バンフィールド領防衛戦その8
俺は星間国家の悪徳領主!
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書籍のページ数を見てお気づきの読者さんも多いと思いますが、書籍版はWeb版から基本そのままに大幅に加筆しています。
巻末の「量産型メイドの日常」が好評でしたので、是非そちらもお楽しみ頂ける書籍版をよろしくお願いいたします!
海賊艦隊を率いるコズモは、苦虫をかみ潰した顔をしていた。
命令を出すのは、ハンプソンだ。
『バンフィールドによって補給基地が叩かれた。だが、奴らは欲をかいて物資の強奪を行っている。今の内に、リアムを叩け』
命令を受けたコズモは、唾を吐く。
「リアムとは戦わないのが方針だったはずだが?」
その方針を捨てるのか? そんな問い掛けに、ハンプソンは即答する。
『このままでは先に俺たちの物資が尽きる。皇太子殿下が、余計な荷物を持ち込まなければ、もう少し余裕もあったんだがな』
余計な荷物とは義勇軍のことだ。
義勇軍さえいなければ、征伐軍はもう少しだけ長く戦えた。
無理をしてリアムを叩く必要もなかった。
『バンフィールドが率いる艦艇の数は三万隻を切っている。お前の率いる六万隻と、合流した海賊たちで叩け』
コズモはその数に不安を覚えていた。
「簡単に言うな! 奴は四倍差もひっくり返す戦上手だ。クラウスほどではないにしろ、戦うなら相応の戦力を出せ!」
お前の艦隊から増援を派遣しろと言われ、ハンプソンも予想はしていたのかアッサリと受け入れてしまう。
『――いいだろう。だが、出せるのは三万隻だ。これ以上削れば、俺たちの方が危うい』
危ういと聞いて、コズモは目を細める。
「あんたがそこまで追い込まれているのか?」
コズモもティアが優秀なのは知っているが、リアムやクラウスと比べれば常識の範囲内だと認識していた。
しかし、ハンプソンの反応がおかしい。
『こちらの猛攻を耐え忍んでいる。予想よりも粘っているというのが本音だな』
眉根を寄せたハンプソンの発言に、コズモは怪しく感じた。
(思っていたよりもやるのか? リアムとクラウスにさえ気を付けていれば、残りは常識の範囲内だと思ったんだが)
腕を組んで数十秒思案した後に、コズモはリアムと戦うために戦力を求める。
「足りないな。三万隻に加えて、ダスティンも派遣してくれや。あんたの艦隊にいるんだろ?」
すると、ハンプソンは憮然とした表情を見せる。
『独立権を盾に俺の命令を無視している。勝てない相手とは戦わなければ最強という言葉はあるが、それを徹底しているからこその剣聖だな。感心する』
言葉では褒めているようにも聞こえるが、ハンプソンの態度からダスティンに対する失望が見て取れる。
コズモが舌打ちをする。
「帝国最後の剣聖様も頼りにならないな」
◇
ハンプソンが率いる艦隊は、ティアが守る惑星を攻めていた。
バンフィールド家の領内の中でも発展した惑星は、戦争に必要な物資を大量に保管、そして製造しているだろう。
三百万隻の大艦隊が補給を受けられるほどに、蓄えがあるはずだ。
ハンプソンの計画では、速攻で落としてトライドの救援に向かう予定だった。
各個撃破を狙っていたのだが、クレオの勝手な行動で予定が大幅に変更になっている。
「敵の精鋭と思われる機動騎士部隊が前線にて大きな被害を出しています!」
オペレーターの報告に、ハンプソンは即座に命令を出す。
「ダスティンを向かわせろ」
すると、他の報告が入る。
「敵の機動騎士部隊が、撤退する味方に攻撃を開始しました!」
あちこちで行われている戦争は、一進一退の攻防を繰り返していた。
精鋭部隊を叩きたいハンプソンは、ダスティンに迎撃するように命令を出した。しかし、当の本人が通信を開いて文句を言ってくる。
『副司令、状況を確認した』
「ならば敵の精鋭部隊に――」
『いや、撤退している味方の救援が先だろう。わしの機動騎士部隊は、これより友軍の救助に向かわせてもらう』
堂々と命令違反をするダスティンに、ハンプソンは肘掛けに拳を振り下ろした。
「お前の仕事は、敵の精鋭部隊を叩くことだ。雑魚の相手は他の騎士たちに任せればいい!」
しかし、帝国では剣聖に独立権を与えていた。
いざとなれば独自の判断で行動できる部隊で、指揮系統からは外れていた。
それを盾にダスティンは戦いやすい敵を選ぶ。
『わしには独立権があるのでな。今必要と思われることをするまでだ』
通信が一方的に切られると、ハンプソンが憤る。
「剣聖の称号にこだわるだけの偽物が!」
◇
数十隻の宇宙戦艦を率いるダスティンは、格納庫で弟子たちに囲まれていた。
ローマン剣術の使い手たちに与えられたのは、帝国工廠で建造された最新鋭の機動騎士である。
全ての兵器工場で生み出された技術と、帝国中のデータを集めて建造された機体である。
バンフィールド家の量産機も優れているが、性能だけで言えばダスティンたちの機動騎士が上になっている。
ダスティンは部下であり、そして弟子でもある皆に告げる。
「帝国の剣聖が三人も破れ、残るはわし一人だ。――この状況は非常に幸運だ」
剣聖たちが破れ、残ったのは自分一人。
それをダスティンは、弟子たちの前でははばかることなく喜んでいた。
「一閃流などリアム以外は恐れる必要はない。機動騎士に乗って一閃を再現したそうだが、通常兵器と何が違うのか?」
恐れるのはリアムだけでいい。
その他は遠距離から艦砲射撃で撃破すればいい、と考えていた。
「そしてこの戦場では、できるだけ敵を倒せ。数こそが正義だ。いくら強者を倒そうとも、俗人は数こそ注視する。一人の強者よりも、十人の凡人を倒せ」
ダスティンの教えを受けた弟子たちは、この言葉に異議を唱えない。
唱えるような者は、既に破門されている。
ダスティンは出撃するため、機動騎士のコックピットへと向かう。
(わしも剣聖になり随分と情けなくなった。昔は技を磨き、強者と戦うことを誉れとしてきた。だが、評価されるのは二大剣術ばかりではないか。俗人共にはどちらが優れているかなど、理解することもかなわん)
かつては剣士として意地があった。
しかし、ダスティンが剣聖となって二大剣術の当主代理たちと戦い勝利しても――帝国の民はローマン剣術を認めなかった。
ローマン剣術こそが最強と信じるダスティンには、それが許せなかった。
(わしをいいようにこき使うハンプソンも敵だ。精鋭部隊にぶつけ、疲弊したて破れたところで口先だけ褒めるだけ。わしの評価は剣聖のくせに破れた敗北者となろう)
ダスティンには、ダスティンの考えがあった。
それは外れてもおらず、ダスティンがハンプソンの命令に従っていれば酷使されただろう。
ハンプソンという男は、剣聖という称号に価値を感じていない。
ただの駒としてみていた。
コックピットのヒートに座るダスティンは、戦場で一閃流の剣士――リアム以外に遭遇することを求める。
(数を重視しているとは言え、一閃流の剣士を討ち取った実績は欲しいな。奴らの首には、凡人を百人――いや、千人討つよりも価値がある)
◇
征伐軍の補給基地がある惑星。
その周辺で陣形を構えさせた俺は、トーマスと通信で会話をしていた。
俺の目の前には、汗をハンカチで拭うオッサンの姿が見える。
『リアム様、ご命令通り物資の積み込みを終えました』
「ご苦労だった。護衛を出すから、お前はさっさと戦場を離れろ」
『は、はい。ですが、本当によろしいのですか? 帝国軍の本隊が引き返してくれば、数百万隻と戦うことになります。いくらリアム様でも、その数を相手にするのは不可能ではありませんか?』
俺に対してなんたる不敬! と言えればいいのだが、流石の俺も三万隻に満たない数で百万の敵を打ち破るのは条件が揃わなければ無理だ。
あと、やろうとも思わない。
そもそも、そんな状況を作り出す奴は馬鹿である。
「戻ってこられないから、俺がこの場に残っているんだろうが」
『は? し、しかし』
混乱しているトーマスに、俺は周囲にも聞こえる声で説明してやる。
「クレオの馬鹿は判断を誤った。味方が増えて上機嫌で俺の本星に攻め込んだのは間違いだ。あいつがするべきは、当初の計画通りに動くことだけだったのにな」
補給基地を叩いた際に、帝国軍の将官や兵士を大量に捕縛した。
そいつらから得られた情報をまとめれば、予定にない増援の到着にクレオは自ら俺の本星を叩く選択をしたそうだ。
「――俺なら有象無象は即座に追い返した。補給が限られている中、お荷物なんて抱えたくもない」
二百万隻という圧倒的数を前に、判断を誤ったのがクレオだ。
『それでは、ここを取り返しに来るのは少数だと?』
「全力で本星を攻めれば勝機はあるかもな。だが、クレオがクラウスを抜いて本星を落とせると思うか?」
『いえ』
最も頼りにしているクラウスを本星に残して正解だった。
逆にクラウスを遊撃に回しても一定の成果は出ただろうが、俺の方が向いている。
ただ、俺はここで気付いてしまった。
「おっと、クレオを馬鹿呼ばわりは間違いだ。あいつは最高の人材だからな」
『はい?』
裏切り者を最高の人材呼ばわりする俺を見て、トーマスは首をかしげている。
「だってそうだろ? ここまで俺たちの都合のいいように動いてくれたんだ。あいてには感謝しないといけないな」
案内人に向けるような純粋な感謝はしてやらないが、無能な敵は優秀な味方と同じだ。
案内人に感謝するついでに、クレオにも数秒だけ感謝しておこう。
俺は時間を確認して、トーマスにすぐに下がるよう命令する。
「――そろそろ時間だ。トーマス、お前は逃げろ」
『リアム様、ご武運を』
「武運? 違うな。――狩りがうまくいくように願っておけ」
◇
トーマスが去ってから数日後。
アルゴスのブリッジでシートに座る俺は、ようやく現れた敵にため息を吐く。
「予想より数日遅いな。――これは、ティアが頑張っている証拠かな?」
俺の独り言を聞いていたユリーシアが、俺の隣に立って緊張しつつも呆れた視線を俺に向けていた。
「短距離ワープで現れた敵艦隊ですが、海賊艦隊を主力とした帝国の正規軍です。他にも海賊と思われる集団を確認しています」
「海賊が昔の仲間を頼ったか?」
「規模にして十二万ですよ」
四倍以上の敵を前にして、ブリッジが慌ただしくなってきた。
俺はシートから立ち上がり、背伸びをしながらモニターに映し出される敵艦隊を眺める。
「――逃げずに基地を取り返しに来たことは褒めてやるよ」
俺が今回の戦いでもっとも倒したかった相手は、領地を荒らし回った海賊艦隊だ。
この手で滅ぼしてやると決めていた。
「さて、遊んでやるか」
最初は艦隊戦から相手をしてやろう。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様が逃げないので辛いです。――リアム様の馬鹿」
若木ちゃん(;゜Д゜)「【俺は星間国家の悪徳領主! 5巻】は好評発売中よ。――あの人、あとがきのアイドルである私を斬ろうとするから怖いのよね」
ブライアン(*´ω`*)「書籍版の購入報告も続々と届いており、このブライアンは幸せでございます」
若木ちゃん( ゜д゜)「泣いたり照れたり、情緒不安定なお爺ちゃんね」