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十五章 プロローグ

本日より投稿を再開いたします。


既に15章は書き終えているので、区切りのいいところまで19時に毎日投稿する予定です。

 アルグランド帝国首都星の宮殿にて、皇帝【バグラーダ・ノーア・アルバレイト】はここ最近ずっと謁見の間で過ごしていた。


 玉座に座って天井を眺めていた。


 普段使用する謁見の間の玉座ではない。


 バグラーダが真なる玉座と定めており、彼にとってはどこよりも心安らぐ場所だった。


 宮殿の中でも何重にも防御を固め、入室を許可されたのも数名という特別な部屋だ。


 首都星にあって、この部屋よりも安全な場所はどこにもない。


 部屋の中央にある高座に用意された大きな玉座に腰掛けたバグラーダは、天井に吊された大きなガラスの盃を眺めていた。


 天井から一滴、一滴と垂れる赤黒い血のような液体を受け止める盃が満たされるのを、今か今かと待ち遠しそうにしていた。


 嬉しそうに微笑むバグラーダの顔は、部屋の薄暗さもあって不気味に見える。


「これまで随分と血を流させてきたわけだが、負の感情の集まりはいつも通り、か。まぁ、装置を動かせば嫌でも闇の盃は満たされるだろう。それにしても……」


 現在の帝国はバンフィールド公爵家の反乱に対し、征伐軍を送って返り討ちに遭った後だ。


 その後には隣接する他の星間国家から侵略を受け、帝国のあちこちで戦争が起きている。


 こうしている今も、アルグランド帝国の国境では大量の血が流れていた。


「……バンフィールド公爵のおかげで私の計画が数千年単位で早まった。これは、念入りにお礼をしなければいけないね。そう、私の流儀で念入りに、ね」


 クツクツと笑い出す好青年の見た目をしたバグラーダの顔は、酷く醜く歪んでいた。


 帝国の危機的状況を知りながらも、愉快そうにしている。


「ようやくだ。私はこの時をどれほど待ち望んできたことか! ついに私が人を超え、超越者となる時が来たのだ!」


 右手で顔を覆い、そしてバグラーダが不気味な笑い声を出すと部屋の中にある装置が共鳴して悲鳴のような音を立てる。


 あふれ出すのは黒い煙のような何か。


 それはすぐに空気中に溶けて消えてなくなるが、あふれ出す度に部屋の中を不穏な気配が満たしていく。


 バグラーダは玉座から腰を上げると、両手をガラス杯に向かって掲げた。


「幾万、幾億……兆を超える命を捧げてやろう。欲しければこの帝国すらくれてやる。臣下、領民、私の領内に生きる全ての生命を捧げよう。だから……私の願いを叶えてくれ」


 帝国の状況など無視して、バグラーダは赤黒い液体を受け止めるガラス杯に魅入っていた。


「さぁ……ここから仕上げに取りかかるとしよう。まずは……勇者たちに目覚めてもらわないとね」



『皇太子殿下、いつまで睨み合いを続けるおつもりか?』


 通信相手は首都星にいる宰相だった。


 いつまで経っても長距離ワープゲートを奪還、あるいは破壊しない皇太子【クレオ・ノーラ・アルバレイト】に催促していた。


 クレオは宰相の意見を聞きながら、煩わしそうな態度を隠そうともしない。


「理解しているが、あのクリスティアナを相手に十二万隻では少な過ぎる。宰相、首都星から増援はどうなっている?」


『……初期の段階でワープゲートの攻略を行えば、増援など必要なかったのではありませんか? 数年間も何もせず、無意味に過ごされましたな』


 当初、長距離ワープゲートを確保したクリスティアナの軍勢は少なかった。


 十二万もの艦艇を率いたクレオの方が、優勢だったのである。


 しかし、クレオは行動を起こさなかった。


「それは現場を知らない意見ではないかな?」


 宮廷から指示をするだけの宰相に嫌みを言うクレオだが、本心では征伐軍の総大将として戦いに参加した際に敗北したため臆病になっているだけだった。


 宰相はクレオに、これ以上の猶予を敵に与えてはならない理由を述べる。


『バンフィールド家に押さえられた長距離ワープゲートは、首都星近辺にあるワープゲートの中継器を担っているのですよ』


 クリスティアナが押さえた長距離ワープゲートは、一方通行や数本の航路を短縮する一般的なものとは違っていた。


 首都星近くにあるワープゲートの中継を担っており、ここを押さえられると首都星に繋がる全てのワープゲートにアクセス出来てしまう。


 首都星に繋がるワープゲートを全て閉じてしまえば敵が来るのを防げるが、問題は首都星というのが単独では成り立たない惑星という点だ。


 首都星の維持には莫大な物資が必要で、それが毎日のようにワープゲートを通じて届いている。


 全てを遮断してしまえば、短期間で干上がってしまうのが首都星だ。


 脆弱な問題を抱えてはいるが、長く攻め込まれなかった故の慢心だった。


 問題が発生した場合よりも、利便性を追求したシステムが仇となっていた。


 クレオもそれは理解しているが、クリスティアナと戦いたくはない。


「それならばすぐに増援を送ってほしいものだな。もっとも、奴らに勝つには首都星を防衛する親衛艦隊くらいの精鋭でなければ頼りにならないが」


 首都星を防衛する最精鋭の艦隊を寄越せ……こんな要望、通らないだろうとクレオは高をくくっていた。


 しかし、宰相は予想外の反応を示す。


『……いいでしょう。三個艦隊全てを派遣します。すぐに長距離ワープゲートの確保を行っていただきますよ』


「なっ!? 首都星の防衛はどうなる!?」


 クレオが当然の反応を示す中、宰相は「お前が言うな」という感情を顔に滲ませながら言う。


『皇太子殿下が動かぬ間に、こちらの状況は変わりつつあるのですよ。既に首都星防衛の代わりが用意されつつありますのでご心配なく』


 通信が切られると、クレオは頭を抱える。


「ふざけるな! またあいつらと戦わせるのかよ……」



 アルグランド帝国打倒を掲げるバンフィールド公爵家は、首都星攻略に向けて重要拠点となっている長距離ワープゲートを確保していた。


 バンフィールド公爵家の本領と、帝国首都星までの最短航路であるワープゲートだ。


 この拠点を失えば、バンフィールド家の帝国打倒にかかる時間は何倍にも膨れ上がる。


 そんな重要拠点を防衛しているのは、ナイトナンバー「5」を与えられた【クリスティアナ・レタ・ローズブレイア】だ。


 クリスティアナ――ティアは、バンフィールド家に攻め込んできた帝国の征伐軍を見事返り討ちにした際に、今後を見据えて長距離ワープゲートの確保を優先した。


 先見の明がある彼女は、何気に騎士としては一番長くリアムに仕えている人物だ。


 そんな彼女は、旗艦である超弩級戦艦ヴァールのブリッジから目の前の光景を見ていた。


「わざわざ私の武功になりに来るとは、クレオ殿下もいじらしいところがあるじゃない」


 目の前には十五万隻以上に膨れ上がった敵艦隊が、長距離ワープゲートを確保――あるいは破壊するために迫ってきていた。


 副官を務める【クローディア・ベルトラン】は、両手を後ろに回して背筋を伸して立っていた。


 観測データを確認すると、ティアに言う。


「敵艦隊の中央には、首都星を防衛する親衛艦隊が確認されました。その数、三個艦隊……余力があるとは思いますが、これだけの数を出してきたのは驚きです」


 この近辺、とはいっても広大な宇宙での話だ。


 しかし、鍛え上げられた精鋭が余っているわけでもない。


 特に、現在帝国は周辺国から攻められている最中だ。


 残っている精鋭など、首都星を防衛している艦隊くらいだったのだろう。


 ティアはブリッジで腕を組み、そして微笑みを浮かべていた。


「――リアム様がこちらに来られる。その前に叩き潰してしまいましょう」


「はっ」


 クローディアが短く返事をすると、右手を前に出して部下たちに命令を出す。


「ティア様の直衛である我々は中央に位置してゲートの守りに入る。再編の完了した艦隊を展開せよ」


 クローディアが命令を出すと、ゲート後方から再編が終わった艦隊がゆっくりと前に出てくる。


 上下左右から出現した艦艇たちが、艦列を整えて展開された。


 ゲートを守るように配置された艦隊だが、ゲートから離れた両翼――左右には別艦隊が配置されている。


 ティアは自信満々に命令を出す。


「リアム様のご出陣前に吉報を届けます。……全艦隊、目の前の敵を殲滅しなさい」


 味方がティアの言葉を聞いて一斉に動き出した。


 両翼の艦隊が先行し、そして攻撃を開始する。



 一方、先手を打たれたクレオは司令官席に深く座って震えていた。


「どうなっている!? こちらの攻撃は!?」


 状況を確認しきれず、何を聞くべきかもわからず、混乱するクレオに答えるのは側にいた優秀な騎士だった。


「敵が先に攻撃を仕掛けてきました。ですが、有効射程外ですので落ち着いてください」


「落ち着けるものか! こちらも攻撃を開始しろ!」


 クレオが慌てて反撃を命令するも、騎士は冷静に対処する。


「有効射程外からの攻撃に期待してはなりません。それに、敵もこちらの数を減らせるとは思っていないはずです。奴らはこちらを焦らせるために――」


 精神的な攻撃を行っているだけだ、そう言おうとした騎士の言葉は通信兵に遮られる。


「み、味方が命令を無視して攻撃を開始しました!」


 声を上げた通信兵に騎士が顔を向ける。


「馬鹿な!?」


「それどこか勝手に進路変更を――敵前で回頭!? 親衛艦隊より前方の味方艦をどうにかしろと通信が――」


 寄せ集めたパトロール艦隊が、混乱して味方を巻き込んでいた。


 クレオは血の気が引いた顔をする。


「み、見ろ、やっぱり駄目じゃないか」



 ヴァールのブリッジでは、ティアがクツクツと笑っている。


「私が味方の再編をしている間、敵のことを何も調べないと思っていたのかしらね? 今更、精鋭を混ぜたくらいで私には勝てないのよ」


 味方の再編を敵地で行うという神経のすり減る毎日を過ごしていたティアだが、その間にも敵の情報は調べていた。


「知っているのよ。大半が寄せ集めのパトロール艦隊なのよね? ろくな訓練もしていない連中が、どこに配置されるかも予想済み……戦いというのは、やる前に勝敗を決めるのがセオリーだってこれで学べたかしら、皇太子殿下」


 目の前で指揮を執っているクレオに意地悪く語りかけるが、当然ながら聞こえていない。


 ティアは鬱憤をクレオたちにぶつけているだけだ。


 クローディアが敵艦隊の動きが変化したと気付く。


「味方同士で同士討ちを確認しました。随分と混乱しているようです」


「それはいいわね。それならそろそろ――」


 ティアが突撃を命令しようとすると、通信士が慌てて叫ぶ。


「ワープゲートより艦隊の出現を確認しました! これは……アルゴス……リアム様の直衛艦隊です!」


 それを聞いて、意地の悪い笑みを浮かべていたティアの表情が満面の笑みになる。


「リアム様!!」


 次々にワープゲートを通って現われる味方艦隊の先頭にいるのは、超弩級戦艦のアルゴスだった。


 ヴァールとアルゴスの間に通信回線が開くと、巨大モニターにリアムの顔が映し出される。


『ワープゲートの防衛をやり遂げた……とは言えない状況か?』


 戦闘が起きているのを確認したリアムの表情は、普段と変わりがなかった。


 焦りも感じている気配がなく、単純に興味がなさそうにも見える。


 ティアはその場で膝をついて頭を垂れる。


「申し訳ございません。すぐに殲滅してご覧に入れます」


『いや、丁度いい。俺たちも加わってやろう』


 リアムがニッと笑みを浮かべると、全軍に通達する。


『――戦争の時間だ』


 リアム率いる艦隊が敵艦隊に向かって全速力で突撃をかけた。


ブライアン( ´;ω;` )「長らくお待たせしましたが、ようやく投稿が再開され読者の皆様と再会できてこのブライアンは感無量でございます」


ブライアン(´• ω •`)「……苗木ちゃん? はて? 誰のことでしょうか?」

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― 新着の感想 ―
再開ありがとうございます!
>ふざけるな! またあいつらと戦わせるのかよ いや自業自得。 自分で手を切った時点でほぼ確定事項やん。 てかパトロール艦隊って一部はリアムが自分が所属する時根回しとかしてたし、士気が低い・裏切るなど…
全部捧げる覚悟があって超越者とやらになるのに戦争して死人が増えればいいだけなんだったら周辺国に全軍で滅びるまで攻め続ければよかっただけなのになんで大人しくしてたのか?それどころか数千年かけてのんびりや…
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