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十四章エピローグ

本日の投稿で十四章は区切りとなります。


投稿再開は今のところ未定ですが、今後とも応援よろしくお願いします!


また、下部にて評価が行えるようになっておりますので、ご利用頂けると幸いです。


ポイントをもらえるとモチベーションにもなりますので、是非ともよろしくお願いいたします。


【書籍版 俺は星間国家の悪徳領主! 8巻】も【1月25日】発売予定です。


Web版にはない展開もあり、ページ数も大幅に増加しております。


Web版を読んだよ、という読者の皆さんも楽しめるよう加筆しておりますので、是非とも購入して確かめてみてくださいね。

 バンフィールド家が確保した長距離ワープゲートには、ハイドラから続々と補給物資と艦艇が送り込まれていた。


 送り込まれた艦艇は、バンフィールド家が新たに用意した新造戦艦だ。


 機動騎士も新型を揃えられており、見るからに精強な軍隊――なのだが、その実情はかけ離れていた。


 ヴァールのブリッジにて、ティアは頬を引きつらせていた。


「やってくれたわね」


 本星の軍本部が送りつけてきたのは、再編ばかりか慣熟訓練も終わっていない艦艇の集まりでしかなかった。


 そんな集団を送りつけられても、運用する側にとっては迷惑である。


 ティアが軍本部を何と言って怒鳴りつけてやろうか思案していると、隣にいた副官のクローディアが目を見開いていた。


 軍本部からの通達を確認していたクローディアは、僅かに声が震えている。


「ティア様」


「何かしら? 軍本部から嫌がらせや私に対する罵倒でも書かれていたの? いい度胸をしているわね。責任者が誰なのか教えてくれる? 帰ったら地獄を見せてやるわ」


 冷静に、低い声で、ティアは自分を苦しめる軍本部の責任者に対して殺意を抱いていた。


 足手まといばかりを押し付けるばかりか、軍の再編という仕事まで押し付けられたのだ。


 本星に戻ったら、必ず復讐してやると心に誓った。


 クローディアは複雑な表情で報告する。


「発案者は――リアム様です」


「へ!?」


 先程まで殺意を抱いていたティアの表情が、一瞬にして崩れてしまった。


 責任者の名前を聞いて、可愛らしくも間抜けな声を出すほどに。


「リ、リアム様が発案者!? ど、どどど、どうしてこんなことをするのかしら!? ゲートの確保と周辺の制圧は急務よね? それを邪魔するような命令をリアム様が単独で出すとは思えないのだけど?」


(はっ!? もしかしたら、軍本部の連中がリアム様をそそのかして――あいつら、戻ったら皆殺しにしてやる!!)


 奸臣死すべし! と気を引き締めるティアに、クローディアは狼狽えながらも通達に書かれた内容を要約する。


「それがその――ティア様は調子に乗って周辺を制圧し、帝国の危機感を煽るだろうからゲート周辺を制圧したら、そのまま軍の再編でもしていろ、と。これはリアム様からの直々のご命令です」


 独自に行動できる権利を得ているナイトナンバーズだろうと、バンフィールド家の当主であるリアムの命令には逆らえない。


 軍本部の命令ならば突っぱねられたが、今回の命令は受けるしかなかった。


 帝国領を荒らし回る想定をしていたティアは、頭を抱えた。


 嫌がっているのではなく、軍の再編をこの場にて行う計画を練るためだ。


(敵地深くで、艦隊の再編なんて厳しすぎるわ! 敵に気付かれたら攻め込まれて一気に崩れるだろうし。で、でも、リアム様のご命令なら実行しないといけないわね。そうなると、気付かれないように再編しつつ、訓練もさせないと――あぁ、周囲に攻め込んでいる暇がない!?)


 無理難題を押し付けられたティアの頭脳が、どうすれば命令を実行できるか必死に応えを導き出そうとする。


 そんな尊敬する上官を見ていたクローディアは、ホロリと涙を流した。


「どんな命令でも遂行しようとするティア様――素敵です」


 クローディアの前では、ティアは目をグルグルさせて、下手な踊りでも踊るようにその場でフラフラし始めた。


「リアム様のご命令とあらば、このクリスティアナが必ず実現してみせるわ!」



 領内深くに長距離ワープゲートを確保された帝国は、すぐに奪還するための艦隊を派遣することが決定した。


 しかし、有力な将軍や騎士たちは多の星間国家戦に出払っていたため、派遣する艦隊を率いる将がいない。


 宰相が頭を悩ませていた。


「これだけ騎士と軍人がいて、艦隊を率いる将が不足しているとは嘆かわしい限りだな」


 一体誰に任せればいいのか?


 若手の有望株を抜擢してもいいのだが、そうした者たちは軍が先に確保して国境に送り込んでいた。


 軍内部でも奪い合いが起きている状況で、ここで更にバンフィールド家の相手をするのは難しい。


 宰相は深いため息を吐く。


「既に正規軍も余力が少ない。派遣できるのは寄せ集めのパトロール艦隊ばかりで、集まりも悪い。――親衛艦隊を動かすわけにもいかぬ。――リアム・セラ・バンフィールド、ここまで時代に愛される寵児だったか」


 全てがリアムの都合のいい方向に流れていた。


 宰相は帝国が負けるとは思っていなかったが、今回の一件は帝国を大きく揺るがす一大事になるだろう――と予測する。


 思い悩む宰相の側には、姿が見えていない案内人が同情していた。


「リアムに悩まされる者よ。お前の気持ちはよくわかるぞ。このままあいつが勝ち続けるなんて面白くないよな?」


 全盛期の力を取り戻しつつある案内人は、このままリアムが無傷で首都星に攻め込むなど許せなかった。


 首都星を守る帝国最強の艦隊と戦わせ、完膚なきまで叩き潰すという方針は変わらない。


 だが、このまま見ているというのも案内人のプライドが許さなかった。


「ワープゲートを奪還させてやろう」


 案内人が宰相の後ろに回ると、両肩に手を置いた。


 すると、宰相の部下から報告が入る。


『宰相閣下、奪還作戦の戦力について報告します』


「どれだけ集まった? せめて予定の三割は確保したいが――」


 報告する部下は、やり遂げたという笑みを浮かべていた。


『お喜びください。予定よりも二割増しでパトロール艦隊が集結しております。集結場所には既に物資も届け、一部艦隊の再編も進めております』


 二割増しと聞いた宰相だが、喜ぶ様子はなかった。


 予想外であるため、目を見開いたが――それだけだ。


「そうなると十二万隻か? それだけあれば奪還は成功するだろう。最悪、敵艦隊を撤退させればそれでいい」


 十二万隻を送り込み、威圧して敵艦隊が撤退してくれれば儲けもの、と。


 敗北したとしても、パトロール艦隊が幾らすり減ろうがどうでもよかったのが宰相の本音だ。


『それで、艦隊司令はお決まりですか?』


 宰相はここで決断を下す。


「――皇太子殿下にご出陣願おう」


『そ、それは』


 部下が狼狽える中、宰相は淡々と理由を述べていく。


「征伐軍で六百万の艦艇を指揮した経験を持つお方だ。十二万隻ならば問題なく指揮できるだろう」


 全て嘘だ。


 宰相の考えは別にある。


(葬り去りたい連中をバンフィールドに一掃してもらうとしよう。消えても帝国にとってはプラスになる。さて、これでワープゲートの問題はいいとして、今度は国境の問題だな)


 クレオやパトロール艦隊が失敗して、消えてくれた方が帝国の利益になる、と。


 宰相は既に他の重要な問題に取りかかり始めた。


 案内人は上機嫌となり、宰相の肩を揉んでいた。


「君のような人間は嫌いではないよ。帝国を維持するために、簡単に皇太子だろうと捨てられる君は最高だ」


 これでリアムが困るのならば、案内人も手を貸した甲斐がある――と思っていた。



 奪還作戦を任されたクレオだが、与えられたのはパトロール艦隊の寄せ集めだった。


 旧式の時代遅れの艦艇と装備ばかり。


 クレオの乗艦と、護衛の艦艇こそ精鋭だが、残りはボロボロの艦艇ばかりだった。


 一部は正規軍の払い下げを与えられたが、それでもバンフィールド家と戦うには戦力不足は否めない。


 ブリッジの司令官席にて、クレオは血の気の引いた顔をしていた。


 体は震えており、冷や汗を流していた。


 目の前には長距離ワープゲートを守るバンフィールド家の艦隊が展開しており、要塞級の姿も多数確認されている。


 クレオの側には、優秀な騎士が控えてサポートをしていた。


「皇太子殿下、お喜びください。奴らは数こそ揃えておりますが、その数は六万隻です。ワープゲートを守るという不利な状況もあり、その行動は制限されております」


 自軍がいかに有利かを述べる騎士に対して、クレオは懐疑的だった。


(数の上ではこちらが勝っているが、征伐軍の時は今回以上の差があった。それなのに、俺は負けたじゃないか)


 率いた艦隊は今回よりも質と練度で勝っていたし、数の差を考えれば負けるなどあり得なかった。


 その状況で大敗したクレオには、騎士の言葉は軽く聞こえて仕方がない。


 騎士は言う。


「今回は入念に情報を収集しました。奴らはワープゲートを通じて増援と補給物資を運んでおりますが、その動きは鈍い。指揮官はクリスティアナとのことで――」


「クリスティアナ!?」


 目を見開いて驚くクレオに、騎士は多少困惑しながら続ける。


「は、はい。そのクリスティアナですが、本来であれば周辺の制圧を優先するような指揮官です。実際に初期はそのような行動を取っておりましたが、増援を受け入れた途端に制圧を中止しました」


 騎士は自分の予想に自信があるのか、胸を張ってクレオに聞かせる。


「艦隊の動きを注視させていた偵察部隊からの報告から推測するに、奴らは戦力の補充が間に合っておりません。慣熟訓練と再編が終わらず、この場にて行うという愚行を犯しています。――皇太子殿下、これは好機です。一気呵成に攻めて立てれば我らの勝利は間違いありません」


 足並みの揃っていない敵艦隊は、ワープゲートの防衛という不利な状況にある。


 パトロール艦隊の寄せ集めだろうと、突撃させれば容易に崩れるだろう――というのが騎士の推測だった。


 だが、クレオはその案を即座に拒否する。


「だ、駄目だ!」


「皇太子殿下?」


「俺たちをおびき寄せる罠である可能性が高い。ここで俺たちが討たれれば、帝国は奴らに対する押さえを失うんだぞ。ここは慎重に行動するべきだ」


 怖いため戦いたくないクレオは、慎重という言葉を盾に作戦を伝える。


「俺たちがここにいて睨みを利かせれば、奴らは自由に身動きが取れない。ワープゲートを持っていても、蓋をされている状態だ」


 クレオの消極的な作戦に騎士が狼狽える。


「我々の任務はワープゲートの奪還、あるいは破壊ですよ!? 敵が戦力を整える前に攻め込むべきです」


 騎士はクレオに耳打ちする。


「どれだけ被害が出ても構いません。ここにいるのはパトロール艦隊です。大半を失っても、ワープゲートを奪い返すなり、破壊すれば我々の勝ちなのです」


 敵はワープゲートを破壊されれば、敵地で孤立する。


 そうなれば、いくらクリスティアナだろうと敗北するだろう。


 クレオも頭では理解していたが、征伐軍の大敗した記憶が決断を鈍らせる。


「だ、駄目だ。後方に下がって睨み合いを続ける」


 クレオの滅入れには逆らえない騎士が、悩ましい表情で命令を受け入れる。


「了解――しました」



 その頃、帝国軍の艦隊と睨み合っていたティアは――盛大に安堵のため息を吐いていた。


「セェーーーフ!!」


 寄せ集めのパトロール艦隊が攻め込んできた時は、突撃でもされたらワープゲートを守り切れるかどうか怪しかった。


 敵地で孤立して殲滅される未来も見えていただけに、敵艦隊が後方に下がった時はその場に崩れ落ちるほど脱力した。


 クローディアも冷や汗を拭っている。


「これほど早くに敵艦隊が押し寄せてくるのは予想外でしたね」


 ティアが部下たちに抱き起こされながら、クローディアに同意する。


「もう数ヶ月は余裕があると思っていたらこの様よ。急いでワープゲートの防衛を強化するわよ。それから、増援はどうなっているの?」


 クローディアが今後の予定を確認する。


「来週には艦艇が三万隻送り込まれてきます」


「再編は?」


 一応確認するが、クローディアの答えは望むものではない。


「――現地にて再編せよ、と」


 ティアは涙目になる。


 こんな危うい状況の中、再編と訓練を押し付けられれば嫌にもなる。


「リアム様ぁぁぁ!! ――でも、そんな厳しいところも好き」


 達成困難な任務を与えられた悲しさと、頼りにされているという充実感の間でティアは感情が不安定になっていた。


 そんなティアを見て見ぬふりをする優しさが、クローディアや部下たちにはあった。



 バンフィールド家がワープゲートを押さえたという情報は、当然ながら帝国中に広まり危機感を与えた。


 だが、それはすぐに忘れ去られてしまう。


「クレオ殿下が十二万隻を率いてワープゲートの奪還に向かったそうだぞ」

「随分前の話だろ? あれって結局どうなったんだ?」

「結果は聞こえてこないが、次の艦隊が派遣されていないなら失敗していないんじゃないか?」

「それよりも国境だ! 覇王国の連中が荒らし回っているぞ。国境の貴族たちは寝返る奴らも増えているそうじゃないか」


 ワープゲートの話は、既に解決したものと周知されるようになっていた。



 ワープゲートの奪還を諦め、離れた場所から睨みを利かせる――と言ってクレオはある惑星に着ていた。


 帝国内でも発展した惑星だ。


 クレオ自身は宇宙港にて、皇族らしい接待を受けていた。


 接待するのは惑星を管理する伯爵だ。


「クレオ殿下、一体いつになればワープゲートを奪還して頂けるのですか? いつまでもバンフィールド家に居座られていては、我らも安心できません」


 だが、日に日に伯爵からの圧が強くなっていた。


「俺がここにいて睨みを利かせているからこそ、貴殿の惑星も守られていると思うが?」


「感謝しておりますが、クレオ殿下の艦隊を維持しているのは我々です。物資の消費もそうですが、莫大な資金を消費しているのですぞ」


 伯爵だけではなく、周辺領主たちがクレオの艦隊を維持するため物資の提供を行っている。


 中には借金をしてまで用意している貴族もいた。


 クレオは面倒だと伯爵をあしらう。


「後で宮殿に請求すればいい」


「既に請求しましたが、宮殿からの返答は『それどころではない』です。クレオ殿下を受け入れたのは、我々の勝手な行動だと責められたのですよ」


「今は帝国中が混乱している時だ。落ち着けば宮殿が割増しで返済するさ」


 クレオとしても、これ以上ワープゲートから離れては敵前逃亡を疑われてしまう。


 宮殿からは「早くしろ!」と言われているが、それをのらりくらりと返事を濁していた。


 伯爵はクレオの態度に手を握りしめ、顔を赤くしていた。



 帝国との決戦が間近に迫っていた。


 俺も改修されたアルゴスに乗って帝国領に入るだけになったのだが――その前に、天城と二人で話をしていた。


 目の前には何もない広い空間があった。


 本来は錬金箱で用意した資源を保管していたのだが、度重なる戦争で全て消費してしまっていた。


「錬金箱を持つ俺が、まさかここまで資源に困るとは思わなかった」


 巨大国家を相手にするには、錬金箱一つでは足りないらしい。


 俺の横に立つ天城が、今回の作戦について語る。


「帝国から独立して戦力を拡大――という長期プランもございました」


 多の星間国家と連携して、帝国から独立――その後に、ジワジワと帝国を削って弱らせるという方法もあった。


 だが、これでは時間がかかりすぎる。


「真の敵を倒すためだ。逃げる時間を与えたくない」


「真の敵、ですか」


 案内人が言っていた真の敵――十中八九、皇帝バグラーダだろう。


 この戦いは帝国を滅ぼすのではなく、バグラーダ個人を倒す戦いだ。


「帝国などついでだ。俺に逆らったから滅ぼす――それ以上でも以下でもない」


 天城が心配そうに俺を見ている。


「かつては帝国の庇護下のもと、ご自身の欲を満たせればいいと言っていた旦那様の発言とは思えません」


 小心者の俺は帝国を怒らせない程度に、自由に振る舞えればそれでよかった。


 だが、俺の自由を奪おうとしている奴がいる。


 ――俺はそれが許せない。


「国を滅ぼすのも悪徳領主らしいと思わないか?」


 天城は俺の説得を諦めたのか、深々と頭を下げてくる。


「旦那様のお望みのままに」


「何百年も戦うなんて面倒だからな。手早く終わらせてやるよ」



 首都星を守る親衛艦隊を見下ろすのは、負の感情を吸い尽くして全盛期の力を取り戻した案内人だった。


「この時を待っていたぞ――リアム!!」


 首都星ばかりか帝国中の負の感情を集め、力を取り戻した案内人は親衛艦隊を加護していた。


「帝国の首都星をお前の墓標としてやる。さぁ――いつでも来い。お前との因縁も終わらせてやる」


 リアムとの因縁を立つために、案内人は出し惜しみなどせず最初から全力を出すつもりでいた。


ブライアン(´;ω;`)ノシ「これにて十四章は終了となります。しばらく皆様に会えなくなりますが、書籍版共々変わらぬ応援をよろしくお願いいたしますぞ」

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続きはまだかな〜。
楽しかったです、書籍購入してきます。続き楽しみにしてますね
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