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バンフィールド領防衛戦その6

俺は星間国家の悪徳領主! 5巻 + コミカライズ版2巻 は好評発売中!


乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です が お店の特設コーナーで売り切れたというTwitterの呟きを発見して、喜んでおります(^▽^)

「本星が敵本隊に狙われただと?」


 バンフィールド家の本星が、クレオ率いる敵本隊に狙われているという知らせはマリーにも届いた。


 未だトライド率いる貴族艦隊と睨み合いを続けるマリーは、激戦が続くティアと違って何の動きもなかった。


 手柄を立てられない状況に不満もあるが、それよりも下手に動くのを避けるため我慢を続けている。


 副官の騎士が敵艦隊の数を述べるが、その表情は苦々しいものだ。


「最新の情報では四百万に届く大軍勢ですよ。全く、どこから二百万も追加でかき集めてきたのか」


 帝国の国力に嫌気が差している副官に対して、マリーはアゴに手を当てていた。


(ロゼッタ様とエドワード様の身も心配だが、それ以上にこのタイミングで増援だと? 帝国軍は後方に、それだけ頼もしい補給基地を建造したのか?)


 補給の問題を敵が解決したと思えば焦るが、それが可能かどうか思案する。


(滅んだ文明の遺産には、ゴミから黄金を作り出す幻の道具があると聞いたことがある。それを帝国が保有していたとしてもおかしくはない。おかしくはないが――あり得るのか?)


 敵が切り札を切ったのか?


 そのように考えるマリーだったが、どうにも腑に落ちない。


(ならば、最初から使えばいい。領内を荒らし回って、財宝集めをする必要すらない。それなのに、海賊艦隊まで持ち出して荒らし回っている――ただの嫌がらせか?)


 情報が少ないと判断したマリーは、今はとにかく目の前の敵に専念するため思考を切り替える。


「あたくしたちの敵は目の前の艦隊よ。率いているのは、モス家の当主だったわね?」


 副官がわざわざ情報をマリーの目の前に表示した。


 それを見ながら確認する。


「リアム様と同じく、辺境で力を蓄えていた子爵ですね。奴が率いる艦隊も、同じく帝国内で力を持つ貴族たちの艦隊ですよ」


 それを聞いたマリーは、今後のことを踏まえて思考する。


(帝国側の貴族たち。加えて実力者が揃っているのならば、ここで沈めておくのが今後のためになるわね。当主が消えれば、しばらくはそいつらの実家も身動きが取れないでしょう)


 跡目争いや当主不在により発生する問題が、貴族たちの実家を動けなくする。


 更に、バンフィールド家に派遣した軍隊が消えれば、しばらく軍事行動はできないだろう。


 目の前にいる敵は、今後の戦争を左右する存在だ。


 それを認識したマリーは、クツクツと笑い始めた。


 それを副官がギョッとした目で見ているが、無視して命令を出す。


「指揮下の全軍に通達しなさい。戦いが始まったら、容赦なく敵を滅ぼすわ。それまで、英気を養うように、とね。――訓練も忘れたら駄目よ」


「攻め込む時が来ますかね?」


「来るわ」


 即答で断言するマリーに、副官は肩をすくめる。


 そして、命令を指揮下全軍に通達する。



 マリーの軍と睨み合うトライドは、知らせを聞いてシートから腰を上げていた。


 あまりの知らせに、苦虫をかみ潰したような顔をする。


「皇太子殿下は何を考えておられるのか!」


 肘掛けに拳を振り下ろし、クレオの短慮に憤った。


 部下たちが顔を見合わせていた。


「二百万の艦隊をどこから持ってきたのか?」

「そのような予備艦隊があるなど、聞いていないぞ」

「だが、実際に動いて、この戦場に集結している」


 トライドは右手で顔を押さえながら、その艦隊がどこからやって来たのか想像する。


 思い付くのは一つだけだ。


「ある。あるぞ。バンフィールドが率いる派閥に、圧力をかけるため艦隊を派遣する予定だった。そのための貴族や帝国軍の艦隊ならば、寄せ集めればそれだけの規模になるはずだ」


 元々はリアムの派閥に所属する貴族に向けた艦隊が、何故かクレオのもとに馳せ参じていた。


 それを聞いて、トライドの部下たちは信じられないという顔をする。


「命令を無視してまで、バンフィールド家に攻め込んできたのですか? あり得ません!?」


「実際にこうして集まっている! すぐに首都星に確認を取れ。これでは、バンフィールドに協力する地方領主共が黙っていないぞ」


 下手をすれば、リアムを助けるために艦隊を派遣してくるだろう。


 その程度なら負けるとは思えないが、余計な邪魔には変わりがない。


 それに、呼んでもいないのに押し寄せた義勇軍は、自分たちの補給物資に手を付けるお邪魔虫だ。


「皇太子殿下が、バンフィールド家の本星を速攻で落とせばいいが、そうでなければ我々の方が不利になるぞ」


 このままでは敵地で物資不足に陥る。


 どんなに精強な艦隊も、燃料がなければ動けない。


 ただの的になってしまう。


 部下の一人が場の空気を和ませるため、良い情報を口にする。


「ですが、バンフィールド家の本星を攻めるのは四百万の大艦隊ですよ。これを退けるのは用意ではありません。下手をすれば、バンフィールド家は降伏する可能性もありますね」


 自分たちなら降伏すると考えての発言だろう。


 しかし、トライドは不安を拭えずにいた。


(クラウスが相手でなければそう思えるが、問題は戦場から姿を消したリアムだ)


 リアムが戦場に姿を見せた報告は、トライドにも届いていた。


 総司令官が何をしているのか? と何度も思ったが、こうなってくると気味が悪い。


 精鋭を率いるリアムの艦隊が、どこで何をしているのか?


 トライドにはそれが不気味で、恐ろしかった。


「――バンフィールドの艦隊がどこで何をしているか、詳細は掴めたか?」


 部下たちに尋ねると、全員が顔を強張らせた。


「いえ、何の情報も得られておりません」


 それはつまり、リアムが何をしているのか不明ということだ。


 トライドは希望的観測を口にする。


「本星が攻められたと知り、大急ぎで戻ったか? そうであれば、皇太子殿下の艦隊も無傷では済むまいよ」


 リアムとクラウスを相手にするクレオが、トライドには可哀想になる。


 トライドは最初、クラウスの方を恐れていた。


 リアムなど幾ら強くても個の存在で、艦隊を率いてはクラウスに劣るだろう、と。


 だが、今の戦場で不気味さを放つリアムの艦隊に、トライドは認識を改める。


「――帝国最強の騎士を使いこなす度量はあるわけだ」


 リアムを侮っていたと猛省しつつ、今はマリーの軍をこの場に釘付けにすることに専念する。



 バンフィールド家本星。


 軍を指揮するクラウスは、部下たちの奮戦に勇気づけられていた。


「皆、よく耐えてくれる」


 巨大モニターに映し出される幾つもの戦場で、艦隊を指揮する司令官たちが帝国軍を次々に撃破していた。


 防衛設備や拠点を活かして、消耗を押さえつつ撃破している。


 クラウスは、そんな部下たちが戦えるように最善を尽くしていた。


「閣下、増援要請です」


「すぐに回せ」


「しかし、もう予備の艦隊は出払っています」


「私の指揮下の艦隊を派遣しろ」


 自分の守りを削っても部下たちに増援を派遣していた。


 だが、それも過ぎれば本星の守が薄くなる。


 これまで培ってきたフォローする経験から、裁量を導き出して采配する。


 オペレーターが叫ぶ。


 ただ、その叫び声には歓喜が含まれていた。


「機動騎士部隊、敵艦隊の旗艦を撃破! 旗艦を失った艦隊が、後退していきます!」


 それを聞いて、クラウスの部下たちが次々に命令を出す。


「追撃! 深追いだけはさせるなよ」


「機動騎士部隊の損耗率は?」


「どこの部隊だ? 大手柄だぞ」


 一万前後を率いる艦隊を無力化したとして、周囲の参謀たちが嬉々として機動騎士部隊の所属を確認する。


 すると、オペレーターが頬を引きつらせながら報告してくる。


「チェンシー大佐の機動騎士部隊です」


 誰が率いる部隊かを確認すると、先程まで喜んでいた参謀たちの表情が苦々しいものになった。


 問題児たちの集まりが、大手柄を上げてしまったのだから。


 参謀の一人がクラウスを見る。


「――閣下、補給と整備を受けさせる場面です。ただ、奴らにはもっと暴れてもらった方がいいかもしれません。本人たちもそれを望むでしょう」


 暴れることが大好きな騎士たちの集まりだ。


 ここで下がれと命令すれば、かえって暴れる可能性がある。


 しかし、クラウスは首を横に振る。


「補給と整備を受けさせろ。戦闘はまだ続く。まだ暴れる機会はあると言って、強引に下がらせろ」

「は、はっ!」


 クラウスの命令に、参謀たちが動き出す。


 そして、クラウス本人は。


(これを機にすり潰したいのかもしれないが、そんなことで大きなミスが発生するのもごめんだぞ。今は目の前の敵に集中して欲しいな)



 母艦へと帰還したチェンシーの機動騎士部隊。


 格納庫で機体の整備が始まると、機会のアームや整備兵たちが取りつく。


 コックピットからチェンシーが出ると、待っていたのは不満そうな部下たちだ。


「隊長さん、まだ暴れたりないぜ」


 自分たちはまだ戦えると言う部下たちに、チェンシーは微笑しながら代表格の騎士を蹴り飛ばした。


 無重力空間で身をひねり、綺麗に蹴りを入れる姿は美しかった。


 蹴られた本人は、吹き飛ばされて整備中の機動騎士にぶつかり跳ね飛ばされていた。


 チェンシーは周囲に視線を巡らせる。


「戦いはまだ続くのよ。クラウスの命令通り、黙って体を休ませておくのね。それに、いざとなれば、死ぬまで戦わせ上げる」


 微笑むチェンシーに、部下たちは納得して休憩を取るため格納庫近くの休憩室へと向かっていく。


 その際、蹴られたパイロットも回収されていた。


 部下たちがいなくなると、チェンシーは笑顔を捨てて不満顔になる。


「帝国の精鋭が送られてくると聞いたのに、相手をした連中に歯応えがないわね」



 クラウスの艦隊と向かい合うクレオは、先鋒を任せた艦隊を見て不満から目を細めていた。


「口ばかり達者で役に立たないな」


 クラウスを相手に、小手調べのつもりから義勇軍を先に投入した。


 噂のクラウスがどの程度の相手なのか調べるためだが、やはり略奪目的の艦隊は装備の質も兵の練度も低かった。


 クラウスの軍にいいように削られ、破壊されていく。


 それを見たクレオの騎士が、横から話しかけてくる。


「殿下、損耗率が馬鹿になりません。あの者たちは下げて、本隊を投入するべきです」


 クレオは不敵な笑みを浮かべる。


「本隊の損耗は避けたい。俺のために馳せ参じたのなら、活躍できる機会は与えてやらないと可哀想だろ?」


 可哀想と言いながら、クレオは下卑た微笑みを見せていた。


 クレオの考えを察した騎士が、これ以上の意見は無意味と悟って引き下がる。


 だが、最後に一つだけ付け加えた。


「かしこまりました。ですが、敵が勢いづいています。逆に、これ以上の損害を出せば、流石は帝国最強の騎士――と味方が萎縮してしまいます」


 帝国最強の騎士、クラウスを前に味方が次々に撃破されていく。


 それを見た味方の士気が下がるという懸念を付け加えた。


 クレオもそれは理解していたが、本隊の消耗をできるだけ抑えたい気持ちが勝る。


「奴らは捨て石だ。精々、クラウスを疲弊させてやればいい。いいところは、俺たちが全ていただこう」


 消耗していく味方を前に、クレオはまだ自分が被害を受けていないつもりでいた。


若木ちゃん( ゜∀゜)「クラウスさんの評価がうなぎ登りね!」


ブライアン(´;ω;`)「胃痛仲間のクラウス殿が、後で胃を痛める姿が想像できて辛いです」


ブライアン(`・ω・´)「それはそれとして、俺は星間国家の悪徳領主! 5巻は絶賛発売中でございます!? リアム様の活躍が大幅増量した書籍版も、是非ともお楽しみ下さい!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] 羊に率いられた狼は怖くないってほんどだねー
[一言] 「口ばかり達者で役に立たないな」 うーん見事なブーメラン
[一言] この皇太子、味方ごと敵を撃って、「いかんのか?」とか言いそう。
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