バンフィールド領防衛戦その11
五月は【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の発売日~。
【原作小説10巻】【5月30日】発売
【コミカライズ8巻】【5月9日】発売
どちらも応援よろしくお願いします!
バンフィールド本星近く。
要塞級から指揮を執るクレオに、コズモが捕縛されたという情報が報告された。
「海賊はやはり海賊か」
コズモが捕らえられたこと自体はどうでもいいが、問題は補給基地をリアムに奪われたことである。
他にも幾つも補給基地は存在するが、そこに運ばれる物資を集積していた。
そこをリアムに押さえられれば、全軍が危険にさらされる。
クレオはすぐに判断する。
「やむを得ない。切り札を切る時だ。リアムが後方にいるのなら、この場にアヴィドが出てくることはない」
すると、そばにいた軍人がクレオの判断に難色を示す。
「皇太子殿下、アレはそもそも使い捨てに近い兵器です。空間魔法も一度の使用しか考えておらず、運ぶとなれば莫大なコストがかかります」
「それがどうした?」
「――アレを使用して勝利したとしても、我々は大きな損害が出たのと同じ状況です。皇帝陛下に、何とご報告すればいいものか」
グリフィンと違って、帝国には運用する施設がない。
整備できる環境を整えなかったのは、そもそも今後は軍で運用すると考えていないためだ。
一度きりしか使えず、使えば大きな損害を出すのと同じ。
クレオもできればリアム以外に使用したくなかったが、後方が押さえられているため手段を選んでいる暇がない。
「使わない兵器に意味などない。それに、敵も切り札を使用したみたいだからな」
突撃させた友軍の艦隊が、戦略兵器と思われる何かに攻撃を受けた。
巨大なビームが幾つも発射され、陣形は崩されボロボロにされている。
軍人は数秒だけ思案してから頷いた。
「超大型機動騎士の出撃準備を急がせます」
「最初からそう言えばいい。そもそも勝たなければ、我々に未来などないぞ」
腕を組むクレオは、周囲に尊大に振る舞っていた。
それはまるで、リアムの振る舞いを思わせる。
嫌いで、そして越えたくて仕方がない存在に、振る舞いだけが近付いていく。
◇
その頃、案内人はグリフィンの偽物にしがみついていた。
出撃した偽物の頭部にあるブレードアンテナから、征伐軍に味方をするためだ。
「もう少しだ! もう少しでリアムの本星を滅ぼせる! そうすれば、奴の家族は失われ、また心に深い傷を――うっ、何故か腹が痛いな」
お腹に嫌な痛みを感じるが、それでも今はリアムの家族だ。
何故か後方の補給基地を占領しているリアムに腹が立つが、ならば家族――ロゼッタやエドワードを狙えばいいと考えた。
「今は痛みよりもリアムだ。リアムの本星を手に入れれば、この戦争だって勝てるはずだ」
案内人は戦争好きだが、これまで勝ち負けにこだわってこなかった。
しかし、リアムの本星を手に入れれば形勢が傾くというのは理解している。
実際、リアムの本星には補給物資が満載だろう。
クレオの艦隊が一息つけるくらいの余裕もあるはずだ。
そして、本星が敵の手に落ちたと知れば――バンフィールド家は崩壊してもおかしくない。
案内人の体から黒い煙が吹き出し、偽物を包んでいく。
「まずはクラウス――お前から倒してやる!」
何百万隻という大艦隊から、リアムの本星を守るクラウス――バンフィールド家の筆頭騎士であり、今では軍の頂点だ。
そんなクラウスが負け、本星も失ったとなれば――バンフィールド家は立ち直れないだろう。
「お前さえいなければぁぁぁ!! それから安士だ。あの野郎が、リアムを育てなければ、こんなことにはなからなかった。あいつも必ず殺してやる!」
安士の所在は知っているが、リアムの本星にいるため手が出せないでいた。
案内人は、戦場に渦巻く負の感情を吸収する。
死んでいった兵士たちの怨念すら取り込み、膨れ上がった力は全盛期に近付いていた。
「みなぎってきたぁぁぁ!!」
偽物のツインアイが輝き、主砲を放とうとすると――リアムの本星が黄金の輝きを強めていく。
「な、何!?」
案内人が輝きの中に見たのは――紛れもなくグリフィンだった。
恐怖からガタガタと震え始める。
「リアムが戻ってきた!? そんなはずはない。奴は補給基地にいるはずだ!!」
ブレードアンテナにしがみつき、案内人は恐怖を払いのけようと頭を振った。
グリフィンを見れば、確かにリアムの物と似ているが細部に違いがある。
何よりも、ショルダー部分に数字の「二」が書かれていた。
「ふひひっ。脅かせやがって。今日のために用意した秘密兵器か? だが、リアムが乗っていないなら問題ない――え?」
グリフィンの量産型の登場に慌てた案内人が、落ち着きを取り戻すと異様なことに気が付いた。
本星からあふれた黄金の粒子が、グリフィンの量産型に流れ込んでいる。
「リアムの真似をしたところで、今の私に勝てるわけがない! 行け! 奴を倒して、リアムの本星を滅ぼしてやれ!」
案内人がしがみつく偽物が、量産型へと近付く。
巨体同士が戦闘可能距離に近付くと――風華の声がする。
『大物発見! こいつを倒せば、師匠や兄弟子が褒めてくれるよな』
乗っているのは一閃流の剣士だった。
案内人は嫌な予感がする。
「安士が育てたガキの一人!?」
かつて、全盛期の案内人はリアムに敗北している。
今よりも弱く、率いる軍隊も精強ではあったが数は少なかった。
加えてアヴィドとグリフィンの量産機だ。
そして今は、あの頃のリアムよりも強いだろう風華が搭乗している。
偽物が主砲を放つと、案内人の助力によってビームが通常の何倍もの出力で発射された。
それを風華の乗る量産型が、同じく主砲で迎え撃つ。
双方のビームがぶつかると、互いを押し返そうとしていた。
「負けられない。こんなところで私は負けられないんだぁ!!」
案内人が負の感情を更に偽物に送り込むと、出力が更に向上して量産型の方が押し込まれていく。
「このまま押し潰してやる!」
◇
風華はコックピットの中で、冷や汗を流していた。
「くそが! 何で偽物に負けるんだよ。こいつ、欠陥品じゃないのか?」
量産型は、第七兵器工場で急遽建造されていた。
それを聞かされていた風華は、第七兵器工場が手を抜いたと想像する。
「別に剣の勝負じゃねーし、逃げてもいいんだけどさ――ただ、ここで俺が退いたら」
振り返ると、そこにはリアムの本星があった。
幾つもの要塞に守られながら、今も敵と戦っている。
「ここで逃げたら、師匠や安幸を守れない。――兄弟子との約束も果たせないし、凜鳳の馬鹿に笑われちまう」
退けない理由を自分に言い聞かせた風華は、操縦桿を強く握りしめる。
「いざとなれば、盾くらいにはなるか? ――だけど、ここで死ぬのは剣士として嫌だな。師匠に顔向けできないぜ」
量産型を盾にして守ろうと考えるが、一閃流の剣士がこんな戦場で死ぬのは嫌だった。
「死ぬなら――同門同士の真剣勝負がいいな」
他流派になど負けられない。
しかし、命がけの勝負はしたい。
結果、同門同士の真剣勝負が、今の風華にとっては理想だった。
風華は一度操縦桿から手を離すと、そのまま背伸びをする。
「兄弟子にはぶっ壊してもいいって言われているからな。無理をするからついてこいよ!」
量産型がうなりを上げると同時に、主砲の発射口が限界を迎えて爆発する。
しかし、風華は脱出せずにそのまま量産型を盾にする。
「耐えろよ、ポンコツ!」
腕を交差させて偽物の主砲を受け止め、本星への直撃から守っていた。
レアメタルを使用した量産型の装甲だが、限界を迎えて溶解し始める。
各所で爆発が起きて、アラートが鳴り止まなかった。
ただ、限界を迎えたのは敵も同じだ。
想定以上の出力で主砲を放った代償なのか、内部から火が出ていた。
巨体である故にそれらは小さな被害に見えているが、敵も限界らしい。
「我慢比べは俺の勝ちだな」
フットペダルを踏み込み、そのまま量産型を突撃させた風華は敵の懐に入り込む。
そして、両手で手刀を作って偽物を貫いた。
互いにボロボロの状態だが、風華はここで終わらない。
「まだ終わりじゃねーぞ!」
そのまま量産型を加速させ、敵艦隊へと向かっていく。
向かった先はクレオが率いる本隊の一部だ。
それでも正規軍であるため、困惑しているだろうが反応は悪くない。
すぐさま陣形を変更して、量産型に攻撃を開始してくる。
風華は量産型の手刀――そこからビームを出して巨大な刃を作り出した。
何千キロに及ぶ長さ。
偽物を引き裂きながら、風華は周囲の艦隊に斬撃を放った。
「どうせ壊すなら、お前らの懐で暴れてやるよ!」
自壊しながら暴れ回る量産型。
周囲の艦艇は巨大な人型兵器の刃に飲み込まれ破壊されていく。
そうして限界を迎えると、量産型の頭部にあるコックピットから――風華の乗るアマリリスが射出された。
脱出機能が備わっていた。
「ここまでかよ」
さっさと逃げようとすると、そこに敵艦から出撃した機動騎士たちが現れる。
その数は数百機で、現在も数は増加していた。
隊長機らしき機動騎士は、周囲の量産機とカラーリングの違いがある。
どうやらカスタム機らしい。
『逃げられると思うなよ!』
それらを前にして、風華は口角を上げた。
「もう少しだけ遊んで行くか」
アマリリスが両手にそれぞれ剣を持ち、二刀流になると――周囲の機動騎士が次々に爆散していく。
◇
宇宙に漂う案内人は、膝を抱えて泣いていた。
「安士――よりにもよって、リアムの量産品を用意するとか絶対に許さないからな」
風華の乗る白いアヴィド――アマリリスが、遠くで戦っている光景を見ていた。
近付く機動騎士は破壊され、戦艦による砲撃はアマリリスのエネルギーフィールドが全て防いでいる。
時には戦艦も両断されており、孤軍奮闘しているはずなのに余裕が見える。
案内人は嫌な予感がして、他の戦場の景色を見る。
「一閃流の弟子たちは他にもいたはずだ。どこで何をしているのか――んっ!?」
手を伸ばして周囲に他の戦場の光景を映し出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
マリーが守る惑星に大きな動きはないのだが、問題はティアが守っていた惑星だ。
三の数字が書かれた量産型が、ハンプソンが出撃させた偽物を容易く撃破していた。
「こ、こいつは――リアムの弟子!?」
◇
その頃。
ハンプソンは、目の前の光景に唖然としていた。
「一領主が、あの馬鹿みたいな兵器を量産しただと? バンフィールドは何を考えている!?」
超大型の機動騎士。
ハンプソンも浪漫は感じるが、領主という立場から「自分なら絶対に採用しない」と思う兵器をリアムは所有するどころか量産までしていた。
ハンプソンには理解できない判断だが、それ以上に驚かされたのは強さだ。
第七兵器工場のグリフィンのデータを元に、偽物は設計が見直されている。
性能では勝っているのに、用意した偽物は目の前の量産型に容易く破壊されていた。
ブリッジの巨大モニターに、敵パイロットの姿が映し出される。
『まさか、同じ兵器を用意しているとは思いませんでした』
相手も驚いているようだが、ハンプソンはまたも驚かされる。
「エレン・タイラー? バンフィールドの弟子か!?」
モニターに映る赤毛の女性騎士は、名を呼ばれると不快に感じたのか目を細めていた。
『――貴殿らには残念な知らせですが、お伝えしましょう』
残念な知らせと聞いて、ハンプソンが苦々しい顔になるのを我慢する。
余裕を持った態度を示さなければ、部下たちが不安になるからだ。
――驚いた後では今更だが、ここで更に情けない態度を見せれば更に士気が落ちてしまう。
「残念な知らせとは、我々の補給基地を叩いたことかな? だが、補給基地は一つではない。我が軍はまだ戦えるぞ」
事実ではあるが、嘘も交えた発言だった。
補給基地は幾つも建造したが、その補給基地に送るべき物資を集積していたのは、リアムが叩いた補給基地だ。
いずれ敵の領地で物資が底を突くのが見えている。
しかし、エレンは微笑するとハンプソンの予想と違うことを言い出す。
『ナンバーフォーが潰して回っているでしょうが、それとは別の話です。――私の師匠、リアム・セラ・バンフィールドからの伝言です。“敵は殲滅せよ”と』
領内に侵入した征伐軍を滅ぼせ――降伏は認めないというリアムの決定が伝えられる。
だが、ハンプソンにはまだ余裕があった。
「資料通り強気な態度だ。だが、帝国はすぐに増援を送ってくるぞ。補給物資も山のように届き、我らが勝利する。命乞いをするのは貴様らだろう」
現状を知れば、帝国からの救援が来ると思っていた。
エレンが笑顔のまま目を細め、ハンプソンを嘲笑する。
『それは無理ですね。覇王国が国境へ進攻を開始しました。他にも、統合政府や連合王国が動いていますよ。幾ら帝国でも、すぐには救援の艦隊を派遣できないでしょうね』
ハンプソンが目をむく。
「覇王国だと? 奴らは帝国に恭順したはずだ!」
統合政府や連合王国が動くのは予想していた。
帝国内が騒がしくなれば、その隙を突いて侵攻してくるとハンプソンも考えていた。
しかし、覇王国は別だ。
今の帝国は、覇王国の侵攻を予想していなかった。
『彼らは強者に従う質ですからね。恭順した相手は、帝国ではなく師匠だったというだけですよ』
ブリッジクルーたちが騒然としていると、巨大モニターに別の人物が映し出される。
それは、片目を大きく見開いたティアだった。
随分と不満がたまっているようで、ハンプソンに物申したいらしい。
『はじめまして、ハンプソン侯爵』
「クリスティアナか」
『随分と苦労させられましたが、ようやくこちらの番が回ってきましたね』
ティアが無表情になると、ハンプソンに告げる。
『――ここからは狩りの時間だ。精々、逃げ回って私たちを楽しませろ』
通信が切れると、ハンプソンは肘掛けに拳を振り下ろした。
ブライアン(´・ω・`)「……色々と辛いですが、宣伝だけはしますぞ」
若木ちゃん( ゜∀゜)「【俺は星間国家の悪徳領主!5巻】は、書籍版限定ヒロインを追加して好評発売中よ! コミックス2巻も発売されているから、そっちもよろしくね!」
ブライアン(´・ω・)「ところで、【アニメ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】が、五話にして何故か最終回扱いを受けておりますが――ちゃんと続きますからご安心下さい」
若木ちゃん(;゜Д゜)「リオンしゃん、アニメでもめっちゃ煽ってたわね。気になる読者さんは、アニメの方もチェックしてみてね」