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十三章プロローグ

13章の更新ですが、今回は22時を予定しております。

 アルグランド帝国首都星。


 宮殿には歴代の皇帝たちが使用してきた特別な部屋がある。


 限られた者たちしか出入りを許されないその部屋には、謁見の間よりも大きな玉座が用意されている。


 現皇帝のバグラーダも気に入っており、座りながら手すりを愛おしそうに右手でなでていた。


 この部屋に出入りを許されている宰相は、玉座を見て複雑な気持ちを抱く。


(歴代の皇帝陛下たちが気に入り、受け継がれてきた玉座ではあるが――何と禍々しい気配を放つ代物だ)


 見た目は財宝で飾られた豪華な玉座だった。


 というか、部屋全体が玉座と言える。


 高座にある玉座は床と繋がっており、部屋の一部である。


 そんな部屋で、宰相は不気味な気配を感じながらバグラーダに戦況を報告する。


「皇帝陛下、征伐軍ですが窮地に立たされております」


「あぁ、そう聞いたね。クレオは逆転できそうかな?」


「――無理でしょう。すぐにでも増援を派遣するか、もしくは撤退させるべきかと」


 アルグランド帝国は、バンフィールド家に対して謀反の気配ありとして征伐軍を差し向けていた。


 本来であれば勝利は揺るがない規模だったのだが、帝国に届いた知らせでは征伐軍が不利な状況に立たされている。


 バグラーダも状況を知っているはずだが、少しも慌てた様子がない。


 天井を見上げており、視線の先には大きなガラスの盃が用意されていた。


 天井から垂れる黒い血のような液体を受け止めており、ガラス杯の三分の一が液体で満たされていた。


 その様子を眺めるバグラーダの目は、弓のように曲がっていた。


 随分と嬉しそうにしている。


 征伐軍のことなど些事とでも思っている態度だった。


(先代も、先々代もこの部屋で黒い液体を眺めていたな。まさか、バグラーダ様までもが、この部屋に魅入られるとは思わなかった)


 バグラーダがまだ皇太子だった頃に、宰相は何度か話をしたことがある。


 その際のバグラーダは聡明な皇子だった。


 皇族であるため後ろ暗い事にも手を染めてはいたが、帝国の状況を憂い改善するべきと考えていた。


 それが、今では見る影もない。


「皇帝陛下、このままでは帝国軍がバンフィールド家に破れてしまいます。帝国の国力であれば、一度の敗北で慌てる必要はございません。ですが、一領主に敗北したという事実が問題になります」


 相手が、あのバンフィールド公爵だろうと関係ない。


 超大国であるアルグランド帝国が、一領主に負けたと他の星間国家に知られるのがまずかった。


 最初は状況が悪化の一途を辿っている事を説明する。


「周辺国が騒いでおります。恭順を示したはずの覇王国までもが、帝国に牙をむいて国境を荒らし回っているのです」


 敵はバンフィールド家のみにあらず。


 必死に説明する宰相は、バグラーダに何かしらの方針を示して欲しかった。


 バンフィールド家と和解するにしろ、今後も戦い続けるにしろ、宰相はどちらでも構わない。


 バグラーダの判断こそが重要だからだ。


 宰相の熱意が通じたのか、バグラーダが小さくため息を吐くと少し呆れた顔をしていた。


「バンフィールド家が勝てば、帝国が衰えていると思い周辺国が本格的に攻めてくると言いたいのだろう?」


「その通りでございます」


 バグラーダが現状を理解していると知り、宰相は安堵して気が緩む。


 しかし、すぐに緩んだ気持ちが引き締められてしまう。


 宰相の前で、バグラーダは口角を上げて笑っていた。


「――大いに結構じゃないか」


「こ、皇帝陛下?」


 バグラーダは右手を天井のガラスの杯へと伸ばした。


 そして。


「バンフィールド公爵は強い光だ。誰もが待ち望んだ希望の光だと思わないか?」


「ひ、光? 帝国に弓引く者をそのように言われては困ります」


 皇帝であるバグラーダ自らが、帝国を悪と認めてしまう発言に宰相は冷や汗をかいていた。


 バグラーダが浮かんだガラス杯を前にして、リアムの未来を予見する。


「――だが、強い光は強い闇を呼び寄せるだろう。これだけの規模の戦いともなれば、莫大な怨嗟の声に惹き付けられて化け物たちが姿を見せる」


「化け物? 皇帝陛下、何を言っておられるのですか?」


 宰相が理解できずに困惑していると、バグラーダは顔を向けてくる。


 光の消えた濁りきった瞳で宰相を見つめてくる。


「人の領域を超えた存在たちだよ。もしかしたら、と思って私もずっと楽しみにしているんだ。バンフィールド公爵ならば、きっと彼らを惹き付けてくれると思ってね」


 バグラーダは、人を超えた存在が出現するのを楽しみにしているようだった。


 そして、バグラーダは最後に笑った。


「クレオはいい仕事をしてくれた。無能な働き者として、最高の舞台を用意してくれたよ。宰相もそう思わないか?」


 同意を求められた宰相は、動揺を隠しきれなかった。


「まさか、最初から皇太子殿下が負けるとお考えだったのですか!?」


「こうでもしなければ、この規模の戦争も起きなかったからね」


「な、なんと――」


 帝国が威信をかけて挑んだ戦争に、皇帝であるバグラーダは別の思惑があったような口振りだった。


 人を超えた存在については、宰相も判断が付かない。


 だが、このままではアルグランド帝国が揺らいでしまう。


 実際に一部ではバンフィールド家の勝利に動揺が広がっていた。


 時間が経てば、アルグランド帝国は周辺国に侵攻されながら国内にも問題を抱えることになってしまう。


 宰相が目眩を覚えていると、バグラーダは期待に胸を膨らませていた。


「人知を越えた存在たち――実に楽しみだ」



「――私では勝てないのか」


 バンフィールド家の艦隊から逃げる戦艦の甲板では、案内人が四つん這いの状態で涙を流していた。


 無重力で涙が球状になり、凍ってパラパラと周囲に散っていく。


 血の滲んだ悔し涙を流しながら、案内人はリアムを憎んでいた。


「どうすればリアムに勝てる? 私がクレオのために、どれだけ支援したと思っているんだ? 普通、この状況で勝つとかあり得ないだろ! リアム、お前は本当に人間なのか!?」


 帝国の征伐軍は、後方支援の艦艇を加えると一千万隻以上の数である。


 それだけの規模の艦隊に攻め込まれながら、バンフィールド家は防衛戦を成功させつつあった。


 既に征伐軍は撤退を開始しており、各地でバンフィールド家の艦隊が追撃を開始している。


 今、案内人が絶望しているこの時にも、帝国軍の艦艇が次々に撃破されていた。


「どうすれば――どうすればリアムに――くっ、何だか腹が痛くなってきた」


 リアムに悩まされたおかげか、案内人は腹痛を感じていた。


 これまでにない嫌な痛みに、案内人の口元が歪む。


「私をどれだけ苦しめれば気が済む! リアム、お前だけは絶対に許さないからな!!」



 その頃。


「全員ぶっ殺せ!!」


 超弩級戦艦のブリッジでは、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすようにマリーが指揮を執っていた。


 帝国軍本隊の敗北――その情報がもたらされた戦場では、これまで要塞に引きこもっていたマリーの艦隊が攻勢をかけていた。


 対する領主貴族たちの混成艦隊だが、数の上では優勢ながら撤退を選択した。


 征伐軍の本隊が敗北した今、敵地に残って戦うのを危険と判断したためだろう。


 だが、マリーはそれを許さない。


「今まで散々好き勝手にしておいて、ただで逃げられると思うなよ!」


 似非お嬢様言葉が消え去り、血走った目で味方に命令を出すマリーは容赦がなかった。


 バンフィールド家の艦隊は、燃料が尽きて白旗を揚げた敵艦を見ると――容赦なく撃破していた。


 降伏した敵を攻撃する容赦のなさを見せるが、これには当然理由がある。


 マリーの副官が降伏を申し出た敵艦の扱いを問う。


「閣下、また降伏したいって艦隊が現われましたぜ」


 ヤレヤレと肩をすくめる副官に、マリーは視線だけを向けて冷たく言い放つ。


「無視しろ。バンフィールド家の領地で好き勝手に暴れ、焼き払った連中だ。情けをかけてやる必要はない」


 侵攻してきた征伐軍だが、バンフィールド家の領地で略奪の限りを尽くしていた。


 その後、再び利用されないように惑星を焼き払っている。


 徹底してバンフィールド家を滅ぼそうとした敵に対して、マリーは情けをかける必要性を感じなかった。


 また――。


(ここにいるのは、帝国寄りの優秀な貴族たちの集まりだ。艦隊を率いたモス子爵も有能なのは間違いない。――だから、ここで確実に息の根を止めてやる)


 ――目の前の敵を逃がせば、バンフィールド家の不利益になると気付いていた。


 今後を考え、少しでも帝国の戦力を削る意味合いでも徹底して叩く必要があった。


「リアム様に逆らい、ロゼッタ様のいる星に攻め込んだ――お前ら全員、生きて帰れると思うなよ」


 撤退する敵艦隊に向かって、マリーは一隻残らず沈める気迫で戦いに挑んでいた。



「海賊は殲滅だぁぁぁ!!」


 そして、もう一つの戦場を指揮するティアの方も追撃戦に移行していた。


 ハンプソン侯爵率いる敵艦隊は、数の上で勝っているが物資がほとんど残っていない状況だった。


 戦闘の継続を不可能と考えたのか、撤退を開始したが――マリーと同様に、それを見逃すティアではない。


 何よりも。


「リアム様の領地で略奪の限りを尽くし、星を焼き払った――お前たちは宇宙海賊よね? 違うと言っても無駄よ。私が認定したもの!」


 一方的に宇宙海賊認定を行うと、ティアは容赦なく敵艦隊に攻撃を仕掛ける。


 副官がティアに無駄だとわかっていても、判断を仰いでくる。


「ティア様、投降するという連中が現われましたが?」


 投降する帝国軍の軍人たちに対して、ティアは微笑を浮かべたまま。


「――宇宙海賊の投降を認めるなんてできないわ」


「了解しました」


 この戦場でも、投降した艦艇を容赦なく撃破していく。


 ティアは戦場の全体を空中に投影して、今後について思案し始める。


「さて、敵はこのままバラバラに逃げるのか、それともどこかで合流するのか――どこに向かえば、より多くの敵を叩けるかしらね」


 各地で帝国軍が撤退を開始しているが、どこに向かえば効果的に敵を減らせるか冷静に考えていた。


 宇宙海賊を滅ぼせると興奮していても、冷静に思考できるのがティアの強みだろう。


 副官がティアに自軍の問題点を挙げていく。


「我が軍の士気は高いですが、問題は防衛戦で疲弊していることですね。追撃はしていますが、数が不足しています。あまり深く攻め込めば、逆撃で損害を増やしてしまいます」


「敵の猛攻を耐えた味方に無理はさせたくないわね。適度な距離を保たせておきましょう。本星に連絡は?」


「既に済ませ、了承を得ました」


「大変結構――さて、私たちは楽しい追撃戦を続けましょうか」


ブライアン(´;ω;`)「皇帝が糞野郎で辛いです。それはそうと、更新再開によりこうして読者の皆様と再会できて幸いでございます」


若木ちゃん(*´艸`)「更新再開と言えば宣伝よね。今日もバリバリ宣伝するわよ!」


若木ちゃん(; ゜∀゜)「というか、今回は多すぎて大変なのよ。まずは【12月25日】発売予定の二作品から紹介するわね」


ブライアン(`・ω・´)「【俺は星間国家の悪徳領主! 6巻】と、あたしの悪徳領主様!! 改め【あたしは星間国家の英雄騎士! 1巻】が発売しますぞ!」


若木ちゃん(´▽`*)「モブせかからは、【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 11巻】と、あのマリエルートが書籍化!? タイトルは【あの乙女ゲーは俺たちに厳しい世界です 1巻】が発売よ! 予約は開始しているから、みんなお店や通販サイトで予約してね!」


ブライアン(´・ω・`)「……四作品は多いですな」


若木ちゃん(・Д・`)「私もそう思うわ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新再開うれしいです。
[一言] 待ってました! メロンの新作限定版を在庫切れする前に注文できたので一安心ですわ(汗
[一言] 皇帝陛下 この帽子に手足が生えたものが人知を超えた存在です
感想一覧
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