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真の皇帝

俺は星間国家の悪徳領主! 最新11巻は 7月25日 発売予定!


活動報告に表紙イラストを公開しておりますので、是非ともチェックしてね!

 首都星にサイレンが鳴り響いていた。


 そして、同じようなアナウンスが繰り返されている。


『アルグランド帝国首都星ディアブルサンドリエはこれより、戦時体勢に移行します。繰り返します。戦時体制へと移行します。首都星に住む皆様は避難所に移動を開始してください』


 外郭に包まれた首都星の空は危険を知らせるため茜色に染まり、人々が避難所に殺到して事故やら事件が起きていた。


 富裕層たちは快適な避難所が用意され、貧困層は全員が入りきらない狭い避難所に入り込もうと他者を押し退け、争っていた。


 元より首都星が攻め込まれるなど誰も予想しておらず、避難場所など法律で定めているので仕方なく用意した場所がほとんどである。


 そもそも首都星は一つの惑星に、何百億人と暮らしている歪な環境だ。


 非常時になれば混乱するなど目に見えていた。


 そんな様子を天井に投影して楽しんでいたのが、現皇帝のバグラーダだった。


 不安と恐怖から人々が争い、そして凶行に及ぶ様をニタニタしながら眺めている。


 赤黒い酒をグラスに満たし、左手に持ってチビチビと酒を飲む。


 その酒は皇帝ですら滅多に手に入れられない贅沢な酒……ではなく、呪星毒だ。


 生物たちの嘆き、苦しみ、悲しみ、怒り、と負の感情が液体化したものである。


 生物に溢れた惑星を滅ぼすと、そうした思念が凝縮され液体化する現象が起きることがある。


 常人が摂取すればたちまち不幸に見舞われ、呪星毒の呪いを受けて死んでしまう。


 しかし、バグラーダにとっては趣向品に過ぎない。


「ずっとこの時を待っていた。……まさか、バンフィールド家が私の……“僕”の願いを叶えてくれるとは思わなかったけどね。これは嬉しい誤算だよ」


 バグラーダの一人称が僕に代わり、そして体の回りには黒い煙が漂っていた。


 宮殿の奥深くに設置された真なる玉座が置かれた部屋で、バグラーダは待ちに待ったこの日に呪星毒を酒代わりに祝うように楽しんでいた。


 そんな場所に駆け込んでくるのは、バンフィールド家に敗北したクレオだった。


 汗をかき、そして息を乱している。


「皇帝陛下! 俺を廃嫡するよう、宰相たちが進言したのは本当なのですか!?」


 自分が廃嫡されると知って慌てふためいているクレオを見て、バグラーダは顔を歪めて愉快そうに笑い出す。


「この至福の時間に余興まで届くとは、運命とはどこまでも僕を楽しませてくれるようだ!」


 ゲラゲラと笑い出す不気味なバグラーダを前にして、クレオは目を見開いている。


 バグラーダはグラスを置くと、右袖をまくってクレオに右腕を見せた。


 皮膚が黒く偏食していた。


「僕にとっては大好物の呪星毒だが、どうにも人間の体は耐えきれなくてね。魂だけを移し替えているから呪われることはないが、それでも肉体は蝕まれてしまう」


「呪星毒? な、何を言っておられるのですか?」


 クレオは目の前の光景を理解したくないのか、バグラーダの話を冗談だと思い込みたいらしい。


「愚かなお前は本当に滑稽だな。だが、僕の実益と余興のためにお前にも真実を教えてやろう! これを聞いた歴代の皇太子たちは、様々な反応を見せてくれるからちょっとした楽しみでね。この肉体の持ち主だったバグラーダ君なんて、本気で帝国を憂いていた優しい皇子だったんだよ。そんな彼が、この帝国自体が負の感情を集めるためだけに最高の環境に整えられていた、と知った時の顔ときたらさ」


 クツクツと笑うバグラーダは、お腹を抱えていた。


 自身の右腕が崩れ、黒く偏食していた部分が広がっていく。


「僕のことを外道と罵ったんだ! 酷いと思わない? 僕は君たちのご先祖様だっていうのにさ!」


 クレオが恐怖から震えていた。


 もう、喋ることも出来ないらしい。


 精神力の弱いクレオを前に、バグラーダは自分の名を明かす。


「【グレアム・ノーア・アルバレイト】……二千と百年ちょっと前に皇帝に即位してから、ずっとこうやって生きてきたんだ」


 グレアムの名前を聞いて、クレオも察したらしい。


 何しろ、グレアムの名前は帝国の歴史の中でも一番凄惨な時代に出て来る名だ。


 即位するために当時有力だった皇太子を暗殺し、即位後は敵対した者たちを容赦なく排除していった。


 宮殿内は謀略と暗殺が渦巻き、毎日のようにどこかで血が流れていた。


 クレオが恐怖から失禁すると、バグラーダ……グレアムは唇を舌で舐める。


「本来はカルヴァンやライナスの体を奪うつもりでいたんだが、まさか玩具代わりに遊んでいたクレオが皇太子になるとは思わなかったよ」


 一歩、また一歩、グレアムがクレオに近付く。


 しかし、クレオは恐怖で動けずに逃げられない。


 グレアムがクレオの頭に手を置く。


 それは父親が娘の頭を撫でてやるような光景だった。


「最後の最後で女性の体に憑依するとは思わなかったが……それもいいだろう。さぁ、その体を僕に明け渡して遅れ。愚かで勘違いした皇太子君」


「や、止めてくれぇぇぇ!! 頼むから! すぐに皇太子の地位なんて捨てる! 他にも沢山皇子たちはいるじゃないか!」


 泣き叫び出すクレオに、グレアムは言う。


「そうやってすぐに身代わりを思い付くお前の矮小なところは大好きだよ。だから、僕はお前を選ぶんだ」


 クレオが黒い煙に包まれ、白目をむいてその場に座り込んだ。


 体は小刻みにガタガタと震え、そしてグレアムの……バグラーダの体が全身黒くなって自重を支えられず崩れていく。


 粉々になって消えてしまったバグラーダの体を前に、ハッとクレオは我に返った。


 そして立ち上がる。


 自分の胸などを触って感触を確かめると、仰々しい服を脱ぎ捨てた。


 女性の体が露わになると、クレオが指を鳴らす。


 集まってくるのは暗部たちであり、クレオの体を洗浄し始める。


 そしてグレアムが好む服装に着替えさせた。


 シャツにスラックス……と思ったが、せっかくの女性体だ。


 シャツにミニスカート、その上からマントを羽織った。


「……うん、これでいい。性格も能力も最低だったにしては、肉体の方は可愛いじゃないか。君たち、似合うかい?」


 クレオの体を手に入れたグレアムが、その場で一回りして確認すると暗部たちが手を叩く。


 その暗部たちは仮面を着けており、黒い装束に身を包んでいた。


 その姿はククリたちに似ていた。


「お似合いでございます、我らの皇帝陛下」


「ありがとう。それにしても、まさか君たちまで因縁に巻き込まれてしまうとは思わなかった。君たちのご先祖が裏切った同族たちが、リアム君に手を貸しているなんてね」


 楽しそうに笑うクレオの体を奪ったグレアムに、暗部の頭領が言う。


「二千年も眠っていただけの者たちに、我らが負けるはずなどありません。皇帝陛下はごゆるりと、この場で吉報をお待ちください」


 恭しく頭を下げる暗部の頭領に、グレアムは声をかけてやる。


「頼んだよ、今代のククリ君」


 ククリ、その名を奪い、受け継いだ暗部の頭領は顔を上げて言う。


「仰せのままに、我らの皇帝陛下」



 アルゴスのブリッジにて、俺はクラウスから意外な報告を受けていた。


「首都星に百万の艦隊が集結済み?」


「はっ、偵察部隊が掴んだ間違いない情報です」


 シートに座って頬杖をつく俺に、クラウスが空中に首都星の映像を投影しながら説明する。


「手に入れた情報から推測するに、帝国が抱える工廠が用意した艦艇のようです」


「帝国の工廠か……」


 アルグランド帝国の貴族たちが兵器を購入するのは兵器工場だが、帝国は自分たちだけが利用できる工廠を抱えている。


 各兵器工場が新技術を開発すると、それらを無条件で回収して蓄積しているらしい。


 だが、自分たちが開発した新技術は絶対に流さない。


 あのニアスも第七兵器工場でも帝国工廠には敵わないと断言した。


 俺たちの側で話を聞いていたユリーシア・モリシルが、不安そうな顔をしながら百万の艦艇を見ていた。


 そんな時、何かに気付いたのか周囲にいくつかのデータを表示する。


「待ってください!? 今の帝国軍にこれだけの艦隊を用意する余力は残っていませんよ。国境付近にも大量に戦力を投入していますし、こちらに味方する貴族たちへも対処していますからね」


 今の帝国軍に余力は残っていないはず、とするユリーシアに俺は言う。


「人手を集めて教育カプセルに放り込めば、動かすくらいは何とかなるだろ?」


「その程度で何とかなるなら、軍は教育施設を用意したりしませんよ」


「だから、最新鋭の武器だけ渡して中身は素人って意味だよ」


 ユリーシアとあれこれ言い争っていると、クラウスが俺の考えを否定する。


「それは考えにくいかと」


「どうしてだ?」


「艦隊の動きに素人さが微塵も感じられません。むしろ、精鋭中の精鋭であると判断します」


 クラウスが表示した動画は、首都星に入る民間船のために道を空ける艦艇の様子だ。


 大型の輸送船のために道を譲っているのだが、その動きを見るとうちの連中のように阿吽の呼吸が感じられた。


「最新の兵器に、中身もそれに相応しい精鋭ってわけだ」


 俺が納得していると、ユリーシアがなおも食い下がってくる。


「それでも指揮官が問題になります。有力な指揮官たちは出払っており、残っていません」


 ユリーシアが断言するので、俺は思案する。


「……お前がマークしていない有能な指揮官がいる可能性は?」


「ありますけど、この数を指揮するには能力だけではどうにもなりませんからね。この土壇場にそんな賭をするような人事をするとは思いたくありませんね」


 百万の艦艇を指揮するためには、能力以上のものが求められる。


 それを兼ね備えているのは、俺のところでもクラウス、ティア、マリー、の三人だけだ。


 こんな大事な場面で有能だからというだけで、抜擢するのは賭けに近い。


 そんなことを帝国軍がするだろうか?


 俺が腕を組むと、クラウスが状況を説明してくる。


「こちらは本星から距離が離れ、補給物資の輸送に手間がかかる状況です。対して、あちらは補給を気にする必要がありません」


 今度はクラウスと話をする。


「ゲートの中継器を破壊して首都星を干上がらせるのはどうだ?」


「あちらにも損害は出るでしょうが、他の中継器を使用するはずです。仮に全てのゲートを破壊したとしても、首都星ともなればすぐに繋ぐ準備もしているでしょう」


「可能ならば、ティアから進言があるはずだからな」


 ティアが進言してこなかったのだから、無駄と判断したのだろう。


 また、クラウスがこの戦いの意味を言う。


「仮に兵糧攻めのような真似をして勝ったとしても、今後は我々が侮られます。ゲートの破壊は禁じ手に近いようなものですから」


 暗黙のルールというものがこの世界にも存在している。


 それは、惑星を移動するために繋げたゲートは、人類の宝であるという認識から来るものだ。


 これを破壊して道を塞ぐというのは、汚いやり方に近い。


 守る方が仕方なくやる分には、自らの財産を手放したと同じなので言い訳も立つ。


 しかし、攻める側が積極的に行うのはルール違反だ。


 俺たちが暗黙のルールを破って勝った場合、周辺の星間国家たちは「こいつヤベェ奴だ! 早いとこ潰しとこ!」と連携を取って攻め込んでくる可能性が高い。


「……帝国内の内ゲバと認識してくれないかな?」


 無理だと理解しつつも呟くと、クラウスが即座に否定してくる。


「あり得ません」


「だろうな。そうなると、こちらよりも質のいい敵と戦うわけだが……尻込みしている奴はいるか?」


 俺たちだけが会話をしていたが、この報告を聞いていたのは数万隻の司令官クラスの将官全員だ。


 そこにはティアとマリーの姿もあり、クラウスに負けたくないのか意見してくる。


『敵が精強であろうと、このクリスティアナは恐れません。リアム様のために先陣を切り、戦う覚悟でございます』


 マリーの方はティアに対抗意識をむき出しにしているが、それでも勝てないとは考えていない。


『先陣の誉れは是非ともこのマリーにお願いいたしますわ』


 他の司令官たちも怖がってなどいなかった。


 俺は小さく笑みを浮かべる。


「やる気が十分で何よりだ。だが、せっかく帝国に喧嘩を売ったからには、張本人である俺が責任を取るべきだ。悪いなお前ら……先陣は俺が切る」


 席を立った俺は腰に手を当てて言う。


「指揮官が誰であろうと関係ない。ここで帝国を叩き潰し、俺は真の敵と決着をつける! 俺に続け、お前たち! 勝利の栄光をその手に掴ませてやる!」


 超巨大な星間国家アルグランド帝国……裏切りの果てに打倒すれば、俺は間違いなく大悪党だ。


 悪徳領主として実に相応しい行いだ。


「それから安心しろ……裏切り者の汚名は全て俺が引き受けてやる」


ブライアン(´・ω・`;)「えぇ~……真の敵云々はてっきりリアム様の妄言とばかり……あ、いえ、このブライアンは信じておりましたぞ」


若木ちゃんヽ(・∀・)メ「俺は星間国家の悪徳領主! 11巻が7月25日に発売予定よ!」

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― 新着の感想 ―
リシテアも本当に報われないな
カルヴァン君まじで勝ち組コースだったやん……
師匠が勝てなかった真の敵か…
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