているのかは正直なところよく分からないが、浄化師であってもこの雪山という広大な土地からたった一人気配を感じ取るのは難しいらしい。ゲーム画面なら一本道だったから楽だったのに――という愚痴を漏らしたくもなるが、それはアキ以外の前では絶対に口に出来ない。
そのアキ自身も、不明瞭な視界と不安定な足元のせいで、随分とやりづらそうに歩いているが。
「ロアは心当たりは?」
「ないよ? この山、あったかくなった時しか来ないもん」
「ないか~……」
なんとか楽を出来ないかと仲間達に声を掛けていたヨシュも、本格的に手段がない事を分かると、肩を落としてしまった。
「諦めて歩け。立ち止まっていると、雪に埋もれるぞ」
「はぁ……わかったよ」
が、その場でぼうっとしていたらあっという間に雪の餌食になる程の吹雪である。身の安全の為にも、目的の為にも立ち止まっているわけには行かないため、グレイに叱咤されたヨシュも大人しく周囲に視線を向け始めた。
◆◆◆
雪山に入って十数分程経った頃、騒ぐことをやめ俺の前を歩いていたフィーは急に立ち止まり、俺達を制するように両腕を広げた。
「……みんな、ちょっと待って」
「なんだよ?」
「あれ、魔物よね? 一方向に向かって、飛んでいってるように見えるんだけど」
フィーが指差した先の空には、微かにだが鳥のような魔物が十数ほど匹飛んでいる姿が見える。風の音にかき消されて羽ばたいている音なんてまるで聞こえなかったし、そもそも雪で視界も悪いのによく見つけられたものだと感心するが、フィーの活躍はそれだけではない。
「んー……結構多いな。あれだけの数が、一方向に……」
「あ! 建物!」
「え、マジ? どこに?」
「ほら、魔物が向かってる方向に、白い建物があるじゃない」
次にフィーが指差した先には、真っ白な山の斜面が見えるばかりで建物の姿なんて分からなかった。「目立つようには作っていないだろう」とメディナが言っていた通り、目的の基地は白い建物だった筈だから、今のこの最低限の視界の中では分かるわけがない。
いくら狩りを生業にしていたとはいえ、そこまで見えるものなんだろうかと少々引きかけながら、俺は思わずアキに声をかけていた。
「…………見えるか?」
「いえ、全然」
やはり、アキも見えないらしい。
アキ以外のみんなも目視では全く分からないらしく、怪訝そうにフィーとフィーが指差した先を交互に見比べている。
「あれ絶対基地よ。ね、行きましょ!」
「……そうだね。他に何もないし、行ってみよう」
フィー以外は誰も建物を見つけられていないが、こんな山中に他に建物があるとも思えず、そしてなにより寒さで体が限界に近いみんなはそこに向かってみることにしたのだった。