皇帝
五月の連休に
「俺は星間国家の悪徳領主! 1~3巻」
※安心の爽快感を味わいたい読者さん向け
「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 1~7巻」
※爽快感+主人公が逆境に挑む展開が好きな読者さん向け
「セブンス 1~10巻」
※ドロドロしたハーレムや、ヒドインを楽しみたい読者さん向け
はいかがでしょうか?
グリン男爵の本星上空。
旗艦アルゴスの大会議室には、マイアット子爵を呼びつけていた。
後ろ盾であるカルヴァン派の貴族達がいないため、借りてきた猫のように大人しい。
冷や汗を流し、俺たちクレオ派の貴族たちの前で縮こまっている。
「マイアット子爵、おめでとう。お前の勝利だ」
俺が率先して拍手をしてやれば、強面の貴族たちも続いてパラパラと拍手をする。
だが、マイアット子爵は怯えていた。
とても勝利した男の姿ではない。
それも当然か?
表向きは領土の奪い合いだが、これは次代の皇帝を決める重要な戦いだ。
領土争いはカルヴァン派に軍配が上がったが、主力のほとんどを失って後継者争いには敗北している。
マイアット子爵も事情は知っており、喜べないのだろう。
「こちらはグリン男爵の救助が間に合わず、戦闘の最中に殺されてしまった。いや~、君たちの戦いぶりには感心したよ」
グリン男爵を殺したのは俺だ。
正確にはティアに命令しただけだが、決定は俺が下している。
マイアット子爵はボソボソとか細い声を出す。
「き、貴殿らがグリン男爵をやったのだろうに」
「言いがかりだ。俺たちはグリン男爵を助けようとしたが、一歩及ばなかっただけだ。そうだろ?」
威圧的に同意を求めれば、マイアット子爵は頷く。
それしか選べない状況だからな。
拒否すればマイアット子爵家も消えるだけだ。
「さて、戦後処理といこうじゃないか。グリン男爵家は敗北して領地を失った。当主は戦死、領地もない。グリン男爵家はこのまま取り潰しで問題ないな?」
周囲に尋ねれば、全員が頷くなり興味もなさそうな態度を見せる。
そもそも、他領の領土争いなど興味もない連中だ。
何しろ懐はまったく潤わないからな。
「喜べ、マイアット子爵。今日からグリン男爵家の本星はお前のものだ」
「こ、このような惑星を手に入れても維持できません。そもそも、グリン男爵家の借金まで背負わされるのは納得できない」
荒れ果てたグリン男爵家の惑星だが、当然のように莫大な借金もセットになっている。
そのため、マイアット子爵はいらないと言いだした。
「勝利したのはお前だ。心置きなく手に入れればいい。放り投げても無駄だ。何しろ、グリン男爵家は滅んだからな。お前が滅ぼしたんだ」
「そ、それは」
責任者不在で、その理由はマイアット子爵家が滅ぼしたから――となれば言い逃れは出来ない。
帝国はマイアット子爵に責任を取らせるだろう。
青ざめるマイアット子爵だが、俺はここで条件を出す。
「シャルローを寄越せ。そうしたら、男爵家の本星も借金も俺が受け取ってやるよ」
マイアット子爵はこの提案に飛び付いた。
◇
首都星。
代理戦争の詳細が手に入ったカルヴァンは、クレオを呼び出していた。
「最後に聞かせてくれ。お前の予想通りだったか?」
この後に及んで恨みを言うつもりはなく、カルヴァンは純粋に気になっていた。
だが、クレオはカルヴァンを前に涼しげな表情で本音を語る。
「この結果は予想外でしたよ。まさか、俺の親衛隊を殲滅するとは思いませんでした」
「――彼に知られてしまったようだね。さて、これからどうするつもりだ? バンフィールド家は帝国最強に上り詰めたぞ。皇太子になり、いずれ皇帝になるお前でも彼を好きには出来ないぞ」
「俺の家臣を殺したんですから、相応の報いは受けてもらいますよ」
クレオの答えを聞いてカルヴァンは自嘲する。
「その程度のお前に負けるとは――やはり、私の敵はバンフィールド伯爵だけだったな」
「どういう意味ですか?」
クレオが不快感を示すが、カルヴァンは恐れなかった。
理由は、カルヴァンの身柄はリアムに預けられると決定しているからだ。
クレオが何を言おうが、リアムはきっと聞き入れないだろう。
「やはりお前は皇帝になるまで大人しくするべきだった。これから先、彼はお前を敵として扱うぞ。油断させておけば可能だった手段が使えないばかりか、逆に警戒しなければお前が追い落とされるだろうな。彼なら、それこそ面倒を見ているセドリックでも担いでお前と勝負をしても勝てるだろうさ」
リアムを倒したいなら、大人しくしておくべきだった。
そう言われてクレオが眉間に皺を寄せるが、カルヴァンは天井を見上げる。
「お前は早まったのだ。いや、それは私も同じか? あの時、自ら出向いて頭を下げていれば、私の地位は安泰だっただろうに」
リアムを派閥に組み込もうと呼びつけたことを思いだしたカルヴァンは、まさかこんなことになるとは当時は思いもしなかった。
カルヴァンは立ち上がる。
「クレオ、父上がお呼びだ。今後はお前が継承権第一位の皇太子だよ。おめでとうと言わせてもらおう」
◇
クレオが謁見の間に向かうと、リシテアも付き添った。
「父上と面と向かって話せるなんて、クレオもついに上り詰めたな!」
リシテアにとっても皇帝は父親だが、遠目に見るばかりで会話などろくにした覚えがない。
まして、冷遇されていたのだから他の兄姉たちよりも扱いは悪かった。
クレオは口元に笑みを浮かべる。
「俺が皇帝になったら、とりあえず姉さんに男性を紹介しますよ。素敵な貴公子が選り取り見取りですよ」
そう言われてリシテアが顔を赤くしながら、嬉しそうにする。
「そ、そうか? それは嬉しいな。そうか。私も結婚できるのか。セシリア姉さんが結婚できるからそれでいいと思っていたが、余裕が出来たら私もしたいな」
リシテアはいつ死ぬか分からない状況から解放され、少し浮かれていた。
クレオはそんな姉の姿を見て思う。
(ようやくここまで来た。後は問題なく帝位を受け継ぎ、俺がこの国を支配する。リアム――お前は大貴族に上り詰めたが、俺はこの国の皇帝だ。そうなれば、お前だって恐れる必要はない)
謁見の間に近付くと、ここでクレオのみ入室となる。
一人になって奥へと進むと、大国である帝国に相応しい豪華な謁見の間が広がっていた。
謁見の間と呼ばれているが、ほとんど外である。
野外なのは、天候がコントロールされているため屋根を用意する必要がないためだ。
人工太陽の温かな光に照らされ、皇帝陛下――【バグラーダ・ノーア・アルバレイト】に謁見するクレオは――酷い寒気を覚えた。
(な、何だ? これが皇帝陛下なのか?)
椅子に座ったバグラーダは、人の良さそうな三十代手前の男性の姿をしている。
肩まで伸びた髪は余裕を持たせ後ろでまとめている。
体付きはクレオよりも背が高くしっかりしており、騎士としても相応の実力があるように見えた。
一見するとニコニコとした優しそうな男性だが――とても不気味に見えた。
「お、お久しぶりです、皇帝陛下。お呼びと伺いこうして参上しました」
すぐに顔を下げてバグラーダを見ないようにする。
クレオは冷や汗が噴き出て、頬を伝って床に落ちた。
バグラーダは容姿と同様に優しそうな声色で答える。
「カルヴァンを倒したそうだね。まさか、クレオがこうして皇太子になれるとは思っていなかったよ。このままなら、引き継ぎなどを考えても三十年ほどでクレオが皇帝に即位できるだろうね」
正直に答えるバグラーダにクレオは色々と言いたいことがあった。
遊びと称して自分を第三皇子に任命したことも――性転換を許さなかったことも。
そう、クレオは女性だった。
これまで男性と偽り暮らしてきたのも、全てはバグラーダのお遊びだ。
普通に暮らしていれば気付かれるだろうが、クレオは後宮暮らしだ。
見た目はスーツなどである程度カバー出来るし、周囲にいるのは身内ばかりで気にする機会は少ない。
だから、皇太子の地位を手に入れたクレオは、性別の問題を片付けたかった。
「それについて一つお願いがございます」
「駄目だよ」
まだ何も言わない内に、バグラーダはクレオの申し出を拒否した。
「性転換をしたいのだろう? それをしたら、私はお前を廃嫡するよ」
「ですが、男性の方が色々と都合がいいのも事実です。皇太子としての公務もありますし、その間だけでも」
「駄目だ。お前が嫌がる顔が見られないじゃないか。さぁ、顔を上げて私にお前の綺麗な顔を見せておくれ」
からかうようなバグラーダの命令に従い顔を上げると、そこには微笑んでいる美男子の姿があった。
だが、何故か禍々しさを感じてしまう。
バグラーダがクレオを見て微笑みながら、話をする。
「ところで、後ろ盾のバンフィールド家と仲違いをしたそうだね」
「――彼に代わる貴族たちの後ろ盾は得ています。続々と面会希望者達も現れ、もはや彼の後ろ盾は必要ないかと」
「あぁ、別にそれはどうでもいいんだよ。麒麟児と噂の彼には何度かこの場所で面会しているが、話す機会がなくてね。一度連れてきておくれ」
バグラーダがリアムと何を話すのか?
クレオは気になったが、理由を聞けるような雰囲気ではなかった。
優しい口調ではあるが、バグラーダは拒否を許さないように思える。
「首都星に来たらすぐに連れて参ります」
「頼むよ、私の可愛いクレオ。彼とはゆっくり話がしたかったんだ。次期皇帝の地位を巡る争いの中で、彼は見事に帝国貴族のトップに立ったからね」
クレオがこれまで倒してきた候補者たち。
カルヴァンやライナスといった皇子たちには、いずれも大貴族が後ろ盾に付いていた。
それも、実力者達ばかりだ。
クレオを見事に皇太子にしてみせたリアムは、彼らを押しのけて帝国一の大貴族になっている。
クレオが皇太子になったのではない。
リアムが選んだ皇子が、皇太子になったという話だ。
クレオは俯き奥歯を噛みしめる。
それを見たバグラーダは、目を細めて弓なりにすると意地の悪い笑みを見せる。
「バンフィールド伯爵が嫌いかな? お前を皇太子にまで押し上げてくれた彼が、憎くて仕方がないという顔をしているね」
図星を突かれたクレオは、一瞬驚くも取り繕う。
「そこまでではありません。ご命令とあれば今後は仲良く――」
どうせ自分とリアムの仲を帝国のために仲裁するのだろう。
そんな予想をしていたクレオだが、バグラーダは意外な反応を見せる。
「不要だ。手を取り合うなどしてくれるなよ」
「――え?」
クレオが逆に戸惑うと、バグラーダは立ち上がった。
そしてクレオを褒め称える。
「それでこそ帝国の皇太子だよ。お前こそ次の皇帝に相応しい。自分を誠心誠意後押しした仲間を妬み、追い落とそうとするお前を私は気に入っている」
「陛下?」
「これからも私を楽しませておくれ、愛しい我が子よ」
◇
謁見が終わり、クレオはフラフラと自宅のある後宮へと戻った。
心配するリシテアに付き添われたが、今は一人でベッドの上にいる。
男性に変装するためのスーツを脱ぎ捨てると、クレオの胸には手に収まる程度の膨らみがあった。
その体付きも普段より小さく見えるのは、細く女性らしい曲線が目立つからだろう。
右手を上げるクレオは、空中で何かを掴むような仕草をする。
皇帝バグラーダとの謁見では酷く精神的に消耗したが、その表情には希望があった。
「――リアム、お前は皇太子にする人間を間違えたな」
クレオは正式に皇太子となるが、同時に今後はリアムと政敵になる。
敵に回すと厄介極まりない相手ではあるが、戦えることにクレオは興奮を覚えていた。
「お前に勝つのは俺――いや、私だ」
◇
アルグランド帝国アルバレイト王朝。
元々皇族はアルグランド姓だったが、途中でアルバレイト姓に変更になった。
まぁ、血で血を洗うようなドロドロした展開が繰り広げられ、分家のアルバレイトさん一家が途中で皇帝になったと思って欲しい。
そうして何千年と歴史が続いた帝国の現皇帝――バグラーダを前にしていた。
以前にも面会はしていたが、会話が出来る距離まで近付けるようになっている。
これはつまり、俺が帝国でどれだけ重要人物かという指標にもなっている。
その他大勢ならば、謁見の間には入れても皇帝陛下には近付けないからな。
バグラーダは俺に拍手を送ってくる。
「よくカルヴァンを倒せたね。カルヴァンを支えていた大貴族たちも下し、これで名実ともに君が帝国一の大貴族だよ」
「もったいないお言葉です」
殊勝な態度を見せる俺だが、内心では皇帝陛下に――いや、バグラーダに腹が立っていた。
「それから、クレオと喧嘩をしているそうだね?」
クレオの親衛隊を殲滅したことを、喧嘩と呼べばそうだろう。
こいつにとっては、俺たちの争いは喧嘩程度に見えるのか?
「皇太子殿下の親衛隊に裏切り者がいましたので」
「それは残念だね。謁見が終わったらクレオと話をするといい。今後もクレオを支えてくれると嬉しいよ」
ニコニコした好青年に見えなくもないバグラーダだが、俺は気付いてしまった。
「今後も帝国に変わらぬ忠誠を誓います」
「バンフィールド伯爵がいれば帝国も安泰だね。いや、あのクラウディア家を取り込むとなれば、すぐに公爵かな?」
「はい。領地に戻ればすぐにでも」
「それはめでたいね」
「ありがとうございます」
笑顔のバグラーダの後ろには、ドス黒い何かが見えていた。
気持ちの悪いベトベトした醜悪な気配。
近付いたことで、俺の中の予想は確信に変わる。
以前から思っていた案内人の「真の敵」発言。
少し前に高確率で皇帝が怪しいとは感じていたが、バグラーダのまとう常人とは思えない黒いオーラで決定的になった。
師匠の実力に近付いた今の俺だから気付けたようなものだ。
俺の真の敵は――アルグランド帝国皇帝で確定した。
ブライアン(; ・`ω・´)「リアム様、違います! 真の敵などおりません。いたいとしても真の敵は案内人でございます! リアム様、お願いだから早く気付いて!」
綺麗な若木ちゃん(゜∀。)「【俺は星間国家の悪徳領主!】は 1~3巻 までが好評発売中だよ! 今回も加筆でボリュームアップだよ。買ってね!」