埼玉バラバラ殺人事件「特殊囚人課」
この物語は縦読み推奨です。
携帯でも出来ると思います。
面倒な事をしてしまい誠に申し訳ございません。
「今回は埼玉で起きたバラバラ殺人事件だ」
高橋が資料を手にとり、ページをめくる。
「被害者、容疑者、共に不明」
「どういうことだよ?容疑者が不明ならともかく、被害者まで」
海が高橋に指摘すると、「その通りなんだよ」と鋭い眼差しで海を見る。
「この事件の遺体は…胴体のみだ」
「かぁー、またやっかいな事件だなー」
海が頭を掻きながら愚痴を零した。
看守二人が丈夫な箱を二人がかりで運び、会議用の机にそっと置いた。
「石井くん、驚かないでくれ。今から遺体を見せる」
高橋が慎重に、鍵を開けると凍結された男の上半身が現れた。腐敗防止の為だ。
「早速マリリンの出番だよー」
耕也が満里奈を呼ぶが、呼ばれた満里奈は眉をしかめて困っていた。
「どうしたの、マリリン?」
「耕也、私の能力、知ってる?」
「知ってるよー、生きてる人の体に触れれば見る事が出来る…あっ」耕也はある事に気付いた。
「どこが生きてる人よ?」
早速道は塞がれた。
室内に不穏な空気が漂う。
「あっ、じゃあ俺らの出番かな」
そんな空気を看守の高橋が消した。高橋がもう一方の看守、室井を連れ、遺体の前に立つ。
「あのー、高橋さん。一体何を…」
耕也が恐る恐る聞くと、高橋は微笑みながら答えた。
「あー、俺達も特殊能力を持ってるんだよ」
全員が驚きを隠せなかった。
「あのなー、俺らは看守じゃないの。ちゃんとした警察官。特殊囚人課の課長、高橋信治と」
「課長補佐の室井誠です」
室井が会釈をする。
今まで知らされなかった事実に囚人たちは呆然とするしかなかった。
「それで、二人の能力は?」
石井が二人に聞くと、まあたいした事はないよと高橋が謙虚な態度を見せる。
「俺は、心臓を一分動かせる。だからどんな遺体も一分生き返らせる」
「私は、生きてる者の身元が分かります。名前と性別程度ですが」
「二人ともすげーじゃないっすか」
磯山が媚びを売る。
それに応え、照れてる二人に竹内がイライラして、手を叩き注目させた。
「では、やってください」
「はい、すみません」
遺体の右側に高橋が手をかざし、左側に室井と竹内がそれぞれ手をかざす。
「いいか、二人とも一分だからな」
高橋の呼び掛けに二人は頷き、高橋がそれに応じる。
三人が目を閉じると、それぞれの手に微かな光が見える。
竹内の脳内に、映像が映し出された。
被害者の視界だ。
そこに見える公園は、胴体のみ見つかった公園。視界が移り、柴犬と目が合う。恐らく被害者の飼い犬だろう。だが、被害者が素早く正面を向いた途端、鉄パイプを振り下ろす何か。
それは目出し棒をかぶり、鉄パイプを握っている手には、革の手袋を付けている。
鉄パイプが視界を横切った時、視界が暗闇に変わる。
ここで、被害者が死亡した。
被害者の記憶が途切れたのと同時に、高橋の能力も時間切れとなった。
一度停まった心臓を動かすのは結構大変なんだろう。高橋の額には玉のような汗が浮き出ている。高橋は袖で拭った。
「どうだ?わかったか?」
高橋が竹内と室井に聞くと、室井はメモを見ながら答える。
「被害者は酒井悠介。三十二歳です。性別は…遺体を見れば分かりますね」
「ああ、ありがとう。ちょっと待っててくれ」
高橋は室井に礼を告げると、電話の受話器を手に取りボタンを押す。
「こちら特殊囚人課。埼玉バラバラ殺人事件の身元判明。酒井悠介。三十二歳。捜査願に名前が無いか調べてください。それでは、すいません」
受話器を置いた。
何故、事件が発生した時に彼の能力を使わなかったのか。石井は考える。
聞いてみたところ、この特殊囚人課は半年前に出来たばかりで、室井は三日前に警察に勤め始めた。高橋は元々巡査だったが警察局長に頼まれたそうだ。
さらに特殊囚人課は時効寸前の事件のみ扱うので、時間も定められている。
とんでもない所だろ、という磯山の質問に石井は頷くしかなかった。
「満里奈は?何かわかった?」
高橋が訊くと、満里奈は困った表情をしながら首を横に振る。
「ごめんなさい。犯人が誰かまでは」
「そうだな、そんなに簡単ならとっくに解決するな」
「でも一つだけ分かった事がある。犯人は酒井さんを殺害後、遺体をバラバラにした事。もしかしたら殺害現場の公園にまだ部位が落ちている可能性もある」
高橋が竹内の話を聞き、しばらく考える。
「よし、三手に別れよう。石井くんと海は殺害現場に。満里奈は第一発見者に話を聞こう。それで野々村さんと耕也は情報収集だ」
全員が頷くと、それぞれ別々の行動を取った。
「なあ和之」
「はい」
「俺の才能、無意味だろ」
「…今はですよ」
「素直だな」
そんな会話をしながら、二人を乗せた覆面パトカーは殺害現場に着いた。
警察内では非公式の捜査の為、立ち入り禁止のテープや警官は殺害現場にいなかった。
犬の散歩をする老人やカップル。ピクニックをする家族が見える。殺害現場でさえ無ければいたって普通の公園だ。
「もう和之の力しか必要ないからな…。俺は煙草を吸ってる」
磯山は石井の肩を軽く叩くと、ベンチに座り、煙草を吸った。
この公園には大きな池がある。
普段はボートを貸していたのだが、事件があった途端、店を閉じた。
あの店主とも話を聞きたいと思いながらも、石井はひとまず池の探索を始める。
しばらくして、伸びた手に感じる手応え。
腕を元に戻し、掴んだ物を確認する。
「磯山さーん、ありました」
《続く》