バンフィールド領防衛戦その10
そろそろ区切りもいいので、近いうちに活動報告を更新しようと思います。
【アニメ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の感想やら補足? それからWeb版に投稿していた頃の思い出でも書きますね。
「海賊艦隊が後方に回って挟撃――いえ、味方ごとこちらを攻撃しています!?」
とんでもない知らせがブリッジに響き渡った。
それを聞いたユリーシアは、苦々しい顔つきをすぐに改めて総司令官に視線を向ける。
総司令官であるリアムは、海賊艦隊が味方ごと自分たちを攻撃しているのを知っても顔色一つ変えていない。
「リアム様、このままでは危険です」
危うい状況が続いていたが、更に危険な状況へと追い込まれていた。
リアムは右手を前に出す。
「散開した後に再集結」
リアムの命令が出されると、円錐状の突撃陣形を維持していた艦隊が思い思いに動き始める。
陣形が崩れ、敵味方が入り乱れる状況へと陥った。
ユリーシアは恐怖から大量の冷や汗が噴き出していた。
(ほとんど崩壊したようなものじゃない!?)
海賊艦隊の攻撃に、バンフィールド家の艦隊が陣形を崩されたようにしか見えない。
しかし、リアムは少しも危機感を抱いていなかった。
むしろ、自信すら見える。
「――悪いが、俺が連れているのは初期から戦っている精鋭中の精鋭だ。この程度で崩れると思うなよ」
味方艦隊は散開すると、素早く敵艦隊の合間を縫って陣形の外――戦場から抜け出していく。
海賊艦隊に攻撃されている敵艦隊は混乱しており、こちらに構っている余裕がない。
たまに攻撃してくる艦艇もいるにはいるが、まとまりがなく脅威ではなかった。
むしろ、脅威なのは海賊艦隊だ。
敵艦の横数十メートルを通り抜けた直後、海賊艦隊の砲撃がアルゴスの真横を通過した。
ビームの光に貫かれた敵艦が、爆散するとアルゴスのシールドが淡く輝く。
発生したデブリからアルゴスを守っていた。
そんな状況でリアムは指示を出す。
「防御に自信がある艦艇は味方を守れ。それから、海賊共の砲撃は敵を盾にしろ」
簡単に言っているが、それができれば苦労はしない。
だが、リアムの艦隊はそれをやり遂げてしまう。
ユリーシアは、リアムも信じられないが――リアムの命令をする艦隊もあり得ないと思っていた。
(何なのよ、こいつら!? どうして、こんな命令が実行できるのよ!?)
唖然とするユリーシアの前で、リアムはシートに座りながら軍人と話をしていた。
「素晴らしい集団行動だな。式典で披露したら金が取れるぞ」
リアムの軽口に、軍人は真面目な顔で――冗談を交え返事をする。
「平時であれば、いくらでも参加しますよ。自分たちで稼げれば、金食い虫と言われずに済みますからね」
「悪いがしばらく忙しいままだ。式典云々は当分先だな」
戦場でこのような会話をしているリアムを見て、ユリーシアは目眩を覚えた。
◇
海賊艦隊の旗艦。
そのブリッジでは、陣形を崩したバンフィールド家の艦隊を見てコズモが笑っていた。
膝を叩いて愉快そうにしている。
「こっちが味方ごと殺しに来るとは思わないだろ。それにしても、あのバンフィールド家の艦隊が崩れていく様子を見られるとは、一生の自慢話になるぜ」
バンフィールド家の艦隊を滅ぼした。
コズモにしてみれば大手柄だ。
これまで以上の地位、名誉、財産が手に入ると、心の中で計算を始める。
ブリッジクルーも同様に浮かれていたが、訓練されているため海賊時代のように騒ぎはしない。
勝利を確信したコズモだったが――僅かな違和感に目をむいた。
「――どういうことだ?」
戦いの終わりが近いと、やや緊張が解けている秘書がコズモの様子がおかしいことに気付いて問い掛けてくる。
「どうしました、閣下?」
「様子がおかしい。あいつら、まさか――」
コズモの嫌な予感は的中してしまう。
崩れたと思ったバンフィールド家の艦隊は、敵味方が入り乱れる戦場を抜け出すと再集結を始めていた。
秘書も気付いたのか、目をむいて驚いていた。
「閣下!?」
「全艦隊、すぐに突撃! 集結して陣形を整える前に、奴らを叩く!」
すぐに行動を開始するコズモの判断は正しかった。
バンフィールド家の艦隊は集結が間に合わず、陣形すらろくに整っていない。
「今だ。今しかチャンスはねーぞ!」
コズモは嫌な予感がしており、何としてもこのタイミングでリアムを叩いておきたかった。
◇
「思ったよりも判断が速いな」
「敵を褒めている場合ですか!? どうするんですか? こんな状況で攻められたら、いくら精鋭だろうと勝てませんよ!」
海賊艦隊が思いのほか速く動いたため、俺は判断を迫られていた。
このまま敵艦隊とぶつかれば、流石に分が悪い。
俺は席を立つとユリーシアに命令をする。
「アヴィドを出す。時間を稼いでやるから、集結を急がせろ」
「え? あ、あの」
「――本当は艦隊戦で終わらせたかったが、クラウスのようにはいかないな」
艦隊司令官としての功績も積みたかったのだが、どうやら俺には向いていないらしい。
――まぁ、どうでもいい。
俺は騎士でも軍人でもなく、ただの悪徳領主だ。
「最後は力押しで終わらせてやるよ」
◇
コズモの艦隊がバンフィールド家の艦隊に襲いかかろうとすると、機動騎士が一機だけ飛び出してきた。
艦隊を守るために出てきた勇者を前に、普段のコズモなら表情すら変えず処理させていただろう。
だが、出てきた機体が問題だ。
オペレーターが報告をしてくるが、口が震えていた。
「アヴィド――アヴィドです! 空間魔法を確認しました。魔法陣より巨大戦艦の出現を確認。第七兵器工場で建造された超大型の機動騎士と思われます!」
苛立ったコズモは、肘掛けに拳を振り下ろした。
「総大将が出てくるんじゃねーよ!」
ただの正論ではない。
これがリアム以外であれば、コズモは喜んで倒していただろう。
敵が馬鹿で助かった、と。
しかし、相手はリアムである。
怯えている秘書は、モニターに映し出されるアヴィド――巨大戦艦が変形して人型になる姿を見ながら、一歩後ろに下がった。
「あれがグリフィンと呼ばれる機体ですか? もう機動騎士じゃありませんよ」
その意見にはコズモも同意だ。
グリフィンを生み出した第七兵器工場の馬鹿共には、文句を言ってやりたい。
しかし、アヴィドがグリフィンと合体――乗り込むと、グリフィンのツインアイが輝く。
「来るぞ! シールド展開! 全面に分厚く張れ。それから、シールド艦は全て前に出せ!」
グリフィンが大きな手を海賊艦隊に向けると、指先一つ一つが光り始め――直後にコズモの艦隊を十本の光が襲いかかる。
一つのビームに何十という艦艇が貫かれていた。
運良くコズモの乗る旗艦は免れたが、何度も受けたいと思う攻撃ではない。
その他にも、グリフィンに取り付けられた武器が艦隊を攻撃してくる。
光学兵器はもちろん、実弾兵器も次々に襲いかかってくる。
「単機で艦隊を相手にするって考えが、そもそも間違いだろうが!」
コズモが怒鳴ると、近くにいた味方艦が爆発した。
文句を言っているのは、現時点ではとても有効だからだ。
それが自分たちに向けられる状況が腹立たしい。
「――アレを使うぞ」
アレと言われて、秘書がハッと気が付きすぐに連絡をする。
◇
アヴィド――グリフィンの内部。
コックピットで操縦桿を手放し、頭の後ろで手を組む俺はモニターから戦場の様子を眺めていた。
「ごり押しで終わるとつまらないが、爽快感はあるな」
マシンハートの影響もあって、今のグリフィンは更に性能を上げている。
同型と比べても優れた性能を発揮していた。
自動操縦に切り替えて眺めているのだが、それだけでこの戦いが終わりそうになっている。
「攻撃された帝国軍の艦隊は――」
味方に攻撃された帝国軍の艦隊は、戦場から逃げ出すと集結していた。
ある意味、俺と海賊艦隊に挟撃されたようなもので、大きく数を減らしてボロボロの状態だ。
オマケに、物資が不足しており戦闘の継続も厳しいようだ。
放置しておけば投降するだろう。
俺が視線を逸らしていると、海賊艦隊に空間魔法が使用された。
巨大な何かが出てくる。
「――考えることは同じかよ」
巨大な魔法陣から出現してきたのは、巨大な機動騎士だ。
グリフィンと同じ大きさで、塗装されていないのか灰色と錆びた箇所が目立っていた。
大雑把に建造されているため、変形機構はないらしい。
最初から人型の姿で登場したのだが、その姿は――グリフィンと似ていた。
「グリフィンと同じ?」
呟くと、海賊艦隊の司令官である男の顔がモニターに映る。
小窓に映る男は、海賊帽子をかぶった――コズモという男だ。
『よう、どんな気分だ、大将?』
「気安く話しかけるな」
素っ気なくあしらうが、コズモは余裕があるのか「もっと楽しく喋ろうぜ」と言って話を続けてくる。
『第七兵器工場が建造したお前のグリフィンだが、実は帝国も同じ兵器を建造していたんだよ』
「そうだと思った。だが、せめて姿くらい変えろ」
『それは建造した工廠の連中に言うんだな。だが、外見は同じでも中身は別物だ。何しろ、変形なんて無駄な機構は排除して、より頑丈にしてある』
無駄を省いて強くしたと自慢したいのか?
『お前の切り札と同じ、いや――それ以上の切り札をこっちも持っているってわけだ。それも一機じゃねーぞ。ハンプソンやモスはもちろんだが、皇太子殿下もお持ちだ』
「それは厄介だな」
考えることは一緒か。
そんな切り札を持っているなら最初から使え――とは、俺からは言えない。
何しろ、グリフィンは戦場での圧倒的な強さと引き換えに、運用コストがデタラメにかかる。
一機用意するなら、大人しく艦隊を用意した方がいいくらいだ。
一度動かせば整備も必要になるが、俺はともかく敵側はそんなことをしている余裕がないだろう。
物資が不足している状況では、下手をすれば使い捨てるしかない。
使わずに済めば、それに超したことがない。
『てめぇの負けだ、リアム』
「様を付けろ、三下」
偽物がグリフィンに向かって胸部を向けてくる。
そこに光が集中すると――解放され主砲が放たれた。
極太のビームがグリフィンに襲いかかってくる。
コズモは勝利を確信しているようだ。
『もう少し態度がいいなら手加減して楽に殺してやったのによ。残ったお前の部下たちは、全員が地獄を見ることになるぜ』
俺を倒した後に、部下たちをいたぶるつもりのようだ。
光に飲み込まれるグリフィンは、両腕を交差させて守りを固める。
「お前が先の心配をする必要はない。それよりも、お前は自分の心配だけすればいい」
コズモの扱いを俺の中で決定すると、操縦桿を握りしめてグリフィンを動かす。
グリフィンのエンジンがうなりを上げると、光の中を進んでいく。
流れに逆らうように進むと、偽物が更に出力を上げてきた。
負担が大きいのに無理をするから、内部から放電が起きている。
「わざわざ偽物まで用意させて申し訳ないが――いつまでも以前の機体だと思うなよ。こっちは常に進化し続けているからな」
マシンハートの影響は、アヴィドを通してグリフィンにも及んでいる。
グリフィンが偽物に近付くと、手を伸ばして胸部を貫いた。
そのままもう片方の手を差し込み、内部から引き裂いていく。
『なっ!?』
驚くコズモに教えてやる。
「偽物にもレアメタルを使ってくれたのか? ――わざわざ資源を運んできてくれてありがとう。俺が大事に使ってやるよ」
グリフィンが偽物を強引に引き裂くと、辺りにデブリが発生する。
それを、アヴィド内部に隠している錬金箱を使用して回収する。
周囲に散らばったゴミが、光の粒子に変換されてグリフィンに集まってくる。
『何をした!?』
何が起きているのか理解できないコズモに、俺は答えず――グリフィンの主砲を海賊艦隊に向けてやる。
胸部に光が収束するのを見て、コズモの顔色が青ざめていた。
「教えてやるつもりはない。それから――よくも俺の領地を荒らし回ってくれたな」
補給基地を攻撃した理由の一つは、こいつらを叩くためだ。
味方艦が次々に撃破されていく中、コズモは俺を睨むだけで命乞いをしてこない。
「お前ら全員、ここで終わりだ。最後に言い残すことはあるか?」
尋ねると、コズモは不敵な笑みを見せる。
『散々暴れ回ったんだ。こうなる未来くらい予想していたさ』
「諦めが早いな」
『――だが、この場で勝っても同じだ。お前が幾ら勝利を重ねても、最後は必ず帝国が勝つ! そもそも国力が違う。お前が俺と同じ地獄に落ちるのを、あっちで楽しみに待っているぜ』
本当に地獄があるのなら、俺は間違いなく落ちるだろう。
だが、それがどうした?
「悪いがもうしばらくこの世を楽しむつもりだ。お前は俺が来るまで、精々大人しく待っているんだな」
『てめぇ、帝国に勝つつもりか? すぐに援軍が――』
援軍や次の征伐軍が派遣されてくると言いたいのだろうが――それはない。
ないのだ。
「増援なら来ないぞ」
『は?』
コズモが驚くと、グリフィンは蹴散らした海賊艦隊に近付き旗艦を発見する。
巨大な手で旗艦を掴むと、コズモが俺を睨んでくる。
「お前は特別待遇だ」
――頑張っている部下を労うために、プレゼントの一つくらい用意してやるとするか。
「さて、そろそろあいつらも切り札を切る頃か?」
若木ちゃん( ゜∀゜)「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です は 【5月30日に原作小説10巻】 が発売よ! コミックス8巻ももうすぐ発売だから、絶対に手に入れてね!」
ブライアン(´・ω・)「コミックス8巻からは、原作小説3巻へ突入しますからね。新章のはじまりでございます。そういえば、8巻からは ユメリア殿が登場されて――」
若木ちゃん((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル「いやぁぁぁ!! 来ないでユメリア!! いい子にするから! いい子にするから許して!!!」
ブライアン(´・ω・`)「……【俺は星間国家の悪徳領主! 5巻】もよろしくお願いいたします。今回のオマケでは、量産型メイドロボの【立山】が登場です。リアム様曰く、無口で人見知りの激しい子、とのことですが――このブライアンには全て同じに見えて判別できずに辛いです」