偽物
俺は星間国家の悪徳領主! 1~3巻が好評発売中です!
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クレオの親衛隊が率いる艦隊を殲滅している最中だった。
ブリッジでオペレーターが困惑した声を上げる。
「大気圏を離脱してくる機動騎士が二機! こ、これは」
困惑したオペレーターに、参謀将校が怒鳴った。
「早く報告しろ」
「アヴィドの反応を確認しました!」
「何だと?」
ブリッジにいる全員の視線が俺に注がれる。
俺は小さく息を吐いてから、ヤレヤレと立ち上がった。
「カルヴァンに盗まれた量産機だ。俺が取り返してくるか」
背伸びをすると、側にいたユリーシアが俺を止めようとする。
「ま、待ってください。わざわざリアム様が出撃する必要はありませんよ」
「馬鹿を言うな。アレは俺のだ!」
オリハルコン、アダマンタイト、ミスリル――その他諸々の希少金属が使用されたアヴィドの量産機は、並の相手では太刀打ちできない。
もっとも、そんなアヴィドを運用するのは非常に難しい。
整備性に問題を抱えているのもあるが、有効ならばとっくに軍が採用している。
軍が採用しないだけの理由がちゃんとある。
「それよりも、カルヴァンは気が利いていると思わないか?」
「え?」
カルヴァンを褒める俺をユリーシアは意外そうな顔で見ているが、俺はあいつを敵として認めている。
何しろ、俺に苦渋を味わわせたのはあいつくらいだ。
そんなカルヴァンとの争いも終わると思えば、少しばかり寂しい気持ちになる。
「アヴィドの出撃用意をさせろ。量産機のスペックを実戦で確かめてやる」
◇
グリン男爵家の本星周辺では、クレオ派が同士討ちを始めていた。
リアムから艦隊を借り受けたマリーが、親衛隊が指揮する艦隊――二万隻に襲いかかっている。
マリーはブリッジから指揮を執りながら、逃げる親衛隊に容赦なく攻撃を仕掛けていた。
「全て破壊しなさい。リアム様は殲滅をお望みよ。一隻たりとも逃がしてはならないわ」
司令官のシートに座り、脚を組んでモニターを眺めている。
親衛隊の方は混乱の極みにあった。
まとまりのあるバンフィールド家に対して、親衛隊は散発的な反撃を行うばかりで次々に撃破されていた。
『バンフィールド伯爵! こちらは味方だ。我々はクレオ殿下の親衛隊である。すぐに攻撃を中止されたし!』
モニターに映し出される司令官は、自分たちは味方であると何度も伝えてくる。
だが、マリーはそれを聞いて口角を上げて笑っていた。
「それは残念ね。――恨むなら、自分たちの主人を恨みなさい」
『何を――』
モニターにノイズが発生すると、すぐに画面が黒く染まった。
旗艦を撃破したらしく、親衛隊は更に混乱を極めていく。
マリーの側にいた副官がその様子を見て、軽い口調で尋ねてくる。
「これでこちらも後戻りは出来ませんね」
「する必要はないわ。リアム様に逆らったのはあちらだもの」
クレオの親衛隊を殲滅したとなれば、理由があろうとリアムとクレオの間には大きな溝が出来てしまう。
副官がマリーに尋ねる。
彼はマリーと一緒に石化された騎士であり、同じく帝国を恨む人間だ。
「二千年前同様に、今度はバンフィールド家を冷遇するかもしれませんね」
「そうなれば今度こそ息の根を止めてあげたいわね。でも、今度ばかりは無理でしょうね。バンフィールド家はこれで帝国一の大貴族に上り詰めるわ」
帝国随一の経済力と軍事力。
そして、今度はロゼッタの実家であるクラウディア家から公爵位を譲り受ける。
そうなれば、リアムは地位も名誉も手に入れたようなもの。
その実力もあって、帝国で皇帝すら無視できない存在に手がかかっていた。
マリーは指を組む。
「後はリアム様のお気持ち次第ね」
クレオをどうするかもリアム次第と――余裕を見せていたマリーだが、オペレーターからの知らせに腰を上げる。
「し、司令。リアム様がアヴィドで出撃されました。偽物を討ちに行くから邪魔をするなと全軍に命令が出されました」
困惑するオペレーターだが、それはマリーも同じ――それ以上に混乱する。
「護衛部隊は!?」
「それが、一機で十分だと」
「――ど、どうしていつも。確かに大丈夫でしょうけど。でしょうけど!」
総大将自らが出撃する――言い換えれば、マリー達はリアムを出撃させてしまったということになる。
先程までの余裕も消えて、マリーは立ち上がったまま指示を出す。
「こうなれば速攻で敵を叩いてリアム様のもとに駆けつけるわよ。全艦、突撃用意!」
いつでもリアムの救援に向かえるように、マリーは目の前の敵を素早く殲滅することにした。
◇
アヴィドのコックピット。
操縦桿を握ると起動してモニターが周囲の状況を映し出す。
唸りを上げるエンジン。
だが、普段のような猛りはない。
むしろ好奇心を感じた。
「お前も気になっているのか?」
返事をするように唸りを上げるアヴィドは、こちらに向かってくる偽物――いや、兄弟機が気になっているようだ。
「さっさとご対面と行こうか」
アヴィドがほとんど自動で格納庫内を移動し、カタパルトへと移動する。
磁力や魔法を使って撃ち出す構造になっており、発進許可が出れば射出される。
空中に小窓が出現すると、オペレーターを担当するユリーシアの顔が出現する。
『総大将自ら出撃なんて普通はあり得ませんよ』
文句を言ってくるユリーシアに、俺は正しい認識をしてもらう必要を感じた。
「馬鹿か? これは戦争じゃない。お遊びだ。たった二機のアヴィドで、数十万の艦隊が撃破できるものかよ」
マシンハートを搭載した俺のアヴィドならともかく、兵器というのはどうしても補給と整備がなければ継続して戦えない。
いくらレアメタルを使用しても、いずれ限界が来る。
カルヴァン派の悪あがきに過ぎない。
「いいから撃ち出せ。アヴィドが五月蠅いんだよ」
『生きているみたいに言うんですね。少しくらい、私も可愛がってくださいよ』
「いや、アヴィドの方が可愛い――」
『射出します』
「あ、お前!」
アヴィドの方が可愛いと言い終わる前に、撃ち出されてしまった。
すぐに周囲の景色が宇宙に変わると、アヴィドがスラスターを噴かして偽物の方へと向かう。
随分と急いでいるが、それは俺も同じだ。
「さて、パイロットは誰だ?」
操縦に関しては難易度が高いのがアヴィドの特徴だが、敵はアシスト機能を採用しているかもしれない。
それでも、じゃじゃ馬と呼ばれる性能を持つアヴィドの兄弟機だ。
多少は操縦技術に優れていなければ、まともに動かせないだろう。
強いパイロットが出てくることに期待しつつ、敵を探すと――向こうも気が付いたらしい。
逃げ回る俺の艦隊を追いかけていたのは、白いアヴィドが二機。
「まるで正義の味方みたいだな。回線を繋いでやるか」
敵と会話をしてやろうと呼びかけるが、反応がなかった。
それどころか、二機がもの凄いスピードで俺たちの方に向かってくる。
「何だ?」
多少の違和感に眉間に皺を寄せると、アヴィドが後方に魔法陣を展開する。
最初は実力をみるためか、遠距離攻撃を行うつもりのようだ。
魔法陣からいくつもミサイルが放たれると、白いアヴィド達――白い奴らも魔法陣を展開する。
だが、まるで二機は一心同体のように背中合わせにアヴィドのミサイルを迎撃し始めた。
熟練したパイロット同士が長くペアを組んでいると、曲芸のような動きを見せると聞いたことがある。
しかし、目の前の白い奴らは違う。
アヴィドがレーザーブレードを持って距離を詰めようとすれば、二機も刀を模したブレードを持つ。
俺は咄嗟に操縦桿を握って主導権を奪うと、アヴィドを後退させた。
すると、僅かに斬撃が放たれた形跡を目視する。
「一閃を真似たのか?」
アヴィドから操縦を奪い、そのまま後ろ向きに飛びながら二機の動きを観察する。
パイロットの気配を感じない二機を見て、俺は気付いてしまう。
「あははは! カルヴァン、俺はお前が嫌いじゃないぞ!」
◇
光の尾が三つ、戦場で複雑に絡み合っていた。
一機が逃げ回り、それを二機が追いかけ三つの光が戦場を飛び回っている。
その様子を見守るバンフィールド家の艦隊だが――その一隻に乗るような形で案内人も見守っていた。
船外の宇宙空間で、拳を振り回している。
「そこだ、行け! リアムに突撃しろ!」
リアムの乗るアヴィドに迫る白いアヴィドが二機。
性能差はあるものの、現状では用意できる最高の機体だ。
せめて手傷は負わせて欲しいという案内人の祈りに答えて、白いアヴィド達が装甲板をスライドさせて放熱を開始する。
性能を爆発的に向上させるが、同時に機体への負荷が大きくなる切り札だ。
諸刃の剣。
カルヴァンもただアヴィドを用意すれば勝てるとは考えていなかったらしく、色々と切り札を仕込んでいた。
白い機体が青白い炎のような光を放ちながら、アヴィドに迫る。
「いっそそのまま自爆しろ!」
人工知能を搭載した二機の白いアヴィド達は、持てる全てを以って攻撃を開始する。
アヴィドの周囲が戦闘で発生した光に包まれると、案内人は絶叫した。
「ふははは! いくらお前でも無事では済まないだろう!」
リアムにダメージを与えたと喜ぶ案内人の後ろには――半透明の犬がいた。
態勢を低くして唸るような恰好をしているのは、案内人に対する怒りの表れだ。
今にも跳びかかり噛みつきたいのを我慢して、犬は戦っているリアムに視線を向ける。
かつて自分を可愛がってくれた主人。
不幸にも案内人に目を付けられ、人生を歪められてしまった男。
本来この犬は、前世でリアムが命を落とした際に迎えに行くはずだった。
それを邪魔したのが案内人だ。
「よし! よし!! これで少しはダメージが――え?」
しかし――犬の予想を超える出来事が起きる。
爆発に巻き込まれたアヴィドだが、その背中には光の巨人が姿を現していた。
アヴィドよりも更に大きいその姿は、リアムの力が具現化したものだ。
案内人にも――そして犬にも、コックピットで笑っているリアムの声が届く。
『気に入った! 妹弟子達の土産にピッタリだ。お前らの主人は今日から俺だ! アヴィド、弟たちを躾けてやれ』
リアムの命令にアヴィドがツインアイを赤く光らせ、白い機体をそれぞれ片手で掴む。
暴れ回る二機だったが、アヴィドのパワーに負けて逃げられないでいた。
「な、何をするつもりだ!」
案内人が叫ぶと、光の巨人がこちらに顔を向ける。
「ひっ!?」
見つかればリアムの感謝を押しつけられるため、案内人は帽子を手で押さえてそのまま逃げ去ってしまった。
犬がペッと唾を吐く仕草を見せて、案内人への嫌悪感を丸出しにする。
そして、リアムの方へ鼻先を向けると――何とも言えない顔をする。
アヴィドが二機を掴んだその両手から、光のラインが装甲に浮き上がっていた。
その光が二機を侵食して行く。
リアムは上機嫌だ。
『カルヴァン、お前は見る目があるぞ。人工知能に頼ったのは褒めてやる。だが、俺を倒すには力不足だったな』
アヴィドに搭載されたマシンハートが、二機を支配下に置くと人工知能が抵抗を止めた。
動きを止めて漂う二機を前に、カルヴァンへの礼を述べている。
『ありがとう、カルヴァン。結婚祝いの品としてもらっていくぞ!』
犬は思った。
妹弟子達に鹵獲した機動騎士を送るのは良いが、それを結婚祝いと呼んでいいものだろうか?
ロゼッタが関係ないため、ちょっと主人の感性を疑ってしまう犬だった。
『さて、楽しい戦後処理の時間だな』
ブライアン(´;ω;`)「結婚祝いが妹弟子達のプレゼント? リアム様、このブライアンはその判断はちょっとどうかと思いますぞ。色々と辛いです」
ブライアン(`・ω・´)「それはそれとして、書籍版【俺は星間国家の悪徳領主! 3巻】をよろしくお願い致します。Web版よりもパワーアップしたリアム様の活躍にご期待くださいませ。――え、年齢詐称の若木?」
ブライアン( ´・ω・`)「エルフに連れて行かれました。――次に登場する時はもっとうまく宣伝する若木になっているでしょう」




