バンフィールド領防衛戦その3
申し訳ありません。
予約投稿を忘れておりました(;´Д`)
「逃げただと?」
総旗艦アルゴスのブリッジで極上のシートに座る俺は、目の前の光景が信じられなかった。
俺が率いた艦隊の数は三万隻だ。
対して、敵は六万隻を超えていた。
一戦も交えず一目散に逃げ出す姿に、呆気にとられてしまった。
これが有象無象なら、俺の武名に恐れを成して逃げ出したとしても理解できる。
だが、相手は帝国軍の中でも精鋭だ。
敵の行動を不可解に思っていると、副官として連れて来たユリーシアが苦々しい顔をしていた。視線の先には、空中に投影した略奪後の惑星があった。
荒らされて燃え上がる惑星から視線を逸らすユリーシアは、敵艦隊の詳細を俺に伝えてくる。
「リアム様、先程の敵艦隊は特殊任務艦隊です」
「その名前は何だ? もっとまともな名前はないのか?」
「正式名で呼びたくない艦隊ですからね。元宇宙海賊たちが率いる艦隊です。最精鋭でありながら、略奪行為を敵味方関係なく行う連中ですよ」
「帝国の後ろ暗い仕事を引き受ける奴らか」
ククリたちのような暗部を艦隊規模まで膨れ上がらせたのだろう。
やっぱり星間国家はスケールが違うな。
俺は立ち上がって窓の方を見る。
そこから略奪されて荒らされた俺の星が見えるのだが、腹立たしいことこの上ない。
それに、遊撃を任せた艦隊までもが敗れていた。
味方が漂い、星が燃えている。
視線を逸らさずに、どうして敵が逃げたのかを問う。
「奴らの実力は?」
ユリーシアの近くにいた軍人が、頭を振る。
「新型を与えられている精鋭です。遊撃艦隊を破っているところを見れば、実力は侮れないでしょう」
「そんな奴らが、俺たちを見て逃げた理由は?」
軍人がやや考え込むが、普通の答えしか出て来ない。
「我々との戦力差が四倍にならない限り、戦おうとしないのではありませんか?」
「徹底して逃げるつもりか」
腕を組んで考える俺は、敵がそのような考えを持っているとは思えなかった。
「――味方の救助を開始しろ。それから、今度は十万隻以上の艦隊を狙う」
俺の判断にユリーシアが待ったをかけてくる。
「駄目ですよ! クラウス閣下にも何度も釘を刺されましたよね? 絶対に無理はしないって!!」
「俺にとっては無理じゃないからセーフだ。それに、気になることができた」
「気になる?」
ユリーシアが怪訝そうに俺を見てくるが、俺は無視して窓の外を眺める。
「――俺の物に手を出したことを後悔させてやる」
◇
逃げ出したコズモの艦隊は、その後に総大将のリアムが戦場に出てきたことを味方へと報告していた。
通信する相手はハンプソンだ。
『総旗艦のアルゴスが前線に出てきただと? リアム本人が乗艦している保証はないが、乗っていない保証もないか』
覇王国相手に突撃を仕掛けるリアムは、帝国では珍しい部類の貴族である。
領内を荒らし回るコズモの艦隊に苛立ち、自ら出撃してきた可能性もあった。
コズモは悪びれもせずに報告する。
「おかげで略奪は中途半端に終わったぜ。だが、あいつら領民を逃がすのに必死で、惑星に随分とお宝を残していたな」
手に入れた財宝をこれ見よがしに手に持つコズモに、ハンプソンは眉根を寄せた。
『必要物資の徴発はどうなっている?』
「――そちらは思うほど手に入っていないな」
艦隊を運用するために必要な物資に関しては、後で確認すると随分と少なかった。
それを聞いたハンプソンが口角を上げる。
『戦争に必要な物資だけは、領民と一緒に引き上げさせたか』
自分たちにとって迷惑な行動だが、ハンプソンはそれを考慮していたようだ。
コズモは眉尻を上げる。
「随分と楽しそうじゃないか。バンフィールドが手強いのが楽しいかい?」
ハンプソンの武人的な気質に腹を立てる。
しかし、当の本人は違う考えを持っていた。
『基本に忠実で手堅くて手強い相手だぞ。それだけ本星に蓄えている証拠でもある。バンフィールドを滅ぼしたら、巨万の富が手に入るのは確実だ』
徹底しているリアムの姿勢に、ハンプソンはバンフィールド家の本星には莫大な財が存在すると予想していた。
コズモはそれを聞いて、途端に破顔する。
「侯爵様、あんたも悪い人間だな」
悪い奴だと言われたハンプソンは、それを嫌がるそぶりを見せない。
むしろ、当然ととらえているようだった。
『貴族が善人に務まるものかよ』
◇
総旗艦アルゴスが率いる精鋭三万の艦隊が、征伐軍の艦隊を発見した。
艦隊規模は十万を超えており、拠点の建造中だった。
拠点から周囲へと散らばり、俺の領地を荒らし回ろうとしていたのだろう。
だが――。
「敵艦隊、短距離ワープにて離脱を開始しました!?」
――こちらの数倍という規模の敵艦隊が、アルゴスを発見すると即座に撤退した。
俺に報告してくるユリーシアも困惑している。
一斉に逃げ出す敵艦隊を前に、シートに座る俺は腕を組む。
「これで三回目だな」
最初に海賊艦隊から逃げられ、その後に一度だけ他の艦隊とも遭遇した。
しかし、反応は同じである。
俺がいると知られると、すぐに撤退した。
あまりに鮮やかに撤退していくため、予め俺との戦闘を避けているとしか思えない。
「これで決定だな。連中は、俺とは戦うつもりがないらしい」
徹底的に俺との戦闘を避けていると結論づけると、ユリーシアが納得できない様子だった。
「総大将が前線に出てきているのに、狙わないのは間違っていますよ。――まぁ、総大将が前線に出るのも間違っていますけどね」
後半は俺への小言だったので聞き流した。
俺は天井を見上げて思案する。
「敵艦隊が俺を見て逃げ出すのは気分がいいが、こうも逃げ回られると潰し甲斐がない。いっそ、本隊を見つけて突撃するか?」
クレオの本隊にどれだけの宇宙戦艦が存在するか知らないが、最低でも数十万の規模だろう。
そんな敵艦隊が、俺を見て逃げ出したら笑ってやりたい。
ユリーシアが周囲にいた軍人たちと話をし、それから俺に判断を求めてくる。
「各地で戦う味方の救援が、今の我々にはベストと思われる行動です。敵が引いてくれるなら、それを利用するべきです」
どうして総大将の俺がフォローして回らないといけないのか?
腹立たしく思っていると、オペレーターから報告してくる。
「リアム様、マリー閣下の艦隊が戦闘に入りました。敵艦隊の数は、およそ三倍の百万隻になります」
ティアに続いて、マリーが守る惑星にも艦隊が派遣されたようだ。
その数からして、クレオが動かせる艦隊は残り二百万か。
「いっそマリーに救援に向かって、百万の敵を追い返すか? 記録に残して、帝国軍を笑いものにしてやるよ」
寡兵の敵に追い回される帝国軍というタイトルで、無料動画サイトにアップロードしてやりたい。
だが、オペ―レータの報告は終わらなかった。
「それが、敵艦隊は攻撃を仕掛けていません。現在は睨み合っている状態です」
◇
マリーが守る惑星。
宇宙戦艦のブリッジから指揮を執るマリーは、攻めてこない敵艦隊に苛立っていた。
「このあたくしを閉じ込めたつもりかしら?」
マリーのそばに立つ副官の騎士が、やられたという顔をしながら頭をかいている。
「これでは増援も出せませんし、我々が動くのも無理ですね」
本来であれば、積極的に防衛する予定だった。
マリー自ら数万隻を率いて、戦場で孤立している敵艦隊を各個撃破していくつもりだった。
敵の主力がティアの守る惑星に向かっている今ならば、自由に動けると考えていた。
それを封じられてしまっている。
しかも、攻撃してこず眺めているだけだ。
マリーが出撃して敵に挑んでも、数の暴力で撃破されてしまう。
「百万隻を足止めできたと思えば悪くないわ。それにしても、あいつらどこからこの規模の艦隊を維持する物資を調達しているのよ?」
バンフィールド家は、領民を避難させる際に軍事物資はできるだけ残さないようにしていた。
それなのに、敵艦隊は物資に困っている様子がない。
副官が肩をすくめる。
「そこは帝国の手厚いバックアップのおかげでしょう」
単純に帝国の国力が圧倒的に勝っている。
六百万の大艦隊を維持するだけの物資を運んできているのだろう。
「――国境の守りも手を抜かず、国内でこれだけの艦隊を動かせる。本当に嫌になるくらい手強いわね」
帝国は嫌いだが、その実力は高く評価するマリーだった。
◇
マリーの守る惑星を攻めるのは、トライドだった。
子爵家が率いる艦隊を中心に、参加した貴族たちの艦隊が主力になっている。
トライドの乗る超弩級戦艦のブリッジには、集まった貴族たちの姿もあった。
「トライド子爵、少しくらい攻めてはどうかな?」
「このような戦いぶりでは、消極的すぎるぞ」
「クレオ殿下も納得されないと思うが?」
消極的なトライドの戦い方に、周囲は不安を抱いていた。
あまりに積極性がないため、皇族の怒りを買うのではないか、と。
だが、トライドは余裕を崩さず笑顔で答える。
「これでいいのですよ。主力艦隊が他の惑星を攻めていますからね。それが終われば、こちらにやってきます。我々は、それまでここにいる敵を封じ込めていればいいのですよ」
今回の征伐軍は、圧倒的勝利が求められている。
無理をして失敗する方が、クレオにとっては問題だ。
それに、トライドがマリーを攻めない理由はもう一つ。
(この者たちの艦隊は質も練度も申し分ない。だが、私設艦隊同士では連携が難しい。百万隻もの寄せ集めを指揮するのは、容易ではないな)
数は多いが、まとまりに問題があった。
そのため、トライドはマリーを封じる作戦に出ていた。
「――マリー・セラ・マリアン。これまでバンフィールド家で破格の活躍をしてきた騎士ですからね。勝利しても、こちらが痛手を負う可能性は捨てきれません。今はこうして、封じておくのが得策ですよ」
そう言って貴族たちを落ち着かせた。
トライドは貴族たちに忠告する。
「これからは我慢比べです。ただ、我々は有利でありますが補給に問題を抱えています。皆様には、これより節制を心がけて下さい」
不安があるとすれば補給だけだが、それも帝国のバックアップがある。
無理さえしなければ、何年でも睨み合いを続けられるとトライドは考えていた。
「マリーという騎士は猪武者と聞くが、どこまで我慢できるかな?」
我慢できずに出てきてもいい。
耐え続けるなら、ハンプソンの艦隊がティアを破って合流してくるのを待ってもいい。
トライドは勝利を確信していた。
◇
バンフィールド領を目指す帝国軍の補給艦隊。
その護衛を担っている戦艦の艦首には、案内人の姿があった。
帝国首都星で負の感情を集め終わり、今からクレオを支援するため向かっているところだ。
ワープしてもいけるのだが、少しでもクレオが勝利する可能性を上げるために負の感情――力を温存していた。
「待っていろ、クレオ――今、私がお前に勝利をもたらしてやるからな! フハハハ!! リアム、もうお前に怯える日々もこれまでだ! 今度こそ! 今度こそ!! お前に勝ってやるからなぁぁぁ!!」
両手を広げて叫ぶ案内人は、クレオの勝利を確信していた。
何故なら――。
「リアム――お前は敵を作りすぎたな」
――案内人が振り返ると、そこには帝国軍以外にも宇宙海賊の大艦隊が存在した。
貴族たちが率いるパトロール艦隊の姿もある。
他にも貴族や軍――リアムに恨みを持つ者たちが揃っていた。
「六百万で終わりだと思うなよ。お前の敵はまだいるぞ」
案内人がリアムの敵を連れて、クレオのもとに向かう。
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