第4話
宿をとった俺達は、二手に分かれて聞き込みを始めていた。俺はメディナ、ロア、アキと四人で、まずロアの家に向かったが、中に誰かがいる様子はない。ロアが家を出てから誰も入っていないのか、窓から見える家の中の様子は、埃っぽく廃れているようにも見える。
「……あら、エディさんに用事ですか?」
「ええ……留守のようですが、どこへ行かれたかご存じですか?」
なら、家に入っても仕方ない、と踵を返し聞き込みに戻ろうとした俺達は、付近を歩いていた女性に声をかけられた。親しげに名前を口にしているところから、おそらく近所の人なんだろう。この辺の話はニールが関わっていないから、プレイヤーにはよく分からないのだ。
「それが……あの人、半年程前に一人娘を置いて行方不明になっちゃったんですよ。その娘さんも、ある日突然いなくなっちゃうし…………って、もしかしてあなた、ロアちゃん……!? 今までどこ行ってたの……!?」
「……お姉ちゃんたちと、パパをさがしてたの。帰ってきてない?」
意図したものではないにしろ、アキの影になっていたロアに気付いていなかった女性は、ふと影から顔を出した幼女を見て驚きに目を見開く。まあ、行方不明だった女の子が見知らぬ旅人と一緒にいたら、驚きもするだろう。
誘拐犯にでも思われたのか、一瞬にして警戒の目を向けられた俺達だったが、そこはロアのおかげで難を逃れることができた。ここに来て冤罪でお縄なんて、さすがに笑えない。
「無事でよかったわ……でも、エディさんは帰ってきてないわね……」
「そっか……」
「ロアちゃん。パパを探すのも大事だけど、ロアちゃんに何かあったらパパが悲しむから、危ないことはしちゃいけないわよ?」
その女性と別れた後も町で聞き込みを続けたが、地元にもかかわらずエディに繋がる情報がないことに、俺達は思わずため息をついてしまった。ちょっとぐらい何かしらの情報があると思っていたが、本当にここまで一切悟られずに山に基地を作ったなんて――と、感心すら抱く始末である。
とはいえ、山の方は吹雪くことも多いらしいから、魔物を使えば誤魔化すのもそう難しいことではないんだろうけど。
「……やっぱ、目撃情報はねぇか」
「ま、駄目で元々よ。グレイ達の方も何もなければ、山へ向かうしかないわね」
「雪山に入るなんて、気が進まねぇな……」
「それは私もよ」
何の知識もない人間が雪山に入るのは、死にに行くのと同義だ。まあ、これはゲームだからニール達は大丈夫だが、それにしたって気が進まないものは進まない。しかし、ポルトビで先に仕掛けられている以上、今回ばかりはゆっくりしているわけにもいかないため、雪が落ち着いた頃を狙っていくということも出来ないのだ。あんな連中に先制されたら勝てる見込みがないのは、火を見るよりも明らかだろう。
一方、ロアは俺達とは違うベクトルで気が進まないのか、町を歩いている間も黙り込んだまま何も口にしようとはしなかった。自分のことを忘れている実の父親とやりあうのだと考えれば、そりゃ気も進まないだろう。今更ながら、なんでこのゲームは、子供キャラにだけハードモードなのか。と、疑問を抱かずにはいられない。
「ロアちゃん、ラデルではどんなご飯を食べるんですか?」
「え? うーん……えっとね、シチューとか、ポトフかな。ママもいっぱいつくってたよ。あったかくておいしいの」
「そうですか、なら今夜はシチューでも食べましょう」
「……うん!」
そんな中、気負わずにロアに声を掛けられるアキのなんと逞しいことか。あっという間に幼女の気を紛らわせることに成功した、中身女子高生のイケメンを見上げ、俺はどんな年齢であろうとも発揮される、女の子の母性の強さを身をもって知ったのだった。