バンフィールド領防衛戦その1
もうすぐ【俺は星間国家の悪徳領主!5巻】が発売となります。
既にお店に並んでいる地域もあるとは思いますが、まだ手に入れていない読者さんのためにもネタバレは避けて頂けると助かります。
「帝国はバンフィールド家の忠義に応えないばかりか、征伐軍を差し向けてきた! これが正義と言えるだろうか? 断じて否である!」
バンフィールド家の本星には、野外で式典を行う際の広場がある。
十二分な広さを持っているその場所で演説をするのは、俺――リアム・セラ・バンフィールドだ。
青空の下で、用意された舞台から身振り手振りを加えて領民たちに語りかけている。
いかにこの戦いが正しいのか――敵が間違っているのか。
人は自分たちが正義であると思った瞬間に、もっとも残酷になれる生き物だ。
だからこそ大義名分が必要になる。
「覇王国との戦争を思い出せ! 我らは死力を尽くし、報酬すら受け取らずに帝国への献身を示した。だが、帝国が何をしてくれた?」
俺の演説を聴いている領民たちに告げる。
「奴らは何もしなかった。俺たちの献身に応えず、むしろ謀反の疑いをかけて裏切り者扱いだ。これが正義か? どちらが悪か!!」
問えば、領民たちが答えてくれる。
「帝国だ!!」
領民たちの叫び声を聞いてから、俺は手を前に出す。
すると、領民たちの声が小さくなっていく。
落ち着いたところで続けてやる。
「皇太子の地位にまで押し上げてやったクレオは、俺たちを裏切った。恩を仇で返すとはこのことだ。だが、俺は耐えた。これも仕方がないと耐え、そして覇王国への出兵も受け入れた。報酬も受け取らず、耐えに耐えてきた」
俺が苦しい胸の内を語るような演技をしていると、領民たちから心配する声が聞こえてくる。
領主様は悪くない。
リアム様は悪くない。
バンフィールド家は悪くない――と。
俺は笑いを堪えるのに必死だった。
何も悪くない? それは嘘である。
俺は売られた喧嘩を買うために、謀反の準備を進めていた。
帝国も悪だが、俺も悪だ。
領民たちの怒りが帝国に向いているのを確認した俺は、顔を上げて宣言する。
「帝国は六百万という大艦隊を差し向けてきた。だが、恐れることはない! ここはバンフィールド家の領地――我らの庭だ。奴らの自由にはさせん! 帝国軍を打ち破り、勝利することをここに誓おう!」
俺の言葉に領民たちは拍手喝采だ!
――だが、世の中はそんなに甘い物ではない。
ここまで反対意見を述べる者がいない理由は、聴衆である領民たちの中にサクラを忍ばせているからだ。
適切なタイミングで声を上げるように指示をしていた。
この程度のことは、ククリたち暗部には児戯に等しい。
マントを翻して壇上を後にすると、官僚が代わりに立って詳細な報告を行う。
これから何が起きるのか、そして領民たちに何をするべきかを伝えている。
舞台裏へと向かうと、そこにはマリーが待っていた。
ククリの姿もある。
俺はマントを外してマリーに手渡しながら歩くと、二人もついてくる。
いつものように、マリーが俺を絶賛する。
「素晴らしい演説でしたわ」
「この程度、誰がやっても同じだ。むしろ、ここまで簡単に領民たちを操れると、逆に怖くなってくるな」
簡単に煽られて馬鹿な奴ら、そう思っているとククリが気まずそうにしていた。
「リアム様、報告がございます」
「何だ?」
上機嫌でククリの話を聞いてやろうとすると、本人はやや困っていた。
「忍ばせていたサクラからの報告でございます。声を上げる必要が全くなかったそうです」
「――ん?」
立ち止まってククリを見ると、更に詳しい情報を伝えてくる。
「操るまでもなかった、と。領民たちの士気は元から高いようです」
「何で?」
理解できずに立ち止まると、マリーが右手を頬に当てて惚けている。
「流石はリアム様が統治する惑星ですわ。これも日頃の行い――リアム様が名君であられる証拠でございます」
嬉しそうなマリーを見ていると、呆れてしまう。
――本当に有能ならば、そもそもこんな状況に陥っていない。
これは全て、俺が招いた結果である。
帝国が気に入らないから、俺が喧嘩を売ってやった。
クレオの裏切りなどどうでもいい。
敵が一人増えたに過ぎない。
「部下も領民も馬鹿ばかりか。――はぁ、ククリ、今後のことは予定通りに進めろ」
「はっ」
返事をしたククリは、そのまま地面に沈み込むように消えていく。
マリーは俺の後ろに付き従うと、自分の艦隊について報告してくる。
「リアム様、あたくしも明日には本星を離れます。重要拠点の一つを任されたからには、必ず守り抜いてみせます」
色々と問題のあるマリーだが、大規模な艦隊を率いて戦える有能な人材だ。
そのため、重要拠点の一つを任せている。
「お前の艦隊は間に合ったのか?」
「――はい」
微笑しながら返事をするマリーは、自らが率いる精鋭艦隊の仕上がりに満足しているようだった。
俺がお忍びで旅をしている時に設立した艦隊が元になり、今ではマリーの精鋭艦隊になっていた。
「現地の艦隊もしっかり指揮しろよ」
「お任せ下さい。――それからリアム様」
マリーが何かを願い出る前に、俺は答えてやる。何を望んでいるか、最初から知っているため聞く必要すらない。
「今回の戦いで勝利した暁には、お前もナンバーズ入りだ」
俺の応えは間違っていなかったようで、マリーが静かに闘志を燃やしていた。
対抗意識を持っている相手は、間違いなくティアだろう。
だから、念のために釘を刺しておく。
「――お前がティアと張り合っているのは知っている」
「は、はい」
ティアの名前を出され、狼狽えているマリーを睨み付けた。
こいつらは、適度に叱っておかないと暴走するのが問題だ。
「今回は大人しくクラウスの命令に従え。ティアにもお前の邪魔をするなと伝えてある。――この戦いで足の引っ張り合いをして、俺を失望させるなよ」
負けるとは思っていないが、それでも勝利にケチが付くのは頂けない。
マリーが気を引き締めたのか、真剣な表情を見せた。
「はっ!」
「それでいい。――それから、出発前にロゼッタとエドワードの所に顔を出しておけ。ロゼッタがお前を気にかけていたからな」
「あ、ありがとうございます」
◇
帝国首都星より出発した征伐軍は、バンフィールド領に近付くにつれてその数を更に増やしていた。
途中立ち寄った帝国領の惑星で補給を行うのだが、保管しているほとんどの物資を吸い上げていく。
六百万隻の大艦隊を維持するために、その何倍もの宇宙船や宇宙戦艦が動き回っていた。
そして、途中で立ち寄った惑星で、クレオは歓待を受けていた。
「皇太子殿下にお立ち寄りいただき、当家は大変光栄でございます」
「そうか」
装飾された豪華な椅子に座り、子爵が用意した極上の酒を飲む。
一杯だけでも高額な酒は、子爵家の領民が一生働いて得られる金額と同等の値段がする。
それを居並ぶクレオを支える貴族や軍の関係者たちが、次々にボトルを空けて味わいもせずに飲んでいく。
クレオも一気に飲み干すが、近くの席に座っていたハンプソンは味わいつつ飲んでいた。
粗暴な態度に似合わないと思いながら、クレオは問い掛ける。
「ハンプソン、お前はもっと荒々しい男だと思っていたんだが?」
困ったように微笑むハンプソンが、チラリと子爵を見た。
子爵は次々に消費される高価な酒やら料理を前に、やや青い顔をしている。酒や料理だけではない。
帝国は代金を支払うが、領内の備蓄していた物資などが根こそぎ奪われていく状況だ。
まともな領主ほど、胃の痛い思いをする。
代金でどこからか買い集めればいいのだが、既に帝国では物価が高騰している。
下手をすればマイナスになるだろう。
それを知っているハンプソンは、子爵に向かってグラスを向けた。
「歓待に感謝するぞ、子爵。貴殿のことは覚えておこう」
「ありがたきお言葉でございます」
深々と頭を下げる子爵をクレオは不思議そうに見ていた。
ハンプソンは言う。
「皇太子殿下には、田舎領主のお気持ちが理解できないようだ。バンフィールドから教わらなかったのですかな?」
リアムを思い浮かべたクレオはムッとする。
「俺と出会った時には、奴は既に大金持ちだったからな」
「そうですか」
ハンプソンは、それ以上クレオに何も言わなかった。
クレオに辺境領主の気持ちが理解できたところで、帝国は何も変わらないと理解しているからだ。
会話にトライドが加わってくる。
「それにしても、六百万の大軍勢が動くというのは凄いですね。立ち寄る惑星の全てで、物資を吸い上げていってしまう。中には暴れている者たちもいるようですが?」
トライドの視線が向かう先にいたのは、コズモ大将だった。
気付いているのに、とぼけたふりをする。
「悪い奴らもいるもんだな」
立ち寄る惑星で略奪行為を行っているのは、クレオも知っていた。
「コズモ大将、本命を前に稼ぎすぎるなよ」
ただ、追求するつもりはないらしい。
コズモは上機嫌で酒を飲み干した。
「皇太子殿下のご命令とあれば!」
多少のお目こぼしを許されたと思ったのだろう。
その近くに座っていたダスティンは、出された料理を行儀よく食べていた。
「――皇太子殿下。わしから一つ頼みがあるのじゃが?」
「何だ?」
「あのリアムは討ち取れずとも、その直弟子の首は欲しい。ローマン剣術を世に知らしめる絶好の機会じゃからな。――エレン・セラ・タイラーという騎士がいたら、わしに知らせて欲しい」
一閃流に勝ったローマン剣術と、世に売り出したいと申し出た。
クレオはそれを受け入れる。
「好きにすればいい。成功した暁には、お前の弟子を剣聖に推薦してもいいぞ」
推薦されて剣聖になれば、ローマン剣術は帝国でメジャーな剣術になるだろう。
二大剣術を押しのけ、最強という看板が見えてきた。
ダスティンは唇を舌で舐める。
「その時は一番弟子をお願いしましょう」
◇
バンフィールド家の宇宙港。
俺が乗り込む総旗艦【アルゴス】には、次々に人員が乗り込んでいた。
愛機であるアヴィドも積み込まれ、出発の時が迫る。
宇宙港には天城を始め、ブライアンや――ロゼッタとエドワードの姿もあった。
天城やブライアンが二人の後ろに控えて、ロゼッタが俺に抱きついてくる。
「ご武運を」
俺もいつものように案内人に祈ろうかと思っていると、脚にエドワードが抱きついてきた。
「父上、ご武運を」
見上げてくるエドワードは、ロゼッタを真似たのだろう。
自分が何を言っているのか理解している様子はなく、そして俺がどこに向かうのかもわかっていないようだ。
困ったので頭に手を置いた。
「――まぁ、任せておけ」
二人から離れて、逃げるようにアルゴスへと向かう。
一度だけ振り返って天城を見れば、隣でブライアンがドン引きするくらい泣いていた。
天城は俺の視線に気付くと、軽く会釈をする。
手を上げて応えた俺は、颯爽とアルゴスに乗り込んでやった。
ツライアン(´;ω;`)「リアム様ぁぁぁ!! このブライアンは、リアム様がピンチで辛いです!!」
若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「聞いて、聞いて! 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】の【アニメ】は、ついに原作一巻の山場を迎えるわ。最速で明日の日曜日に視聴できるようになるから、楽しみに待っていてね! 原作小説10巻の表紙も公開されたから、チェックしてね! 今回はアンジェちゃんメインのお話になるの。完全書き下ろしってやつね!」
ツライアン(´;ω;`)r鹵~<≪巛;゜Д゜)ノ ウギャー「今回は何もしてないのにぃぃぃ!!」
ツライアン(´;ω;`)「リアム様のピンチが辛いです」