悪徳領主のプレゼント
俺は星間国家の悪徳領主! 1~3巻 が 好評発売中です。
書籍版はWeb版より加筆され増量され、様々なエピソードが追加されています。
感想で人気を感じるのは、量産型のメイドロボ達ですね。
彼女たちが日頃どのように屋敷で過ごしているのか、書籍版でお楽しみください。
将来的に帝国とは戦うと決めた。
それはいい。
それはいいのだが――俺には目の前に大きな問題が残っていた。
帝国との問題よりも、こっちの方が俺としては悩ましい。
「あ~、お前たち。それはそうと、もう一つ相談がある」
帝国と戦うと決めたばかりだ。
部屋にはクラウス達が残っており、興奮冷めやらぬという様子である。
もっとも、クラウスだけは普段通り落ち着いている。
本当にこいつは頼もしい限りだ。
相談があると言うと、食いついてくるのはティアだった。
「ご相談でございますか? その内容は?」
先程までは「どうせ皇帝が真の敵だし、いっそ帝国はもらうか」と軽いノリで決断した。
ただ、意外なことにクラウスが明確な数字を提示してきたことで、より現実的に取れそうな気がしてきた。
やっぱりクラウスは優秀だな。
しかし、こんな重要な決断を簡単にする俺でも、悩ましい問題というのは存在する。
「――ロゼッタだ」
「は?」
「だから、ロゼッタだよ! 惑星シャルローを手に入れたから、プレゼントしようと思ったんだ。も、問題ないだろうか?」
俺もこの世界に生まれて一世紀以上の時が過ぎた。
この世界の価値観というのはおぼろげながら理解しつつある訳で、今までが質素すぎたのではないか?
そう思うようになった。
だからこう考えた。
――惑星シャルローをプレゼントしたら、この世界でも十分通用する贅沢ではないか、と。
「惑星一つをプレゼントだ。結構な贅沢だと思わないか?」
俺の案に対して、ティアは引きつった笑みを浮かべている。
「と、とても素晴らしいお考えです。わ、惑星をプレゼントなど、流石はリアム様です!」
――どう見ても無理矢理喜んでいるようにしか見えない。
先程までは心から「流石はリアム様です!」と言っていた奴が、今は「さ、流石です」と視線を泳がせている。
マリーを見ると、俺から視線をそらしながら答えてくる。
「我らの発想が及ばない素晴らしい案でございます! た、ただ、常識からも僅かに外れているかと」
マリーに常識を疑われた俺は、ククリに視線を向けた。
ククリは視線をそらさないが、俺の案をオブラートに包んだ表現をする。
「リアム様にのみ許された素晴らしい贈り物でございます。しかしながら、惑星を手に入れれば当然のように管理する義務が発生致します。放置して賊でも住み着こうものならば、ロゼッタ様に責任が及びます」
「そ、そうか。――クラウス?」
助けを求めるようにクラウスを見れば、何故か少しハッとしていた。
まるで今までの話を聞いていなかったような態度だ。
「おい、俺の話を聞いていたのか?」
「い、いえ、その」
クラウスが言い淀んでいるのを見て理解する。
どうやらこの世界の価値観を未だに理解できていないようだ、と。
惑星をプレゼントはやり過ぎだったらしい。
「――分かった。シャルローやグリン男爵家の本星は俺が管理する。それで、だ。ロゼッタに何を贈ればいい?」
再び尋ねると、マリーから指摘が入る。
「結婚式の前に必要な品は全て贈っておりますが?」
「そ、そうじゃねーよ。普通のプレゼントだよ」
「ふ、普通のプレゼントで惑星を考えておられたのですか?」
四人が俺を見る目は、どこか「この子駄目な子だ」という可哀想な視線だった。
お前ら、雇い主に対していい度胸だ。
「もういい、俺は寝る!」
四人を部屋から追い出そうとすると、クラウスが通信を受け取る。
そして、クルトの名を出してきた。
「リアム様、クルト様から緊急の報告があるとのことです」
「クルトから?」
◇
『――リアム、すまない。セシリア皇女殿下との結婚は破談に出来ない』
「帝国が許さないからな。気にしなくて良いぞ」
クルトが俺に緊急連絡を入れてきたのは、婚約者となっているセシリア皇女についてだった。
クレオにとっては同腹の姉になるため、他の兄姉たちよりも繋がりの強い相手だ。
俺とクレオが敵対したため、クルトも気を遣っているのだろう。
「お前は俺につくんだろ?」
『――そうだね』
モニターの向こうで暗く沈んだ表情をするクルトを見て、俺よりも帝国を選ぶつもりかと勘ぐっていると――クルトから提案をしてくる。
『リアム、実は頼みがあるんだ。君のクローンのことは知っているよね?』
「報告で聞いた。カルヴァン曰く、クレオが主導した計画らしいな。どっちでもいいが、俺や一閃流をコピーしようなんて身の程知らずだ」
『彼女の処遇は?』
「一閃流のものまねも下手くそで脅威じゃないが――俺の模造品は必要ない」
言い切ると、クルトは悲しい目をする。
『頼みがある。彼女を僕に預けてくれないだろうか?』
「どういう意味だ?」
クルトがどうして俺のクローンを欲しがるのか?
アヴィドの偽物を操縦できるくらいには優れているらしいが、騎士としてのスペックは高くても中身は子供という話だ。
使い勝手が悪いため、側に置くメリットがない。
ただ、クルトは同情しているらしい。
『戦うためだけに生み出された。このまま放置すれば、彼女はリアムの言う通り処分されて終わりだ。そんなのは悲しすぎる』
「あいつだけが可哀想? 世の中には掃いて捨てるほど可哀想な人間ばかりだ」
俺の言葉にクルトは言葉を詰まらせる。
――そうだ。前世の俺もその可哀想な人間の一人だった。
誰も救いの手を差し伸べてはくれなかった。
だから――クルトが興味を持った俺のクローンが、少しだけ羨ましくも思える。
「まぁ、いい。好きにしろ。だが、そいつの機体はこちらで回収する。――天城に予備機の存在を知られてしまったからな。持ち帰らないと叱られる」
第七兵器工場に量産機の予備を建造させたのは、いずれ弟子のエレンにも与えるためだった。
秘密裏に建造させていたのに、カルヴァンのおかげで暴露されてしまったわけだ。
領地に戻ったら、また天城に叱られてしまう。
正直、結婚と同じくらい気が重い。
『機体の方はもちろんだけど、本当に良いのか?』
「お前とは友達だと思っている。これからも仲良くしようじゃないか」
俺のクローンの何が気に入ったのか知らないが、クルトがこれで恩を感じるなら安いものだ。
『あぁ、もちろんだ。いや、断られても関係を崩すつもりはなかったんだけどね』
「そうか」
これでエクスナー家は決起の際に仲間になってくれそうだな。
まぁ、世の中に絶対などあり得ない。
今後ともエクスナー家とはいい関係を続けるために、色々と骨を折るとしよう。
『それはそうと、リアムが結婚式の準備を進めていたなんて驚いたよ。二年以内に戦争を終わらせたのは、ロゼッタのためだったんだね』
明るくなったクルトが、急に俺をからかってきた。
「お、俺は予定を変えられるのが嫌だっただけだ! もう切るぞ。お前も式には絶対に来いよ」
『もちろんだよ』
通信を切る俺は、深い溜息を吐いた。
「――別にロゼッタのためじゃない」
誰に対しての言い訳なのか、俺にも判断が付かなかった。
◇
バンフィールド家の本星。
旗艦アルゴスが大気圏を突破して帰還を果たせば、港には大勢の人間が俺を出迎えていた。
空中に投影されたのは、俺の帰還を喜ぶ文章だ。
俺が歩く道は赤いジュウタンが敷かれ、床が動いているため歩けばかなりの速度で移動が出来る。
乗り物に乗った方が早いのだが、俺の無事な姿を領民たちに見せる必要があった。
専用の通路はガラス張りのように透明で、俺の姿がどこからでも見えるようになっている。
俺が戻るだけで大喜びしなければならない領民たちは、何と憐れなことだろう。
絶対的な権力を持つ俺に媚びるしかない領民たちを見ていると、世の中は理不尽だとよく理解できる。
不敵な笑みを浮かべ通路を抜けると――。
「ダーリン!」
「止めろよ!」
――ロゼッタが跳びかかってきた。
先程まで悪徳領主らしく振る舞っていたのに、ロゼッタが気の抜けるような呼び方をして抱きついてくるから全てが台無しである。
俺に抱きついて喜ぶロゼッタを見て、周囲の護衛達も苦笑いだ。
マリーなどむしろ嬉しそうにしている。
「ロゼッタ様、はしたないですわよ」
ティアは周囲に目を向けていた。
「関係者ばかりですから問題はありませんけどね」
ロゼッタが俺に抱きついたまま、泣いて無事を喜ぶ。
「本当に無事に帰ってきてくれてよかった。最初は劣勢と聞いて、本当に怖くて」
「俺が負けると思ったのか? あり得ないな」
「信じていたわ。でも、ダーリンがいなくなったら私は――」
何しろ俺には案内人の加護がある。
カルヴァン程度に負けていては、真の敵――バグラーダには勝てないだろう。
ただ、気になることもある。
案内人は俺に真の敵の存在を知らせた際に、随分と焦っているように感じた。
実際にバグラーダも人外に足を踏み入れている様子がある。
一閃流は人外との戦いのため生み出された流派であり、対抗できるとは思っているが――やはり鍛えるべきだろう。
――三十年。
それまでに俺は帝国と戦える力を手に入れる。
「無用な心配だ。それよりも、あれだ。――あまり時間がない」
俺がそう言うと、控えていた天城とブライアンが前に出てくる。
「式の準備は整っております。旦那様、無駄にならずよかったですね」
「このブライアン、リアム様が式の準備を進めていたことに感動しましたぞ!」
――二人の話を聞いて周囲が「え、このためだったの!?」と驚いている。
お前ら止めろ。
俺を辱めるな!
黙り込むと、今度は達成感を出したウォーレスが前に出てきた。
前髪を手で跳ねる仕草が腹立たしい。
「出発前にこの私に結婚式の準備だけは進めろと念を押してきたからね。リアムのために、盛大な結婚式を用意したよ」
サムズアップするウォーレスだが、周囲は俺を見て「あらあら」と微笑ましそうな顔をしている。
これでは俺のイメージが崩れてしまうじゃないか!
悪徳領主として頑張って築いてきた俺のイメージが、今では恋人のために色々と頑張っている男になっている。
そんな評価は許されない。
「ロゼッタのためじゃない。俺のためだ。分かったらさっさと準備に取りかかれ!」
怒鳴ってやると全員が騎士礼やら敬礼――とにかく、一斉に返事をする。
「はっ!」
息のあった家臣たちの態度に、何だか無性に腹が立ってきた。
何故か俺を見る家臣たちの目が、畏怖ではなく可愛いものを見るような目をしている。
こんなの絶対に許されない。
ブライアン(; ・`ω・´)「つ、ついにこの時が! このブライアン、明日が待ちきれませんぞ」
普通の汚い若木ちゃん( ゜д゜)ノ「そんな時は書籍版【俺は星間国家の悪徳領主! 3巻】を読んで待てばいいのよ。三巻を読んで、ロゼッタとの出会いを復習しておくのをお勧めするわ」
汚い若木ちゃん( ゜∀゜)「一番良いのは私、聖なる樹の苗木ちゃんが活躍する 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です】 を読むことね。書籍版はパワーアップして、新キャラも追加。そして可憐で可愛い私ももちろん登場するわ。――喋らないけどね。でもでも、きっと楽しめること間違いなしよ! さぁ、みんな書店が無理なら電子もあるわよ。買うなら今! しかもアンケートを答えるとオマケで――」
ブライアン(´;ω;`)「宣伝の熱の入り方が違いすぎて辛いです」