バンフィールド領防衛戦その2
今日からアニメ【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の4話が放送されますね。
Web版でも盛り上がった箇所なので、楽しみにしております。
そして明日は【俺は星間国家の悪徳領主! 5巻】と【コミカライズ版2巻】の発売日~♪
今回もWeb版から大幅に加筆しておりますので、書籍版も応援よろしくお願いします!
要塞級と呼ばれる宇宙戦艦がある。
移動する要塞と呼ばれる超大型の宇宙戦艦だ。
そのブリッジにある総司令官の席に座るのは、クレオだった。
周囲には護衛の騎士たちに加えて、執事やメイドたちが控えていた。
騎士や軍人たちも控えているが、そんなクレオの周辺を離れると帝国軍人たちが忙しそうに動き回っている。
「短距離ワープ成功しました!」
「周囲に敵影無し!」
「すぐに陣形を取れ!」
要塞級の司令官や艦長が次々に命令を出すのを眺めるクレオは、メイドが差し出した飲み物を手にした。
「ここで観戦するだけか?」
近くにいた軍人――クレオの軍事顧問である大将が、その質問に答える。
随分と戦歴を重ねた初老の男性で、制服には勲章が沢山付けられていた。
他の軍人たちも同じだ。
「皇太子殿下、総司令官には総司令官の勤めがあります。先行したハンプソン侯爵の艦隊が基地を建造されているので、艦隊が揃い次第合流いたしましょう」
当たり前のことを言ってくる大将に、クレオは嫌気が差していた。
「短距離ワープを繰り返すだけで、どれだけ時間をかけているのか」
あまりにも多すぎるため、短距離ワープをするのも時間がかかっている。
後続の艦艇が短距離ワープしてくるのを眺めていると、ハンプソン侯爵から通信が入った。
クレオの目の前に映像が投影される。
『到着が数日遅れましたね』
いきなりの嫌みに、クレオがムッとする。
到着が遅れた原因はクレオになかったからだ。
「部下たちに言え」
クレオの返答を聞いて、ハンプソンは僅かに顔をしかめた。だが、すぐに呆れた顔になると、仕方がないという面持ちで言う。
『艦隊のトップは皇太子殿下ですからね。下の者たちの気を引き締めるのも仕事の内ですよ』
責められたクレオは鼻を鳴らす。
「素人に口出しされたいのか?」
『理解されているなら、士気を上げるように努めて欲しいですね。――バンフィールド家の陣容が判明しました』
「何だと!?」
クレオがシートから立ち上がると、周囲にバンフィールド家の艦隊の配置図が表示される。
開拓中の惑星を捨てて、バンフィールド家が重要と判断する惑星や基地のみを守る布陣だった。
それを見て、クレオは笑ってしまう。
「予想通り過ぎて面白みに欠けるな。さすがのリアムも、奇抜な作戦は立てられなかったと見える」
予めリアムの行動を予想していたが、結果を見れば一番つまらない普通の布陣だった。
肩すかしを食らったようなクレオに対して、ハンプソンの顔つきは険しいままだ。
『侮られては困りますね。リアムはともかく、奴には腹心であるクラウスがいます。奴が何も考えずにこの守りを選んだとは思えません』
「クラウス――帝国最強の騎士か」
リアムが個人の武勇としては最強ならば、クラウスは軍を率いて最強の騎士だ。
クラウスの二つ名を聞いただけで、ブリッジクルーたちに緊張が走る。
リアムも恐ろしいが、自分たちが遭遇する確率は高くない。
だが、クラウスは別だ。
これから戦うのは、リアムをそばで支える帝国最強とまで呼ばれた騎士である。
ハンプソンも警戒していた。
『奴は必要ならば、主君ですら出撃させて囮にする非常な男です。そんな奴を重用するバンフィールドも変人ですが、この二人の相性は我々にとって最悪です。皇太子殿下も、予定通りの行動を心がけ下さい』
「――この俺に、リアムが来たら逃げろと言うのか?」
『勝てばいいのですよ。勝利とは、相手の嫌がることに徹した者に訪れるものです』
無様な勝利を取りに行くハンプソンにクレオは苛立つが、これまでリアムを侮り負けてきた者たちを思い出すと安心してしまう。
(この男ならば大丈夫だろうな)
腹の立つ男ではあるが、こんな男ならばリアムに勝てるだろう、と。
「この場は素直に従おう」
『感謝いたします』
◇
(寡兵で大軍を倒せれば誰も苦労はしないんだよ!)
内心で頭を抱えている男がいた。
それはバンフィールド家の筆頭騎士にして、「一」というナンバーを与えられたリアムが最も信頼する騎士――クラウスだ。
本星付近には幾つもの要塞級が配置され、バンフィールド家の本拠地を守っている。
数十万隻という大艦隊が用意されており、指揮するのはクラウスだ。
超弩級戦艦である数千メートル級の旗艦の艦橋。
クラウスは腕を組みながら、無表情で巨大なモニター画面を眺めていた。
周囲には部下である騎士や軍人たちの姿がある。
「クラウス閣下、各艦隊が配置につきました」
「敵艦隊も続々と短距離ワープで領内に侵入してきましたね」
「一部艦隊から、迎撃するべきとの声が上がっています」
大艦隊を前に、勇ましく突撃仕様とする騎士や軍人たちが多かった。
それに対してクラウスの返答は決まっている。
「駄目だ。大人しく守りを固めるように伝えろ」
拒否すると、軍人の一人がやや不満を持ったようだ。
「しかし、この数の敵とぶつかれば我々が不利です。何かしら奇策に出るべきです。少数精鋭の艦隊で、敵を翻弄しましょう」
何もしなければ数の暴力に押し潰されてしまう。
それはクラウスも理解していたが、下手なことをすれば少数精鋭の艦隊が囲まれて叩かれるだけだ。一方的に数を減らされてしまうのは、バンフィールド家になる。
「敵を侮るな。その程度の事は考慮済みだろう」
(そもそも、敵は新型で揃えてきている帝国の正規軍や有力貴族たちだぞ。これまで戦ってきた連中とは、質も数も大違いだ)
単純に強い敵というのは厄介極まりない。
凡人を自覚しているクラウスは、下手なことをせず地の利を活かして敵を叩くつもりだった。
モニターを見ていると、オペレーターが叫んだ。
「閣下! クリスティアナ艦隊と敵艦隊が接触しました!」
周囲がざわつく中、クラウスは内心で覚悟を決める。
(こうなれば私に出来る事は何でもするしかない。それに、クリスティアナ殿ならば倍の敵でも耐えられる)
問題行動ばかり目立つクリスティアナだが、その実力はクラウスも信頼していた。
ただ、敵の行動にオペレーターが目をむく。
「敵艦隊の規模――およそ三百万!?」
その数を聞いて、クラウスも一瞬だけ目を見開いた。
(いきなり半数を投入したのか!?)
◇
バンフィールド家が所有する居住可能惑星。
その周囲には小惑星を要塞にした基地が幾つも配置されていた。
リアムが開発を進めて発展させた惑星であり、今のバンフィールド家にとっては失うわけにはいかない惑星だ。
そこを守るティアは、押し寄せる敵艦隊に腹立たしさを覚えていた。
同時に、思い切りの良さに感心する。
「各個撃破――確かに有効よ」
六百万隻という大艦隊を率いてきた征伐軍だから、数の多さに慢心しているとティアは考えていた。
その慢心により、バンフィールド家の領内に征伐軍を分散させるだろう、と。
しかし、敵は約半数をティアが守る惑星に差し向けた。
ティアの副官が僅かに狼狽えている。
「ティア様、ご命令を!」
副官の言葉にしばらく沈黙したティアだが、すぐに右手を前に出して命令を出す。
「防衛設備を利用して徹底的に敵を削りなさい。たかが十倍の差よ」
ティアが率いるのは三十万隻。
加えて以前から防衛拠点にと考えられていたため、そのための準備を進めてきた。
二倍や三倍の差ならば、容易く退けてやる余裕もあった。
しかし、十倍の三百万という艦艇に焦ってしまう。
副官が声を張る。
「敵艦隊より攻撃! ――来ます!!」
次々に発射される光学兵器が実弾兵器の雨。
配置した艦隊が小惑星などを盾にして敵艦隊の攻撃に耐えつつ、配置した迎撃設備が反撃する。
こちらの被害は防衛設備のみで、敵艦隊では直撃を受けた艦艇が爆散していた。
しかし、多少撃破できても敵の勢いは変わらない。
ティアはすぐに救援を請う。
「――クラウスに予備部隊を回してもらいなさい」
ティアの命令に副官が驚く。
「よろしいのですか? 戦闘を開始したばかりで救援を求めれば、ティア様の評価が下がってしまいます」
評価を気にする副官の発言に、本人は怒鳴って答える。
「ここを耐えれば勝利に近付く! ――確かに各個撃破は理想よ。でもね、敵は補給に問題を抱えているわ」
ここはバンフィールド家の領地。
バンフィールド家の艦隊は、補給を征伐軍より簡単に受けられる。
対して、いきなり半数を投入してきた征伐軍は、時間が経てば立つほど苦しくなってくる。
自分たちも苦しいが、敵はもっと苦しいのをティアは理解していた。
だからこそ、この場を乗り切れば形勢がバンフィールド家に傾くと判断していた。
この戦場の価値は大きい、と。
「分散されて、各地で略奪される方が厄介だったわ。ここで半数を使い物にできなくすれば、もう我々の勝利は――」
確実! そう言い切ろうとしたティアに、嫌な報告がやって来る。
オペレーターが違う戦場で起きたことを告げてくる。
「領内の惑星に敵艦隊が降下しています!」
ティアはオペレーターの方に顔を向け、詳細を求める。
「別艦隊に略奪させている? 遊撃艦隊は何をしているの!」
すると、オペレーターが領内を荒らし回る艦隊の所属に顔を青ざめさせた。
「敵艦隊は――帝国軍の特殊任務艦隊です。遊撃艦隊は全滅とのことです」
それを聞いたティアは激高し、髪を振り乱した。
「海賊共がぁぁぁ!!」
◇
ブリッジで腕を組むコズモの姿があった。
コズモが乗艦しているのは、ヒドラと名付けられた要塞級の戦艦だ。
装飾されてギラギラしたブリッジで、コズモは改造した軍服に身を包む美女たちを侍らせていた。スカートは短く、胸元が開いた軍服を着る美女たちが、コズモにしなだれかかっている。
巨大なモニターに映し出される映像を見ながら、コズモは口角を上げた。
「噂に聞くバンフィールド家も大したことがない。遊撃を任されている精鋭艦隊が、この程度なんだからな」
破壊されたバンフィールド家の艦艇や、機動騎士たちが宇宙に漂っている。
美人秘書がコズモに現状を伝えてくる。
「閣下、降下した部隊が略奪を開始しました」
その報告にコズモは、わざとらしい小さなため息を吐く。
「こらこら、徴発と言いなさい。ここは帝国領だぞ」
コズモ率いる海賊艦隊の多くは、手に入れた惑星に降下していた。
そこで略奪を行っている。
「失礼しました、閣下。徴発は順調です。予想していた通り、バンフィールド家はお宝の山ですね。ただ――」
美人秘書が気になることを報告してくる。
「――領民たちを急いで疎開させたようです」
それを聞いたコズモは目を細めて、理解できないという顔をした。
「お宝は残っていたのに、領民を避難させただと? ――バンフィールドってのは、本当に馬鹿なのか?」
人の命よりも財宝が大事なコズモにとって、リアムは理解できない相手だった。
美人秘書が言う。
「徴発が終わった艦隊が戻ってきましたね。閣下、これからどうしますか?」
「もちろん、このまま次の惑星を目指して――」
他の惑星に攻め込んでやるつもりのコズモだったが、オペレーターが叫ぶ。
「大将! バンフィールドの精鋭艦隊です。旗艦は――アルゴスです!!」
コズモは侍らせていた美女たちを押し飛ばし、シートから立ち上がるとすぐに命令を出す。
「バンフィールド本人か!?」
「は、はい!! その可能性はあるかと」
「よし! ――退却だ!!」
リアム率いる精鋭艦隊がやって来ると、コズモが率いる海賊艦隊は一目散に逃げ出した。
若木ちゃん(#゜Д゜)「この○○共が! かかってこいよ、○○○野郎! っすぞごらぁ!!」
ブライアン(´;ω;`)「宣伝する植物の口が悪くて辛いです。それはそうと――」
ブライアン(`・ω・´)「【俺は星間国家の悪徳領主! 5巻】の発売日でございます。ついにリアム様の活躍も書籍にて五巻目に到達いたしました。これも皆様の応援のおかげでございます」
若木ちゃん( ゜∀゜)「【モブせか】のアニメも今日から4話が配信を開始するから、楽しみにしていてね! ついにアロガンツも登場するわよ」
ブライアン(´・ω・`)「このブライアンも配信開始を待ちわびて、正座で待機しております」
若木ちゃん( ゜∀゜)「私は植物だから正座できないけど、楽しみに待っているわ」