バンフィールド領防衛戦その7
乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です10巻 が 【5月30日】に発売となります。
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というか、この作品は モブせか の宣伝作品だったはずなのに(;´Д`)
「耐えろ! 帝国軍の本隊を疲弊させれば、それだけ勝利に繋がる!」
ブリッジで味方にもう少しだと言い続けるクラウスは、自分の中の弱い心と向き合っていた。
(この敵艦隊を退けたところで、帝国の国力であれば数十年後にはまた同じ規模の艦隊を派遣できる。だが、バンフィールド家では同じ事は不可能だ)
帝国には次がある。
しかし、バンフィールド家に次があったとしても、今回と同じ規模の軍を用意するのは不可能だった。
それだけ征伐軍により、領内の被害が拡大している。
クラウスの所には、今も一つの惑星が火の海になったと報告が届く。
海賊艦隊が暴れ回っており、遊撃を任せた艦隊はことごとく敗北していた。
リアム憎しでまとまった海賊たち。
帝国軍の海賊艦隊の他に、本物の宇宙海賊たちも加わっているようだ。
バンフィールド家の領内に侵入し、互いに密に連絡を取り合っていた。
補給基地も幾つも破壊され、無視できない被害が出ている。
(本当に嫌になる相手だ。自力が違う上に、勝つためにあらゆる手段を打ってくる。それなのに、隙も見せて――これではまるで、当家をいたぶって遊んでいるようではないか)
帝国軍の戦いに嫌悪感を覚えていた。
これが帝国の戦い方なのか、と。
参謀たちが険しい表情をしながら、疲弊した艦隊を下がらせるよう命令を出している。
「すぐに予備艦隊を向かわせろ! もう持たないぞ」
だが、それを聞いたオペレーターは泣きそうな顔をしていた。
「無理です。もう、予備の艦隊は出払っています。再編した艦隊も、まだ出撃準備が整っていません」
絶え間なく押し寄せる帝国軍との戦いは、数の暴力で劣勢に立たされていた。
そんな中でも、クラウスが頼りにする部下たちは活躍する。
オペレーターが嬉しそうに報告してくる。
「閣下、敵艦隊を退けた艦隊が、増援を送ると申し出てきています」
「感謝すると伝えなさい」
「はい!」
短く返事をしたクラウスだが、心の中では安堵して大きなため息を吐いていた。
(よし! これで何とかもう少し耐えられる。それにしても、我々も苦しいが――どうして帝国軍の方が消耗しているんだ? 想定よりも敵の消耗が速いぞ)
予定していたよりも、敵の消耗が激しい。
苦しんでいるはずなのに、むしろクラウスの軍が優勢にすら見えてくる。
オペレーターが叫ぶ。
「敵の損耗率が二割を超えました!」
参謀たちから喜びを含んだ声が上がった。
「よし! 敵が撤退する際は追撃に入れ!」
しかし、オペレーターが困惑している。
本来であれば撤退しても仕方がない状況で、帝国軍は攻勢を緩めていなかった。
クラウスは目を細める。
「――まだ続けるのか」
◇
クレオはブリッジで周囲を怒鳴りつけていた。
本人はこれが軍の士気を上げると思っているのだが、周囲の反応は悪い。
それがクレオを余計に苛立たせる。
「いつまで被害を増やし続けるつもりだ? 貴殿らは、俺のために馳せ参じたのではないのか? 多少のお目こぼしはしてやるつもりだが、こうまで負け続けていれば温厚な俺とて罰を下すしかないぞ」
スクリーンに投影される貴族や軍人たちは、クラウスの軍の矢面に立たされている者たちだ。
クレオが切り捨てるつもりで突撃させた彼らだが、思っていたよりも使えなかった。
もとから期待などしていなかったが、それを差し引いても酷すぎた。
『しかし、我々だけで攻め落とすのは無理です。相手はクラウスですよ』
『そうです。帝国最強の――』
最強の騎士と言おうとした貴族に、クレオは冷たい視線を向ける。
「帝国最強? 敵の騎士に対して、帝国を持ち出すのはいかがなものかな?」
『し、失礼いたしました』
揚げ足を取り始めたクレオに、ブリッジにいたクルーたちの反応は悪かった。
下手なことを言えば、反感を買うと思ったのだろう。
クレオはそれも腹立たしい。
(精鋭を集めたつもりだが、役に立たない無能ばかりだな。やはり、クリスティアナを引き抜くか、始末しておくべきだったか)
ティアの暗殺は皇帝に止められていたため行えなかった。
しかし、ハンプソンを相手に奮戦しているティアの話を聞けば、後悔せずにはいられなかった。
クレオは再び命令を出す。
「貴殿らは突撃しろ。百万を超える軍勢で突撃すれば、さすがのクラウスも打つ手はない。物量は正義だろう?」
クラウス相手に突撃しろと言われ、貴族たちは青ざめていた。
軍人たちも恐れているようだ。
その姿を見た周囲のクルーたちは、クラウスという騎士がいかに恐ろしいのかを実感してしまう。
『ですが、無策で突撃するわけにはいきません。せめてお時間を下さい』
「駄目だ。突撃しろ」
命令を出し、そして通信を切ると自分のシートに乱暴に座る。
そんな様子を後ろから眺めていたのは、クレオのシートの背もたれ部分に腰掛ける案内人だった。
「味方すら捨て駒にするお前は、最高の人材だ。やはり私の目に狂いはなかったな」
一人満足しながら頷いていた。
大きな被害を出すクレオの艦隊だったが、数で言えばまだクラウスの艦隊に勝っている。
ただ、忌々しいことが一つ。
「それにしても、やはりリアムの本星は手強いな」
案内人の目には、リアムの本星が黄金に輝いて見えていた。
うっすらと黄金色に輝く光に包まれている惑星は、案内人の影響力をはね除けている。
それは、リアムに感謝する領民たちの気持ち――それを、遠く離れた世界樹が増幅しているようだ。
クラウスの艦隊は、その加護に守られているため手が出せない。
しかし。
「だが、それももうすぐ終わる。これだけの艦隊をいつまでも加護だけで守り切れるものかよ。それに、今はリアムが不在だ。惑星一つくらい、簡単に落としてみせる」
案内人も勝利を確信していた。
しばらくして、観念して突撃する見方を眺めるクレオは微笑んだ。
「そう。それでいいんだ」
嬉しそうにするクレオに、オペレーターたちが騒ぎ始めた。最初は小さな声で話し込み、次第に声が大きくなる。
次に報告するべきか悩み、責任者が覚悟を決めてクレオに知らせたのは――消息を絶ったリアムの艦隊についてだった。
「皇太子殿下」
「何だ?」
「大変重大な問題が発生しました」
「さっさと言え」
さっさと言わない部下に腹を立ててぶっきらぼうな態度を取ると、部下は更に萎縮してしどろもどろになる。
下手なことを言ってしまうと処刑されるのではないか? そんな不安が見えていた。
だから、そばにいた騎士が急かす。
「速くしなさい」
「は、はい! 実は、消息を絶っていたバンフィールド公爵の艦隊が――い、いえ、リアムの艦隊が発見されました」
余計な言い直しに苛々するクレオだが、リアムが見つかったと聞いて慌てて詳細を求める。
「いたか! どこにいた? 本星か? ならば、全力で攻め込んで――」
しかし、リアムがいたのは別の場所だ。
部下が青ざめた表情で告げる内容に、クレオも目をむいてしまう。
「後方の補給基地です!」
直後、クラウスの軍から放たれた巨大なビームの光に味方の艦隊が飲み込まれていく。
本星防衛用に秘密兵器でも持っていたのだろうが、今のクレオにはどうでも良かった。
「どうしてそんなところにリアムがいる!?」
叫ぶクレオ。
同時に、案内人も叫んでいた。
「リアム、おま――お前はぁぁぁ!! どうしてそんなところにいるんだぁぁぁ!!」
いつの間にか補給線を絶たれ、案内人も困惑していた。
◇
押し寄せる敵艦隊に、戦略兵器を用いたクラウスは腕を組み不可解な顔をしていた。
だが、周囲はクラウスを褒め称えている。
切り札であった戦略兵器の使用は、最高のタイミングで敵艦隊の大部分を削ってくれた。
それを喜んでいる。
「最高のタイミングです、閣下!」
「敵艦隊は統制を失っていますね」
「このまま一気にけりを付けてやりましょう、閣下!」
そんな部下たちとは対照的に、クラウスは冷静だった。
「どうして無鉄砲な突撃をしてきた? それに、敵艦隊の動きがおかしい。まるで、動きを止めているみたいじゃないか」
戦場だというのに、戦略兵器で被害を受けた味方を無視して動かないでいた。
後方に展開している艦隊は、目の前の味方艦隊を無視している。
クラウスのもとに、一人の騎士が伝令としてやってきた。
随分と苦しそうな顔をしており、全力で走ってきたのがうかがえる。
同時に、その顔は随分と喜んでいた。
悪い知らせではないのだろうと考え、そちらに顔を向ける。
「閣下、朗報です!」
「そうか。それで、内容は?」
ここに来て嬉しい知らせに、クラウスは「これで少しは味方の士気も上がるだろう」などとのんきに考えていた。
そんな自分をすぐにぶん殴りたくなるのは、この後の騎士の報告で、だ。
「はい! リアム様率いる艦隊が、敵後方に設置された補給基地を叩きました! 調べたところ、敵の主な補給基地はその一つであり、他はたいした能力持たないとのことです。リアム様が、敵の補給を絶ちました!」
その知らせに周囲は最初に歓声を上げそうになり――そしてすぐに気付き、参謀たちは青ざめる。
――リアム様は何をしているのか? と。
クラウスが僅かに震えており、それを見た部下の一人が後に語る。
『あのクラウス様でも、リアム様の破天荒ぶりに震えておられた。帝国最強と呼ばれていても、リアム様の方が凄かったということですよ』と。
クラウスは数秒後に叫ぶ。
「連れ戻せ! いや、すぐに増援を派遣しろ! 誰でもいい。遊撃艦隊を向かわせて、リアム様をお守りするのだ!」
◇
征伐軍の補給基地。
惑星に設置された補給基地は、宇宙港が用意されていた。
軌道エレベーターに加え、スペースコロニーが幾つも惑星の周りに浮かんでいる。
ここで物資の生産も行っているのだろう。
「随分と予算をかけて用意したものだな。これを短期間で行ったと思えば、帝国はやはり侮れない」
帝国の艦隊――その残骸が漂う宇宙から、俺は惑星を見下ろしていた。
場所はアルゴスのブリッジだ。
床をモニターとして使用して、手に入れた惑星を眺めている。
そんな俺の所に、ユリーシアが小走りで駆け寄ってきた。
「ヘンフリー商会、そしてニューランズ商会の輸送艦が到着しました。物資の積み込みを急いでいます」
ユリーシアを見れば、その周囲には届いた情報が周囲に映し出されていた。
トーマスやパトリスが率いた輸送船団が、集積していた物資を次々に運び出していた。
「敵が来たら無理せず引き上げろと伝えておけ」
ユリーシアは頷きながら、すぐに端末で商会に俺の命令を伝える。
軍人である部下の一人が、俺を見て不安そうにしていた。
「リアム様も下がった方がよろしいのではありませんか? ここは敵地ですよ。敵の艦隊が補給基地を取り戻すために、押し寄せてくるはずです」
その不安に俺は笑って答えてやる。
「それがどうした? クラウスたちに後ろを見せたらどうなるか、クレオたちが知ることになるだけだ。ティアやマリーもいるからな。あいつらはしつこいぞ」
今更撤退して補給基地の奪還など遅い。
クレオたちには、進み続けて俺の領地を取るしか道が残されていなかった。
俺は全員に命令する。
「この惑星で待機だ。敵艦隊が来たら相手をしてやる」
「正気ですか!?」
話を聞いていたユリーシアが、端末の操作を終えて無礼なことを言い出した。
俺に向かって正気を問うとか、失礼にも程がある。
「お前じゃなかったら、この場で手打ちだからな。その辺をよく考えて発言しろよ」
俺が丁寧に教えてやったのに、ユリーシアは学習できないようだ。
「正気を疑いたくもなりますよ! この場に留まるのが、どれだけ危険だと思っているんですか! もう十分に役目は果たしたんですから、さっさと戻りましょうよ」
涙目のユリーシアに同調するように、周囲の軍人たちも頷いている。
ふざけるな! 俺には案内人の加護がある! それに、負けるつもりはない。
そもそも、こんな戦いに、案内人の加護など不要だ。
「待機だ、待機! ここで敵を迎え撃つ。それに、待っていれば、出てくるのはあいつらだろうからな」
俺が次にやって来る敵艦隊を予想していると、ユリーシアも気付いたらしい。
「――海賊艦隊ですか? 来ますかね?」
「来る。いや、派遣されるだろうな。今のクレオには、動かせる手駒はそいつらだけだ」
散々俺の領地を荒らし回った馬鹿共には、徹底的にやり返す。
そう、これは私怨だ。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様が自由奔放すぎて辛いです。リアム様逃げてぇぇぇ!!」
若木ちゃん( ゜∀゜)「【俺は星間国家の悪徳領主!5巻】は好評発売中よ。それにしても、通販サイトのレビューが沢山ついているわね。お星様が沢山!!」
若木ちゃん(;゜Д゜)「それより、ツラウスさんの秘密兵器って何かしら?」