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バンフィールド領防衛戦その4

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「申し訳ありませんでした」


 怪我をした軍人が、俺の前に来ると膝をついて頭を垂れてくる。


 治療は受けさせたが、まだ傷跡が生々しい。


 大佐の地位にいる軍人は、俺に何が起きたのか報告してくる。


「海賊艦隊の襲撃に遭いました。反撃はしたのですが、敵の勢いは凄まじく為す術なくやられてしまいました」


 バンフィールド家の領内には、防衛戦の時に秘密裏に補給を行える基地がいくつも存在している。


 その護衛艦隊が、海賊艦隊に襲撃を受けた。


 備蓄していた物資を奪われ、防衛用の艦隊は壊滅させられていた。


 俺は立ち上がって大佐に近付く。


「お前たちは正規の訓練を受け、兵器に関してもうちでは平均的なレベルにあった。それは間違いないな?」


「は、はい」


 大佐が悔しそうに肯定した。


 聞きようによっては、しっかり訓練させて真っ当な装備を与えたのにお前たちは負けたのか? そう問われているのと同じだからだ。


 俺は大佐に声をかけてやる。


「それで負けたなら仕方がない。お前はゆっくり休め」


「は? し、しかし」


「敵の方が強かった。これが事実だ。俺の艦隊から護衛を出す。負傷者を連れて本星に戻り、クラウスの指揮下に入れ。まぁ、どうせ病院送りだろうけどな」


 敗北した艦隊をクラウスが無理に前線に出すとは思えない。


 送ったところで、後方に送るのが目に見えている。


 話を終えると、軍人たちが怪我をした大佐を連れ出す。


 その様子を見ていたユリーシアが、俺に不安そうな視線を向けてくる。


「厄介ですね。元海賊だけあって、秘密基地の存在を容易く見破ってきます」


「逃げ隠れしていた時の経験があるから、見つけやすいんだろさ。奴らを放置するのも面倒だな」


 これからどうするか考えるため、俺は目の前に戦場を簡略化した立体映像を投影する。


 映像を前に何をするべきか思案すると、視界の隅に何かが見えた気がした。


 動物のような――犬のような何かだ。


 きっと見間違いだろう。


「――ノイズか?」


 視線が向かった先は、俺の領内を離れた場所だった。


 帝国軍が侵攻してきたと思われるルートである。


 それに気が付いたユリーシアが、端末を操作した。


「そこは帝国軍が侵攻したと思われるルートですね。今は、帝国からひっきりなしに補給物資が送られているようです。補給基地となった惑星は、今頃は降ってわいた好景気に大喜びでしょうね」


 帝国軍の艦隊が利用する補給基地となれば、補助金が出て嫌でも開発が進められる。


 その惑星には帝国から代官が派遣されているようだが、寂しい惑星が今や開発が進み都会になりつつあった。


「敵の補給基地か」


 俺の呟きを聞いて、ユリーシアは頭を振る。


「狙えませんよ。そもそも長距離ワープは使えませんからね。短距離ワープを繰り返して到着しても、燃料の問題があります」


 補給基地を狙えても、片道分の燃料しかない。


 逃げることは不可能で、失敗すれば全滅だ。


「それに、大規模な艦隊を派遣しようとすれば気付かれます」


「敵に気付かれない規模は?」


「精々三万が限度でしょうね」


 俺からすれば三万もかなりの規模だ。


「十分に多いぞ」


「この規模の戦争では少ない方ですよ」


 確かに、双方合わせて八百万の艦艇が動き回っている戦場だ。


 三万など少ないのだろうが――納得できないな。


「俺の率いる艦隊も三万隻だな」


 ボソリと呟くと、ユリーシアが慌てて俺を止めるため説得してくる。


「その規模で補給基地を叩くのは無謀ですね。帝国軍も馬鹿ではありませんし、軍を置いていますよ」


 数十万の規模の艦隊を派遣して叩けたとしても、今度は領内が手薄になる。


 戦力の分散により、俺たちの本拠地が危なくなる。


 だが、三万なら問題ないよな?


「決めた。補給基地を先に叩こう。奴らを袋のネズミにしてやるよ」


「私の話を聞いていましたか? 大規模な艦隊を動かせば、敵も気付きますよ」


「今なら可能だ。それに、動かすのは俺の艦隊だけでいい」


「――へ?」


 ユリーシアが間抜けな顔をして驚いていたが、無視して近くにいた軍人に命令を出す。


「クラウスに伝えておけ。しばらく領地を離れるから、後は任せるとな」


「は、はい!」



 総大将であるクレオは、要塞級のブリッジで興奮を隠しきれなかった。


 装飾されたシートから立ち上がり、両手を広げて歓迎するのは、スクリーンに投影されている増援の司令官たちに向けてだった。


「よく来てくれた。君たちの到着を歓迎しよう」


『ありがたきお言葉です。我らも馳せ参じた甲斐がありました』


 空中に投影されている司令官たちの顔だが、貴族やパトロール艦隊の司令官と様々だ。


 貴族や軍人たちが、領地や持ち場を離れてクレオのもとに集結していた。


 その数なんと二百万隻だ。


 これにより、クレオの艦隊は四百万隻にまで膨れ上がっていた。


 今はティアの艦隊を攻めるハンプソンの艦隊が三百万隻を率いており、それを超える規模を手に入れたのが嬉しかった。


『それで、皇太子殿下の目標はどこでしょうか?』


「――俺の艦隊は本拠地と定めたこの場所で待機だ」


 一人の貴族が尋ねた質問に、クレオは不満顔で答える。


 それを見た貴族が、僅かに目を細めるとクレオに進言する。


『なんと! ハンプソン侯爵は皇太子殿下の力量を侮られていますな』


「何だと?」


『四百万の大軍勢を率いる皇太子殿下が、何もせず本拠地におられるのは間違っております。この規模であれば、リアムの本拠地に乗り込むのも可能ですぞ』


 貴族が何を言いたいのかクレオも察していた。


(こいつは俺をそそのかして、リアムの本星を狙いたいのか?)


 せっかくバンフィールド領に来た貴族は、略奪で私腹を肥やそうとしていた。


 クレオもその程度のことは見抜けるが、同時に自分の中の何かが語りかけてくる。


 まるで――誰かにそそのかされるように。


「そうだ、クレオ! 今のお前には私がついている。それに、これだけの規模の艦隊ならば、リアムの本星を叩くのも容易いぞ!」


 ――クレオの斜め後ろに立つ案内人が、全力でクレオに攻め込むように説得していた。


 案内人の姿は誰にも見えず、声すらクレオに届かない。


 しかし、案内人の声はクレオの心に響いていた。


(ハンプソンがいなかろうと、俺一人でリアムに勝つことは可能だ。この規模の艦隊ならば、力押しでも十分にやれる)


 クレオの心の声を聞き、案内人は両の口角を上げて上機嫌で笑い始める。


「やっぱりお前は最高だよ、クレオ。お前が皇帝になった暁には、私がお前を全力でサポートしてやろう。帝国は、さぞ面白い国になるぞ」


 クレオが統治する帝国を想像する案内人は、思ったことを口にする。


「クレオ――お前はリアムよりも小物で悪党だ。お前こそが、本物の小悪党だよ」


 大喜びの案内人だが、その数十メートル後ろには小さな光があった。


 目をこらせば犬の姿に見えるその光は、案内人を睨み付けうなっているように見える。


 すると、案内人が振り返る。


「そこで見ているのはだ~れ~だぁ?」


 笑いながらどす黒いオーラを発し、自分を睨んでいた小さな光を見た。


 小さな光はすぐに姿を消し去るが、案内人は微笑する。


「霊体か? 何とも矮小な存在だな。今の私をどうこうする力はないだろうが、これまで私をつけ回した報いを受けてもらおうか」


 案内人が右手を伸ばすと、逃げたはずの小さな光が黒い煙に捕らえられる。


 引き寄せられた小さな光は、黒い煙が作りだした手の中でもがいていた。


 案内人は顔を柄づけると、口を大きく広げてその光を――飲み込む。


「忌々しい存在め!」


 ギザギザの歯と、顔からは想像できない程大きく開いた口。


 それを見た小さな光はもがくが、何故か抵抗は弱まった。


「諦めたか? それはでいただきま~す!!」


 小さな光は飲み込まれ、咀嚼されて飲み込まれた。


 案内人は唇を長い舌で舐めて綺麗にする。


「――リアムの前世と関わる霊だな。それにしても、こんな動物霊に今までいいようにされていたと思うと、本当に腹立たしい」


 背筋を伸ばし、佇まいを正す。


 案内人は微笑しながら、これでリアムを助ける存在はいなくなったと確信した。


「だが、これでリアムを後ろから助ける存在は消えた。リアム、ここからが本当の地獄だぞ」


 リアムの幸運もここまでと思い、案内人は高笑いする。


 そして、今まで思案していたクレオが告げる。


「――本隊はこれよりバンフィールド家の本星に向けて進軍する。この俺が、リアムに止めを刺す!」


 それを聞いたブリッジクルーや貴族たちが、歓声を上げた。


 その様子を嬉しそうに何度も頷きながら見ていた案内人は、一滴の涙をこぼす。


「素晴らしい決断だ。今のお前に、リアムなど恐れる価値もない。ただ力任せに攻めればいい。それだけ、クレオ――お前の勝利だよ」


 案内人の強い加護を得たクレオが、バンフィールド家の本星に向けて進軍を開始する。



 征伐軍の本隊動く。


 その知らせを聞いて驚いていたのは、何もバンフィールド家だけではない。


 一番驚いていたのは、クレオを補佐するハンプソンだった。


「何だと!?」


 シートから立ち上がり、報告を持ってきた騎士に詰め寄っていた。


 詰め寄られた騎士が、しどろもどろに詳細を報告する。


「で、ですから、義勇軍として参加した貴族の私設艦隊や軍のパトロール艦隊を加えてバンフィールド家の本星に向けて進軍を開始しました」


 そんな騎士の報告を聞いて、ハンプソンは重要な情報が抜けていると指摘する。


「義勇軍の規模は!」


「はっ! 二百万とのことです。これもクレオ殿下の威光のたまものかと――」


 聞かれてもいないのにクレオをおだて始める騎士を前に、ハンプソンは顔を背けて他のことを考えていた。


(二百万!? どうしてそんな規模の艦隊が集まる!? そもそも、それだけの規模の義勇軍が、補給線を確保しているとは思えん)


 義勇軍と名乗ってはいるが、言ってしまえば寄せ集めの艦隊だ。


 バンフィールド家の財を狙って乗り込んできた貴族や、その関係者が率いるパトロール艦隊や軍のはみ出し者たち。


 略奪狙いの泥棒たちなど、ハンプソンは戦力として期待していなかった。


(バンフィールド憎しでまとまったか? だが、それだけの数を維持する物資など、計画にないぞ)


 一番の問題は補給だった。


 後方の惑星に補給基地を用意して、そこに帝国中から物資をかき集めている。


 それでも新たに増えた二百万の艦隊を維持するには足りなかった。


 予定にない増援に、ハンプソンは怒りを覚える。


(皇太子殿下も功に焦ったか? 寄せ集めの二百万隻で勝てるほど、本星を守るクラウスは甘くないぞ)


 ハンプソンは、報告を持ってきた騎士に怒鳴りつける。


「すぐに皇太子殿下を下がらせろ! 義勇軍を名乗る馬鹿共を戦場から追い出せ!」


「は? しかし」


 だが、要領を得ない伝令の騎士は、ハンプソンの命令に反応が悪かった。


 そのため、ハンプソンが問題点をわざわざ教えてやる。


「自分たちで補給もできない二百万隻の寄せ集めが、戦場で役に立つものかよ! すぐに本隊の物資が枯渇するぞ。バンフィールド領の中で、動けなくなった本隊などただの餌だ。皇太子殿下をすぐに退かせろ」


「は、はい!」


 ハンプソンの説明に騎士もようやく興奮から冷めたのか、大急ぎで本隊へと戻っていく。


 その姿を見たハンプソンは、クレオの周囲にいる騎士の質に疑問を持った。


 同時に、頭を抱える。


(途中まではこちらの予定通り進んでいたものが、どうしてここに来て崩れる? クレオ殿下は悪い者にでも魅入られたか?)


 このままいけば押し潰せたはずなのに、クレオの決断によって自軍が大きく傾いていくような気がしていた。


 ハンプソンは周囲に命令を出す。


「悠長にしていられなくなった。我が軍は、すぐに目の前の敵を打ち破り本隊と合流する」


 ティアが守る惑星を急いで攻め落とし、本隊への合流を急ぐ。


ブライアン(´;ω;`)「ワンワァァァン!?」


若木ちゃんΣ(゜Д゜)「ワンワァァァン!?」

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― 新着の感想 ―
>(途中まではこちらの予定通り進んでいたものが、どうしてここに来て崩れる? クレオ殿下は悪い者にでも魅入られたか?) そのとおり(^^) しかし、犬の霊はどうなったのか、気になるところです。
[一言] その犬感謝の気持ち塊じゃ…(´・ω・`)
[一言] わんわんは、帽子を乗っ取る事に決めたのか。 それにしても、やっぱり帽子が応援すると自然に不幸になるんじゃない?帽子が不幸が好きだからさぁw
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