愛弟子
俺は星間国家の悪徳領主! 書籍版最新【11巻】が 7月25日 に発売されます。
今巻は小説家になろうに掲載していない書籍版オリジナルストーリーですので、この機会に是非とも書籍版をよろしくお願いします。
帝国軍の艦隊に向かって放った一閃が、周囲の敵を一掃する。
撃破した艦艇は数十隻。
機動騎士にすれば百機以上を撃破したと思われるが、敵は徐々に俺の間合いを把握しつつあった。
「アヴィドから距離を取るか」
俺が近付けば艦艇は急いで距離を取り、機動騎士たちは散開するように背を向けて逃げ去る。
だが、無秩序に逃げているわけではない。
敵は味方同士が接触しないよう、器用に逃げ回っていた。
アヴィドを止められないならば、距離を取って逃げ回りつつアルゴス……母艦を沈めればいいのだ、という考えなのだろう。
アヴィドのコックピットで簡易三次元映像を確認していると、艦隊運用が見事だった。
「本隊を二つに分けたのか? 俺たちを囲むために、十万も用意するとは臆病なのか思い切りが良いのか……」
敵指揮官は本隊を二つに分けて、バンフィールド家本隊との戦いで邪魔されないようにしていた。
これでは俺の計画が台無しだった。
「この包囲網を突破するしかないか……指揮官さえ叩ければ崩れるとは思うが」
派手な見た目をしている超弩級戦艦でもいれば見つけやすいが、どうやら十万隻で包囲網を指揮する指揮艦の姿は見つからない。
「アヴィドには近付いてこないか」
逃げ回りつつ指揮しているのだろう。
指揮官を狩る戦術を警戒しているらしい。
「おっと!?」
アヴィドと距離を取って砲撃を開始する敵艦たち。
機動騎士たちも、狙撃用の武器に換装してアヴィドを狙っていた。
アヴィドの防御フィールドが絶え間なく光学兵器の攻撃を防ぎ、その度に発光する。
「強引に突破するしかないか」
あまり時間をかけて母艦の方が心配だ。
アヴィドで強引に敵との距離を詰めようとしていると、通信回線が開いた。
『師匠、お助けに参りま――』
『リアム様、ナイトナンバー4! エマ・ロッドマンです! お助けに参りました!』
エレンが言い終わる前に割り込むような形で、エマも通信回線を開いてきた。
エレンの表情が若干険しくなっている。
周囲を見れば、本隊から離れ、二人が率いた別働隊が帝国軍に襲いかかっている。
そんな状況でも帝国軍は慌てずに艦列を整えつつあり、沈着冷静という言葉が相応しい。
それでも、状況はこちらに傾きつつある。
「二人ともよくやった。お前たちの判断は間違っていなかったぞ」
エレンは今度こそ譲るまい、と俺に進言してくる。
『ありがたきお言葉です。しかし、帝国軍に損害を与えましたが統制は取れたままです。私はこれより、敵指揮艦の撃破に向かいます』
エレンの言葉を受けて、エマの方は何か言いたそうにしている。
『あたしも進言しようとしたのに……』
二人の関係には詳しくないが、どうにもエレンがエマに対抗心を持っているようだ。
いや、どちらもか?
二人のやり取りに小さくため息を吐くが、エレンも張り合う相手がいるようで少し嬉しくなる。
ただ、その必要はないらしい。
「お前たちが優秀で俺も嬉しい。……だが、クラウスに先を越されたな」
『クラウス殿に?』
エレンが驚いている間に、敵艦隊の統制が乱れ始める。
先程まで冷静に対処していた敵艦隊が、崩れ始めていた。
アルゴスから通信が入ると、相手はクラウスだった。
『リアム様、チェンシーたちが敵の艦隊司令官が乗る戦艦を撃破しました』
「お前ならやってくれると思っていたぞ、クラウス!」
『いえ、チェンシーの手柄です。彼女は部下を大勢失いながらも、この大任を果たしてくれました。褒めるべきはチェンシーです』
相変わらず冷静なクラウスに、もう安堵すら覚える。
「……奴にも俺から礼を言っておく。死んでいった連中に家族がいれば報いてやろう」
『ありがとうございます』
もっとも、チェンシーが率いていたのは騎士としては外道というべき連中だ。
戦いの中でしか生きられないタイプの人間たちであり、家族がいることは少ない。
既に手を打っていたクラウスにより、敵艦隊は崩れ始めている。
次席指揮官へ指揮権を移行しているようだが、それでも隙が生まれた。
それを聞いてエレンは悔しそうな表情をしながらも、すぐに指揮下の艦隊に指示を出す。
『敵艦隊が立ち直る前に叩きます! 全艦、攻撃の手を緩めないように!』
エレンの艦隊が敵艦隊に襲いかかると、エマ率いる艦隊は別の動きを見せる。
エマが言う。
『総旗艦アルゴスに護衛を回して! 騎士長――クラウス閣下の指示に従うよう伝えてくれればいいわ。味方艦隊の支援に回ります!』
二人揃って敵艦隊に襲いかかるのかと思えば、状況を見て判断してくれた。
これにはクラウスも僅かに笑みを浮かべている。
『……立派になったな。感謝する』
モニターに映し出された三人の顔が消えると、俺は深く息を吐いた。
そして、敵艦が次々に撃破されて行く中で、遠くにいる敵の総司令官に向かって言う。
「さぁ、後方の回り込まれたお前はどうする? 下手をすればこのまま挟撃されるぞ」
次はどんな手を使ってくるのか? 楽しみになってきた。
◇
敵艦隊に猛攻をかけるエレンは、乗艦としている超弩級戦艦のブリッジにて指揮を執っていた。
エレンは戦艦に対してあまり強い関心がなく、戦闘の規模に合せて乗り換えている。
二万隻程度までなら戦艦に、それ以上ならば超弩級戦艦に、という具合だ。
そのためブリッジにもエレンの趣味は出ていない。
この規模の艦隊を率いる司令官ともなれば、ブリッジばかりか艦の外観から内装まで手を加えてもおかしくないのに、だ。
かろうじて、エレンが使用する専用シートに刀を固定するホルダーがあるくらいだ。
そんなブリッジでも、エレンなりの特長は出ている。
ブリッジクルーを除き、エレンを側で支える騎士や軍人たち……戦艦を乗り換える際も連れ回している者たちは、全員が女性で統一されていた。
これはある種、リアムへのアピールである。
自分の近くに男は置かないと伝えようとした結果だ。
エレンの副官を務めるのも、当然女性騎士だ。
白兵戦や機動騎士に乗る実力よりも、艦隊指揮や事務作業が得意であるためエレンに抜擢された人物だった。
「エレン様、今回は大手柄です。ナイトナンバー3という称号に相応しい武勇になるでしょう」
クラウス、ティア、マリー。
リアムを長く支えてきた騎士たちと比べ、エレンは経験が乏しかった。
軍もそれを懸念していたが、リアムが自ら育てた愛弟子の騎士となれば懐疑的ながらも受け入れるしかなかったのだ。
エレンもそれは承知していたし、実戦で実力を示すしかないと思っていた。
しかし、だ。
「ナンバー4も即座に同じ動きをしました。そればかりか、状況を判断してフォローまでして見せたわ」
今回の働きに満足していないエレンに、副官の女性騎士は少し困った顔をする。
「あれもこれもと望みすぎです。エレン様が敵に襲いかからなければ、ナンバー4が代わりを務めたはずです。今回はエレン様の判断が速かったのです」
「……そうだといいわね」
エレンがここまでエマを気にしているのは、彼女がバンフィールド家で育った騎士であるからだ。
同じくバンフィールド家の本星出身のエレンだが、エマと決定的に違うのは出世までの経緯だ。
エレンはリアムが育てたというエリート中のエリートであるならば、エマは一騎士から地道に出世してきた叩き上げだ。
エレンには難色を示した軍部も、彼女の場合は素直に受け入れていた。
対抗心を持つのも仕方がない。
副官が言う。
「エレン様はナンバー4を気にしすぎです。あなたはリアム様が認めた騎士ですよ」
「違うわね。師匠が認めてくれたのは剣士としての私よ。騎士としては、まだ認められていないわ。だからこそ、師匠――リアム様が認める功績を挙げなければならないの。ナンバー3に選んで正解だった、そう言われるまで気を抜けないわ」
エレンは愚直に、リアムの期待に応えようとしていた。
それが、自分をここまで育ててくれたリアムへの恩返しである、と。
「敵艦隊をこのまま殲滅します。そして、敵本隊後方で艦列を整え、本隊と挟撃する準備を進めなさい」
「はっ」
副官は無表情で返事をすると、エレンの指示を実行するべく指示を出していく。
◇
その頃、バンフィールド軍に後ろを取られたコーネリアスは、旗艦のブリッジで振り返っていた。
そこにはモニターも何もないのだが、誰かに挑発された気がしたからだ。
「……二百歳にもならない小僧が調子に乗っているらしいな」
コーネリアスの不可解な言動だが、周囲は見慣れているのか驚いた様子はない。
副官を務める騎士が、コーネリアスに尋ねる。
「既に目の前の敵艦隊と艦隊戦を開始しております。後方の味方に戦力を割いている余裕はありませんが、いかがいたしましょうか?」
危機的状況だというのに、副官も周囲も慌てる様子がなかった。
コーネリアスは数秒思案した後に言う。
「敵艦隊は実に精強だな」
「はい。手を抜けない相手です。我らを目覚めさせたのは、英断だったと言わざるを得ません。間違いなく、当代最強の艦隊でしょう」
副官が敵を褒めると、コーネリアスはニッと笑った。
「……我慢の限界だ。私の機体を用意しろ。艦隊の指揮はお前に任せる」
「はい、コーネリアス閣下のお望みのままに」
コーネリアス自らが出撃すると言っても、誰も止めようとはしなかった。
奇しくも、コーネリアスはリアムと同じタイプの騎士だったのである。
後ろを取られたというのに、コーネリアスは笑みを浮かべたままだった。
「リアム・セラ・バンフィールド……そして、クラウス・セラ・モント……どちらも私の敵に相応しい相手だったようだな」
コーネリアスが席を立って格納庫へと歩き出す。
「……今代の帝国最強と戦うのも悪くない。いや、むしろ今まで最強を名乗った者たちよりも、私を興奮させてくれるじゃないか」
コーネリアスは、何度かコールドスリープから目覚めていた。
その当時の最強の騎士たちと戦うためだ。
しかし、誰もコーネリアスを満足させる結果を出せなかった。
コーネリアスが格納庫に辿り着くと、自分の機体を見上げる。
帝国工廠がコーネリアスのために潤沢な予算を投じて完成させたのは、彼が好む機体だった。
全長は二十四メートル級と大型に分類される機動騎士で、背面には大剣を並べたような翼が折り畳まれている。
「リアムの愛機はアヴィド……だったか? 機動騎士の趣味もいいではないか。小型を小器用に乗り回す者よりも親近感がわく」
コーネリアスが地面を蹴ってコックピットに飛び込むと、そこにはアヴィドと似たコックピットが用意されていた。
コーネリアスが乗る機体は、アヴィドと似ている設計思想で造られている。
そもそも、コーネリアスがコールドスリープされる前に乗っていた機動騎士こそが、後のアヴィドの開発に繋がる機体だった。
言わば、アヴィドのご先祖様に乗っていたのがコーネリアスなのだ。
その後、コーネリアスの機動騎士から発展して様々な機動騎士が造られた。
だが、現代での主力は十八メートル級や十五メートル級だ。
次々に系譜は途絶え、最後に残っていたのがアヴィドである。
リアムもコーネリアスも、ある意味で同じような機体を扱う騎士ということだ。
「この私に運命を感じさせるとは、憎らしいことをしてくれる。このコーネリアスが、直々に叩き潰してやるとしよう!」
一瞬でコーネリアスの騎士服がパイロットスーツに変化し、新しい機体【シャイニング】の操縦桿を握った。
機体のツインアイが赤い光を放つ。
若木ちゃん(;゜Д゜)「コーネリアスきゅんが、リアムきゅんに運命感じちゃったみたい……これが噂に聞くぼーいずらぶかしら?」
ブライアン(A;´・ω・)「人の感情の機微に聡くなって、化け物呼ばわりを回避しようとしても今更無駄かと」
若木ちゃんヽ(#゜Д゜)ノ┌┛Σ(ノ´ω`)ノ