十二章エピローグ
本日で十二章「防衛戦 前編」が終わります。
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リアムの本星。
戦場とは違い変わらぬ日常が送られていた。
だが、戦場が近いということもあって、ピリピリとした雰囲気が漂っている。
そんな中、政庁は吉報を知らせるため空に投影されたスクリーンを幾つも用意して、戦争の状況を知らせる。
『クラウス閣下率いる防衛艦隊が、敵の主力である本隊に大打撃を与えました。数十万の艦隊で、数百万の艦隊を一時的に退けています』
空に戦場の様子を映し出し、バンフィールド家が勝利していると知らせる。
他にも。
『獅子神風華大佐が、撃墜スコアを大きく伸ばしています。まさに獅子奮迅の活躍で、機動騎士は三百機以上撃破したと発表されました』
『チェンシー・セラ・トウレイ大佐が、撃破した艦艇の数が百を越えました。軍はこの働きに勲章を贈ると発表しており――』
『クリスティアナ中将が守る惑星ですが、敵艦隊の猛攻を防いでいます。今から現地の映像をお届けします』
いい知らせが続々と発表され、本星に暮らす領民たちは歓声を上げていた。
◇
バンフィールド家の屋敷。
領内が浮かれている中、ロゼッタは次々に届く知らせに眉をひそめていた。
そばでサポートする天城が、ロゼッタの心情に疑問を抱く。
「現在の状況は想定よりも被害が少なく、大勝に近付いていると判断します。それなのに、ロゼッタ様はどうして悲しそうな顔をされるのですか?」
予想よりも大きく勝利している状況なのに、ロゼッタの表情は優れない。
ロゼッタが組んだ手に額を乗せる。
「――人が死にすぎているわ。こんなにも簡単に、万単位の人が死んでいくのよ。味方だけじゃない。敵だって大勢死んでいるわ」
むしろ、征伐軍の方が被害は大きいだろう。
クレオの命令により、無策で突撃させられた軍人たちの被害は桁違いだ。
リアムならばこの世で最も安く扱われているのが、人の命であると理解していた。
そして、人に対して嫌悪を抱いているため、敵の命にまで気にかけない。
天城はロゼッタの悲しみに、一定の理解を示す。
「――戦争は非効率的ですね」
「あなたもそう思うのね。それなのに、どうして人間は戦い続けるのかしら」
ロゼッタは考えるのを止めると、目の前の仕事に取りかかる。
◇
屋敷の中庭。
エドワードは、側付の子供たちと一緒に遊んでいた。
周囲には護衛の騎士の他に、見えない場所から暗部が守っている。
ただ、エドワードは落ち込んでいた。
その様子を見かねたのは、ウォーレスだった。
「どうしたんだい、エドワード」
「――何だ、ウォーレスか」
「呼び捨てとは酷いな。これでも私は元皇族で、リアムの友人だよ」
「皇族って敵でしょ? ナタが教えてくれたよ」
ウォーレスが【ナタ】と呼ばれた少女を見ると、そこにはエドワードと年齢の近い子供がいた。
しかし、まとっている雰囲気が他とは違う。
うまく溶け込んでいるようだが、暗部――ククリの一族であるのは間違いない。
(暗部も次の世代が生まれているのは知っていたが、エドワードの側に置くかね?)
後ろ暗い仕事をする暗部を子供の側に置いていいのか? エドワード様に不浄を近付けてはならない! ――などの意見が、バンフィールド家内部でも存在する。
しかし、リアムは「有能だから」という理由で、暗部だろうとエドワードの側に置いていた。
そんなククリの一族出身である少女だが、ウォーレスを見る目には殺意がある。
(皇族に恨みのある一族だとは聞いていたが、子供にまで恨みを引き継がないで欲しいね。そもそも、私は関係ないし)
ウォーレスは関係を改善するために、ナタに話しかける。
「ナタちゃん、君は私のことを誤解しているよ。私は――」
すると、ナタは顔を背けた。
「話しかけないで下さい。そもそも、ご当主様の友人でなければ、エドワード様にも近付けたくなかったのに」
「そ、そうですか」
敵意むき出しのナタに、ウォーレスは説得を諦めてエドワードに話しかける。
「エドワード、私は敵じゃないよ。リアムの味方さ。何しろ、今のリアムは私のパトロンだからね」
エドワードは顔を上げると、そのまま首をかしげる。
「でも、ウォーレスは何もしてないよね? 味方なら父上を助けてよ」
子供の素直な物言いに、ウォーレスは頬を引きつらせる。
「私がリアムの手助け? パーティーならともかく、私は戦場で役に立たないよ。こうして君の相手をするのが精一杯だ」
そんなウォーレスの発言を聞いていた周りの子たちが、呆れた顔をしていた。
ナタだけは睨み付けている。
エドワードの方は。
「ウォーレスって使えないよね」
「おい! 私がこれまでリアムにどれだけ貢献していると思っているんだ!? そもそも、一番仕事をしていないのはチノだろう!」
ウォーレスが指さす先にいたのは、オオカミの耳と尻尾を持つチノだった。
メイド服を着た銀髪の女性は、小柄で可愛らしい姿をしている。
今は芝生の上に敷物を用意し、その上で用意されたお菓子を食べている。
正座をして幸せそうにお菓子を食べている姿を見たエドワードは、頭を振ってからウォーレスに視線を戻した。
「チノは見て楽しむペット枠だって父上が言っていたし」
「観賞用!? チノの扱いも酷いな!」
エドワードは空を見上げる。
「――ウォーレス、僕も戦場に出ないといけなくなるの?」
子供の質問に、ウォーレスは何と答えるべきか悩む。
(子供には夢や希望がある方がいいだろ)
「君が全てを引き継ぐ頃には、リアムが全て終わらせて平和な世の中になっているさ」
それが無理だとウォーレスもわかってはいたが、この場で非情な現実を言う気にはなれなかった。
――それに、ウォーレスの後ろでは、ナタが殺意のこもった視線を向けている。
エドワードに余計なことを言ったら、ただでは済まさないつもりだろう。
(――ナタちゃんが怖い)
◇
「何故だ。どうして工廠が用意した機体が負ける」
征伐軍本隊旗艦――要塞級のブリッジで、クレオはシートに体を預け天井を見上げていた。
切り札として使用した超大型機動騎士は、リアムの用意した量産型グリフィンと相打ちとなった。
性能は確実に帝国工廠で建造された偽物の方が上である。
本来であれば、勝っていたはずだ。
切り札を失ったクレオは、正攻法でクラウスを抜いてバンフィールド家の本星を制圧しなければならない。
だが――。
「敵防衛艦隊を抜けません!」
「ロドリア中将が戦死! アンソン少将が指揮を引き継ぎ、艦隊を後退させ――敵の追撃部隊に襲われています!」
「機動騎士部隊、敵エース部隊に撃破されていきます!」
――届く知らせは、どれも勝利とはほど遠いものばかり。
クレオはモニターに視線を向け、バンフィールド家の本星を見る。
そこを守る騎士の存在を思い浮かべ、奥歯を噛みしめた。
「帝国最強の名は伊達ではないか」
側にいた軍人が進言する。
「皇太子殿下、一度後退して補給基地を奪還するべきです。その後に、艦隊を再編してバンフィールド領に再侵攻いたしましょう」
軍人も撤退戦が厳しいのは知っているが、このまま攻めても勝てないと予想したのだろう。
クレオも自分の作戦が失敗したのを内心で認める。
「撤退だ。ハンプソンにも伝え――」
だが、その命令を止める者が現れる。
巨大モニターに映し出されたのは、録画された皇帝バグラーダの姿だ。
『クレオ、苦戦しているそうだね。おっと、録画だから質問しても意味はないよ』
ふざけた態度のバグラーダに、ブリッジクルーも目をむいていた。
そして、バグラーダが目を細める。
『実は覇王国が動いていて、増援を送ってやれないんだ。本来なら撤退するのが正しいのだろうが――君たちにはできる限り戦ってもらいたい』
「――え?」
クレオが唖然とする中、バグラーダは微笑む。
『お前の働きに期待しているよ』
◇
征伐軍の補給基地となっている惑星。
そこを占領した俺は、艦隊の整備やら補給を急がせていた。
副官のユリーシアが、端末を操作しながら報告してくる。
「作業は八割まで完了しました。それから、コズモ大将のコールドスリープは成功したと報告が上がっています」
「ティアへの土産だから、大事に扱えよ」
海賊艦隊を率いたコズモを引き渡す先は、ハンプソン侯爵と激戦を繰り広げているティアたちだ。
宇宙海賊を心底憎んでいるティアたちならば、きっと大喜びで受け取るだろう。
コズモがどのような扱いを受けるか想像もできないが、そもそも俺には興味がない。
働き者の部下への心配りだが――まぁ、ろくな目に遭わないのは間違いない。
「クリスティアナ中将たちなら、嬉々として受け取るでしょうね」
ユリーシアもコズモの未来を想像したのか、その表情は少しばかり曇っている。
「海賊に同情でもしたか?」
「違いますよ。彼らよりも、あのクリスティアナ中将の心の闇が想像以上に深くて考えさせられています」
見た目は完璧な美人女性騎士で、能力だって超一流だ。
率いる騎士団も精強だが、そんなティアたちは海賊への恨みが強い。
海賊に対する仕打ちは、想像以上の酷さだ。
これが普通の貴族たちであれば、持て余していたか遠ざけたか――有能だから使い潰された可能性もある。
「心の闇、大いに結構だ。俺は俺に貢献する部下に寛大でありたいと心がけている。――無能はいらないけどな」
成果を出すなら、その程度の心の闇は笑って許してやる。
正義の味方なら嫌悪するかもしれないが、生憎と俺は悪徳領主様だ。
ユリーシアが小さくため息を吐くと、俺の態度に少々呆れていた。
「寛大なのは事実ですね」
「含みのある言い方だな。お前じゃなかったら罰を与えていたところだぞ」
「それよりも」
罰を与える話を流されてしまった。
――悪徳領主としてちょっと情けないが、この場でユリーシアに罰を与えると面倒が増えるため我慢しておこう。
――戦争が終わって領地に戻ったら覚えていろよ。
「補給基地は完全に破壊しましたが、我々はどうしますか? 本星は帝国軍の本隊が攻め寄せているので、迂闊に近付けませんよ」
俺は目の前に映し出される簡易的な戦場の様子を見ながら、次の作戦を――いや、どこで暴れたいかを考える。
「どこでもいいが、敵が最も嫌がる行動をしたいな」
「リアム様は本当にいい性格をしていますね」
「俺の領地を荒らし回った罰を受けてもらう。――徹底的に叩くぞ」
ここで征伐軍を叩いておけば、今の帝国には痛手になるだろう。
――さぁ、ここからが本番だ。
若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「今回も沢山宣伝できたわ。みんな、苗木ちゃんを褒めて~」
ブライアン(´;ω;`)ノシ「名残惜しいですが、これにて十二章は終了でございます。次回の十三章、後編にてお目にかかれると幸いでございます」
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